第101話 大型コラボ配信⑥
「えー……皆さん、配信が途切れてしまいすみませんでした。遠くまでドローンカメラを退避させていたのですが、どうやらチヨの最後の魔法の射程に入ってしまったみたいです……」
ドローンカメラ君の末路を確認した数分後……私は合流地点付近へと戻り、腕輪から取り出した別のドローンカメラにて配信を再開していた。
あの偵察機能を備えたドローンカメラはチヨの風魔法の影響から逃す為に用意した新品だった為、それまで使っていた方のドローンカメラは腕輪の中に収納していたのだが、それが結果的に良かったようだ。……次からはチヨが来るたびにカメラをしまうべきなのかもしれないな。
〔気にしないで!〕
〔仕方ない〕
〔無事でよかった!〕
〔あれってどんな魔法だったの?〕
「最後の魔法ですか? 多分、かなり広範囲の重力を何倍にも高める魔法ですね……私自身の身体もそうですが、ドレスアーマーとローレルレイピアが重くなりすぎてまともに動けませんでした。……ほら、見てください。これがさっきまで使っていたドローンカメラくんの成れの果てです」
再び集まってくれたリスナーの質問に答えるように、回収しておいた元・ドローンカメラ君を拾い上げてカメラに映す。
拾い上げて改めて感じるが、もうこれ色以外はほぼ煎餅みたいになってるな……
〔ひえ…〕
〔機械がこんなになる超重力でよく圧死しないな…〕
〔偵察用のドローンは軽量化の為に装甲薄いからなぁ〕
コメントの反応にドローンカメラ君の末路を映したのは少しばかり迂闊だったかと身構えたが、有識者のフォローのおかげで事なきを得る。
「──と、まぁトラブルはありましたが……こうして私もカメラも無事な事ですし、改めてコラボ探索の再開をしましょう! ダイバーの皆さん、配信を見ていたら戻って来てください! まさかとは思いますが、解散してませんよね?」
〔大丈夫だよw〕
〔配信が急に中断してクリムちゃんが助けに行こうとするのを皆で必死に止めてたw〕
(そんな事になってたのか……)
他のダイバー達がちゃんと待機してくれていた事に内心で安堵のしていると、早速コラボ探索再開の宣言を聞いたダイバーが下層に戻って来て──
「……ィオレットさあああーーーーん!!」
「えっ、ちょ、クリムさ……ぉわぁっ!?」
全速力で駆けよって来たかと思えば、そのままクリムに押し倒された。
「心配しましたよ! 最後何があったのか分からないし、それから全然連絡も来ないし!!」
「そ、その節についてはすみません……まさか、あんなに遠くに退避させたカメラまでやられているとは思わず……」
泣きそうな顔で訴えるクリムに謝罪しつつ宥めていると、周囲に次々と他のダイバー達が現れ始めた。
「これは、なんとも凄いな……まさに更地じゃねぇか……」
「岩場が無くなってるのもそうだが、地面も完全に均されてやがる。最後に使ったって言う重力魔法の影響か……」
「これ、あたし達が使われた場合、生き残れるんっスかね……?」
そう口々に呟きながら辺り一面に広がる戦いの痕を確認し、息を飲む彼等の中から一人の男性ダイバー……Katsu-首領-がこちらへと歩み寄って来て、口を開いた。
「……一先ず、大きな怪我も無いようで良かった。ところで……探索の再開を宣言していたが、ヴィオレットさん自身は休憩しなくても問題無いのだろうか」
「私ですか? そうですね……確かに疲れはまだ残っていますが、戦闘に支障は──」
「休憩しないと駄目です! 疲れは事故の元ですよ!」
私自身は正直このままでも良かったのだが、有無を言わさぬ迫力で私に抱き着いたままのクリムに返答の続きを遮られる。
まぁ、彼女の言う通りここで休憩を挟まずに探索に戻って何かあれば大事だし……万が一私の真似をして無茶な探索をする新人ダイバーが現れないと言う保証もないからな。……私に憧れてダイバーになる人がいる可能性は、目の前のクリムがまさにその証明となっている訳だし。
「……と、クリムさんも言っていますので、少しだけ休ませてもらっても良いですか?」
「勿論だ。今回の探索では世話になりっぱなしだからな……せめて、休憩中の警戒は俺達に任せてくれ」
「! ……はい。お願いしますね」
優しい申し出に胸が温かくなる。
コメントではこう言った優しい言葉を投げかけられるのは珍しくも無いが、直接となるとやっぱり特別嬉しい物だ。
特に私の場合、頼る事よりも頼られる事の方が多くなってきているしな……
「むっ! ヴィオレットさん、私も! 私もヴィオレットさんの休憩をお守りしますよ!」
「はい、頼りにしてます。クリムさん」
「えへへ……」
「そう言うセリフは、せめてヴィオレットさんの上から降りてから言うようにな。……その体勢じゃ休まるものも休まらんだろう?」
「わわ、すみませんヴィオレットさん! 直ぐにどきますね!」
彼の注意に素直に私の上から離れたクリムは、直ぐにKatsu-首領-さんと警戒の配置について話しながら他のダイバーの元へと歩いていく。
その姿を見て、はてと疑問が浮かんだ。
(あの二人、特別仲が良いような素振りは無かったと思うが……)
別にいがみ合っていたり苦手意識があるような雰囲気も無かったが、特別親しい関係でもなかった為、あんなふうに話す光景は新鮮に思える。
良い事ではあると思いながらも小首を傾げていると、その疑問の答えはコメントから齎された。
〔ヴィオレットちゃんとチヨの戦い見てからすっかり仲良くなったなぁ〕
〔Katsu-首領-がヴィオレットの配信をかなり最初から追ってたのは衝撃だったw〕
(なるほど、そういう流れか……)
私の配信に限った話ではないが、ダイバーの配信を他のダイバーが見ると言うのは良くある話だ。
元々ダンジョン配信にはダンジョンにおける危険の共有と言う意義もあるので当たり前なのだが、私の配信は他のダイバーと比較してもかなり初期から他のダイバーから注目を集めていた。主に新ジョブや新スキルが話題になったおかげだが。
そんな経緯で配信を見てくれていたダイバーの内の一人が、どうやらKatsu-首領-だったらしい。
(大型コラボは飯テロやラウンズのようなクラン勢と、クリムや闇乃トバリのような個人勢が一堂に会する珍しい機会だ。もしかしたらこの場を利用して有力な個人勢のスカウトを……なんて考えるクラン勢もいるかもしれないな……)
〔これってやっぱり飯テロはクリムのスカウトとか考えてるのかな?〕
〔実力は即戦力として申し分ないしな…〕
〔こういう機会を上手く使えるクランって成長速いんだよな〕
〔明らかに問題起こすダイバーは事前に篩い落とされてるからスカウトの場として良すぎる〕
〔まさかヴィオレットちゃん…そこまで計算してこの企画を…!?〕
「えっ……ま、まぁそうですね! やっぱり個人としての成長は大事ですが、やっぱり連携によって実力を二倍にも三倍にも活かせるのが人間の強みですから!」
〔あ、これ今気づいたな?w〕
〔令嬢の人そこまで考えてないと思うよ〕
〔なんか魔族みたいなこと言ってて草〕
「魔族だが!? 魔族令嬢なんだが!?」
〔草〕
〔草〕
なんか最近『令嬢』って検索すると予測変換に『脳筋』って出て来るサジェスト汚染が広がってるらしいが、これ全国の令嬢から訴えられないだろうな……
まぁ、そんな事はどうでも良いとして……クランが大型コラボで個人勢をスカウトする。これに関しては私は良い事だと思う。
勿論双方の同意が前提ではあるが、下層と言う最前線でそれぞれの実力や動きを観察できるこの機会。気の合う仲間を見つけたクランは当然ながら強くなる。
しかも下層の経験者が参入するのだ。この場に来れなかった他のクランメンバーの育成もしやすくなるし、下層への挑戦機会も増える事だろう。
下層の探索は進み、最奥部の発見も早まる……これは、私の目標の達成も予想より早くなるかもしれないな。
(良いループが出来つつある……明日のコラボのメンバーは選び終えてしまっているが、次回以降のメンバー選出にはクランのスカウトも考慮した人選をしても良いかも知れないな)
その後もコメントと気軽なやり取りを交わしながら体を休める事、およそ十分。
体調もすっかり全快……とまでは流石に行かないが、十分疲労も取れたと判断した私は周囲の警戒をしてくれていたダイバーを呼び集め、改めて宣言した。
「先ずは皆さん、私の回復を待ってくれてありがとうございました。このお返しはこの後の探索で少しでも返そうと思います。──という訳で、改めて『大型コラボ探索』を再開しましょう!」
「「「おぉー!」」」




