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第105話 大型コラボ配信⑩

「……本当に静かだな」

「遠くから時折ゴブリンの声は聞こえるけどな……」


 周囲に警戒を払いながら、木の板で組まれた要塞の通路を慎重に進んでいく。

 最初の交戦を終えてからというもの、ここに至るまでゴブリンの襲撃に遭う事も無く、不安になる程に順調に進んできた。


(上空から確認した全体像を思い出す限りでは、そろそろ円形に整備された広場があったな……)


 雪の結晶のように広がった要塞は外周に無数の分岐点と広場、そして要所には兵士の詰所のような構造物が配備されており、中心付近には町のような居住区がある事を確認していた。

 町と言っても現代の地上に見られるような立派な物ではなく、建築の素人が図案も引かずに木材を雑に組んだような不格好な建造物群なのだが、それでもその存在はゴブリンの群れに歴とした社会構造が生まれていることの証左だ。これらの事からも、やはりここのゴブリン達を統べるのはゴブリンキングクラスの大物だと予感させた。


(ゴブリンは統率者の格が上がる程、高い知性と統制を獲得する魔物だ。この異様な静けさも、きっと何かしらの──)


 私がゴブリンの次の動きについて思案に暮れていると、ふとダイバーの声が響いた。


「──おい! なんかあるぞ!」


 声に視線を向けると、そこには私の記憶の通り、円形に整えられた広場があった。

 どうやら元々ここに生えている樹の幹を樹冠の中程で切り、広がった枝を支柱のようにして造られた広場のようだ。広場の中央には僅かに飛び出した樹の幹が、まるで小さな切り株のように僅かに突き出ている。

 そしてその広場には──


「これは……先ほどゴブリンが使っていた、矢の束ですか」


 地面は矢が散乱しており、いくつかはゴブリンが踏んづけたのか半ばでぽっきりと折れている。

 また、白樹を加工して作られた木箱が至る所に積まれており、その中に同じく白い樹で出来た矢が大量に収まっているのが解る。

 どうやらゴブリンが補給の為に奥の方から運んできて、ここに置いておいたのだろう。それが回収される事無く放置されたようだ。

 特に広場の奥には、まるで高い壁のように積まれた大量の木箱が存在感を放っていた。これだけの数の矢束を用意するのはかなりの時間を要しただろうに……


「よっぽど慌てて逃げたらしいな!」

「なるほどな、襲撃が来ないと思ったら……とっくに逃げ出してたって訳か」

「うわ、これ全部白樹製か!」

「これ箱ごと全部持って行こうぜ!」


 白樹と言う素材はその品質の高さと、下層に行けば比較的簡単に回収できる事から適性の価格がつけられない。

 つまり、下層以外での入手が非常に困難な素材である為、これらは今の彼等にとってはちょっとした宝に映っているのだろう。一部のダイバーが警戒もそこそこに、積み上げられた箱の方へと駆けだしていく。

 私はその事にやや不用心だなと感じつつも、彼らの分まで周囲の様子を注意深く観察していたのだが……


(──ん? ……この広場の様子、何かおかしいような……)


 それはちょっとした違和感だった。

 周囲の様子はまさにゴブリンが慌てて逃げだした事を表しているのに、それと矛盾する()()()()()を感じたのだ。

 そして、その正体には直ぐに気付く事が出来た。


(そうか……! ゴブリンが逃げた筈の通路が塞がれているんだ!)


 私達の視点からすればそれは先へと進む通路なのだが、広場からそこへと続く道が()()()()()で厳重に封鎖されていた。

 それもご丁寧に、こちらからは木箱を楽に乗り越えられないように綺麗に詰まれている。

 慌てて逃げ出したゴブリンが置いたにしては、その木箱があまりにもしっかりとしたバリケードとして機能しているのが私の抱いた違和感の正体だったのだ。


(逃げた後に積まれているにしては封鎖がしっかりしすぎている……つまり、ゴブリンは一体たりとも逃げていない! あの後、ゴブリンからの襲撃が無かったのは……!)


 このバリケードを設置するのは、広場側からでないと不可能だ。

 広場に散らばった矢や木箱の様子や、襲撃がぴたりと止んだ事からゴブリンは逃げたと一部のダイバーが誤認しているが、それは逆だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったのだ。

 慌てて逃げたような偽装工作を施したのは、()()()()()()()()だと気付かれるのを遅らせる為……そして、わざとらしく中身の矢が見えるように置かれた木箱は……


(──獲物をおびき寄せる餌か!)


 ──ゴト……


「っ! 危ない!」


 僅かな異音を聞き取った私が素早く彼らの襟元を掴んで引き戻すと同時に、彼らが駆け寄ろうとしていた箱の僅かな隙間から赤い液体が勢い良く吹き上がった。


(レッドスライム……ッ!)

「──【エンチャントヒート】、【ラッシュピアッサー】!」


 頭の上から飛び掛かろうと広がったゲル状の身体を、燃え盛るレイピアの連続突きで蒸発させることで大穴を穿つ。

 流石に一瞬と言う事もあり、大きく広がったレッドスライムの身体全てを蒸発させる事は出来なかったが……


「間に合いましたね……無事で何よりです」

「た、助かった……ありがとう」


 私達に直接覆い被さる範囲を重点的に蒸発させた為、とりあえず被害は防ぐ事が出来た。

 チラリと目視でも確認してみたが、飛沫一つも降りかからなかったようで何よりだ。


「ゴブリンの罠だと……!? くそっ、嘗めやがって!」

「落ち着いて! まだ来ますよ!」


 私達が大きな音を立てた所為だろう。他の箱からも大量のレッドスライムが溢れ出してきており、たちどころに周囲を包囲されてしまった。


(ゴブリンがレッドスライムを罠に使うなんて……)


 確かにスライムには知性と言う物が無い為、比較的こういった用途に使いやすいだろうが……それでも魔物である以上直ぐに捕まえられるものではない。

 つまり、ゴブリンは事前にこのレッドスライムを捕まえ、どこかに保管していたと言う事になるのだが……しかし、これではまるで……


(まるで、常日頃からこの要塞が攻め入られる状況を想定していたような……)


 脳裏に引っ掛かる物を感じたが、今はこの状況をどうにかするのが先決だ。スライムに囲まれた事もそうだが……


「皆さん、周囲に警戒を! このような罠が仕掛けられていて、ゴブリンが居ない訳はありません!」


 スライムが仕掛けられていた木箱の配置から、この罠の目的は私達の動きを阻害する事を重視している事が解る。

 現に私達は進路を木箱のバリケードに、退路をレッドスライムに塞がれており、この周囲から身を隠す事が難しい見通しの良い広場に押し込められてしまった。そして、上空から見たこの要塞の形も非常にマズい──


「おい! 向こうの通路から弓で狙われてるぞ!」

「こっちもだ! しかも、かなり多いぞ!!」

「周囲の樹上にも警戒しろ! ゴブリンスカウターも居る!」


 数人のダイバーが指差した先を目で追うと、木々の隙間からこちらを狙うゴブリン達がずらりと整列して弓を構えているのが見えた。

 そしてそれが、私達の居る広場を挟むように二方向から。加えて所々木の上からこちらを狙うゴブリンスカウターまで居るようだ。

 雪の結晶のように枝分かれした放射状の通路……それはつまり、どの末端から侵入してもこうして他の通路を利用する事で容易に集中砲火が出来る形状なのだ。

 この要塞には恐らく、こういった迎撃用のポイントが要所要所に置かれている事だろう。

 動揺が広がるダイバー達だったが、直ぐに鋭い喝が飛んだ。


「狼狽える暇があるなら備えろ! 盾を持つでも、反撃するでも良い! とにかく思考を止めるな!」

「──【サテライト・ウォーター】。全方位とはいきませんが、こちらから来る矢は私が防ぎます。皆さんは反対側からの狙撃とスライムの対処をお願いします!」

「あ、ああ! わかった!」

「スライムの弱点は火ですよね! それなら私に任せてください!」


 Katsu-首領-が叱咤し、百合原咲がある程度の安全を確保する事で心を落ち着ける。

 二人の指示と対応が滑らかだった事もあり、ダイバー達も直ぐにそれぞれの対処に移る事が出来たようだ。

 焔魔槍を持つクリムも居る事から、スライムの対応は任せても良いだろう。後は……


「私は樹上に潜むゴブリンスカウターの掃討を優先します。遠方のゴブリンについては……」

「それなら任せて欲しい。……火羅↑age↑、狙えるか?」

「う、うん……! 大丈夫!」


 Katsu-首領-の確認に、火羅↑age↑が胸元で小さく拳を握り、意気を示す。

 外見も相俟って、つい応援したくなる健気さを醸し出しているが……


「本当に任せて良いんですね……? 森が燃え出したら大事ですけど……」

「狙いについては問題無く正確だ。普段からクランの集団戦でもフレンドリーファイアは一度も無い」

「うん……! 使い、慣れてる、から……!」

「そ、そうですね………………わかりました、信じますよ!」


 この人がやる気を出すほど、心のどこかで不安が大きくなる一方だ。

 だが代案を考えるような時間もない。こうしている間も、ゴブリンスカウターは樹上からダイバー達の急所を狙っているのだ。

 私は迷いを振り切って、風を纏う靴で近くの樹上へ向けて飛び出した。



「……行ったか。俺達も任された役割を果たそう」

「うん……頑張る、ね……!」

「う、うむ……ほどほどにな」


 ヴィオレットさんの後姿を目で追っていたKatsu-首領-さんが、僕へと目配せをする。

 僕がまだ弱かった頃から辛抱強く育ててくれたKatsu-首領-さんと、僕の実力を信頼してこの杖を預けてくれたヴィオレットさんの期待に応えたい。


(僕が頑張れば、その分皆が助かるんだ!)

「行くよ……──【フレア・ガトリング】!」


 握った白樹の杖に取り付けられた魔石が赤く輝き、先端付近にスイカほどの大きさの炎の球が生み出される。

 ……僕はこの魔法が好きだ。

 魔法無しには作り出せない空中で乱回転するこの炎の球は、まるで映像作品で見る太陽を極限まで小型化したように神秘的で……綺麗で……


「あぁ……! アハ……ッ!」


 僕の心を高ぶらせてくれる。


撃て(Fire)ーーーーッ!!」


 僕の号令で、小さな太陽から大量の炎弾が豪雨の如く放たれる。

 まさにガトリング銃から放たれたようなそれは、密集する樹々をすり抜けるように隙間を通り、その奥に集まっていたゴブリンの群れを焼いていく。

 パニックを起こすゴブリンは逃げまどい、その炎は他のゴブリンへと燃え移って全てを赤く照らし出していく……

 その姿がとても綺麗で、美しくて……だから──


(だから僕はこの魔法が大好きなんだ!!)

「アハッハハハハッ! 燃えろぉ! 燃えちゃえェ! 全部、全部ゥッ!!」

「このトリガーハッピーさえなければなぁ……」


 どこかで小さくKatsu-首領-さんの呟く声が聞こえた気もするけど、周囲の戦いの音にかき消されてしまった。……まぁ良いや。大事な事ならちゃんと肩を叩いて教えてくれるから。

火羅↑age↑くんですが、魔法を使わなければ大人しいので事件は起こしてません

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― 新着の感想 ―
こちらが矢をせっせと回収しているところを気づかれずに観察できる人員がいそうな上に、矢が釣り餌に使えると判断するのも相当早いと思われる。でなけりゃこれだけしっかりした罠は作れないだろうし。 ここは引き上…
戦い慣れすぎてんのよな、このゴブリン共は。でなきゃこんな仕込みがすぐ用意できる訳もなく。しかもまだ職業持ちがスカウトとアーチャーだけとかねぇ。
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