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第99話 大型コラボ配信④

「毎日、ですか……」


 チヨの無茶苦茶な要求に、しばし思考を巡らせる。

 表情から察するに、彼女はこの『毎日戦おう』と言う提案を本気で持ち掛けている。私が条件を飲めば、本気で毎日戦おうとするだろう。


「そう、毎日! 貴女が居ないとここ、本当に死ぬほど退屈でさぁ! それを貴女が紛らわせてくれるのなら、あたしも他の人を狙う必要も無いと思わない?」


 なるほど……バトルジャンキーだとしても、悪魔は悪魔ということか。しっかりとこちらの足元を見た上で、かなり理不尽な約束を取り付けようとしてくる。

 そして要求を飲まなければ、代わりに他の下層に潜るダイバーが狙われると……だが、そちらがそのつもりなら私にだって考えがある。


「その条件を飲めと言うのであれば──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ぅえっ!?」

「未踏破ダンジョンってここ以外にもありますからね……正直なところ、ここに拘る必要は私には──」

「わ、わーっ!! 嘘、嘘! 冗談だって! ここに来た時で良いから! ね!? その代わりヴィオレットちゃんがここに来た時くらいは相手してよ!?」

「わ、解りましたよ……! そんな泣かなくても……」


 『死ぬほど退屈』と言ってたので軽く揺さぶるつもりで言ってみたが、思った以上に効果抜群だった。まさか半泣きになる程とは……それ程までにチヨは退屈が嫌いと言う事なのだろうか。

 そう思っていたのだが……


「ホント!? ──良かったぁ、危うく……っ!」

「……()()()?」

「な、何でもない! こっちの話!」


 慌てた様子で誤魔化すチヨ。良く見れば、顔が僅かに青ざめているようだ。

 どうやら彼女の方にも何かしらの事情があるらしく、その内容も気になるところだが……


「……」

「むっ……悪いけど、こればかりは絶対に明かさないからね!」

「……はぁ」


 この様子だと、ちょっとやそっとの揺さぶりでは聞き出す事は出来なさそうだ。

 私が追及を諦めた事を表情とため息から察したのか、チヨは普段の調子を取り戻し、ファイティングポーズをとる。


「さぁ、とりあえず他の人間も居なくなったことだし、早速戦おうよ!」

「仕方ありませんね……こちらとしても、探索の続きをしなければならないのでお相手しますよ」


 そう言って私は、ドローンを操作してなるべく私達から離れた場所へと移動させる。

 今回の探索にチヨが襲撃してくる可能性は当然想定済みであり、その為に私は以前も行った家電量販店で新しいドローンカメラを購入していた。

 それがこの『アビススカウター』シリーズの最新機だ。

 他の物よりも遠くまで自由な操作が可能なタイプのドローンで、本来は複雑な地形の先や遠方の偵察に使用する為のスペックなのだが、それを今回はチヨとの戦闘の余波に巻き込まれないように避難させる為に使おうという訳だ。


「……さて、あれくらい離せば流石に大丈夫でしょう。始めましょうか」

「! うん……っ! この瞬間をずっと待ってたよ!」


 そう言うが早いか、チヨは高速で岩場の上に立つ私に接近を試みる。


「──【エンチャント・ゲイル】」


 一方の私は跳躍の為に膝を曲げるのと同時に両足の靴を一撫でし、その両方に風を纏わせる。そして足場としていた岩を蹴り、空中へと飛び出した。



 空中でヴィオレットのローレルレイピアと、チヨの拳がぶつかりあう。

 そのまま真っ二つに切り裂かれてしまいそうに見えるチヨの拳は、しかしまるで傷を負う気配も無く、寧ろ『カァンッ!』と音を立ててヴィオレットの突きをはじき返した。


『──くっ……!』

『どうしたのヴィオレットちゃん! 久しぶり過ぎて感覚忘れちゃった!?』

『お気になさらず……直ぐに取り戻しますよ!』


 弾かれた勢いに敢えて身を任せて距離を取ったヴィオレットは、空中を何度か蹴って回り込むような軌道で再びチヨに切りかかる。


『──【エンチャント・ダーク】、【ラッシュピアッサー】!』

『手数勝負? 良いね! とことんやろうよ!』


 スキルの補正を受けて高速で放たれる連続突き。

 殆どの魔物は捌ききれないだろう連撃を、チヨは両手両足、そして尻尾を駆使して互角に渡り合う。

 空中でのすれ違いざまに打ち合った回数は十を優に超え、空中を蹴って切り返したヴィオレットに即座に対応したチヨは再びほぼ同数の突きを捌く。


『はぁっ!』

『おっと! 危ない!』

『く……っ!?』


 連続突きの最後に放ったヴィオレットの蹴りは、それによって発生した暴風をものともしないチヨの右手に捕まれる。

 そしてヴィオレットがチヨの右腕を切り落とそうとローレルレイピアを振るうよりも早く、チヨは滞空した状態でのジャイアントスイングで、ヴィオレットを地上へと投げ飛ばした。


『ほらっ! おまけ!』


 そして追撃にとチヨは右手で圧縮した嵐を放ち、荒れ狂う竜巻がヴィオレットの頭上へと降ってくるが……


『──【エンチャント・ゲイル】、【螺旋刺突】!』


 それに直ぐに反応したヴィオレットはレイピアに纏わせた属性を切り替え、【螺旋刺突】にて迎え撃つ。

 二つの同質のエネルギーがぶつかり合い、拮抗し、ドーム状に逆巻く真空の刃が周囲一帯を蹂躙する。

 これまでヴィオレットとチヨが戦った際は、このぶつかり合いで毎回ドローンカメラが破壊されていたが……今回は安全圏まで避難させていた為にこの一連の光景は初めて配信に乗せられ、リスナーの眼に届けられていた。

 ──いや、()もこれまで話にこそ聞いてはいたが、実際にこの目で見るのは初めてだった。


〔えっぐ……〕

〔この衝突が森を更地に変えた訳か〕

〔チヨ楽しんでるけど殺意がユキの比じゃないって…〕

〔これヴィオレットちゃん以外に対応出来るんか?〕

〔と言うかこれ受けて何でヴィオレットちゃんは無事なんだ…〕


 ヴィオレットの配信に流れるコメントが、盛り上がりを超えて不安を覚え始めている。

 このままでは、事前に彼女が懸念していた通りの『良くない印象』が広まってしまいそうだ。


(まぁ、それを避ける為に俺がこうしてアイツの配信を同時視聴している訳なんだがな……)


 俺──ソーマは今、渋谷ダンジョンのロビーからヴィオレットの戦いを同時視聴と言う形で配信していた。

 周囲をチラリと確認すれば、今回のコラボに参加したダイバーの皆も俺と同様に彼女の戦いをスマホで食い入るように見ている。

 それぞれ二人の戦いを楽しんだり、自分ならどう対応するかをリスナーと検討したりとその様子は様々だが、彼らのドローンカメラは今も彼らの周囲に浮遊し、その反応をしっかりと配信に乗せていた。

 ……そう。俺達が地上へ撤退しているこの間も『コラボ配信』は継続中なのだ。

 そんな折、コメントに漂い始めた不穏な気配を払拭するべく、俺は彼女の戦闘の実況と解説を始めた。


「チヨのこの魔法だが、風を纏った【螺旋刺突】で風圧を受け流して直接ヴィオレットには当たっていないらしいぞ。本人から聞いたから間違いない」


〔そうなんか〕

〔ソーマの補足助かる!〕

〔でも真空の刃はどう防いでんの?〕


「真空の刃はドレスアーマーが殆ど防いでくれてるらしい。あれの薄布に見える部分って、実は防刃性能特化の合成繊維なんだよ」


〔はぇ~すっご(小並感〕

〔流石着る高級車…高い訳だわ〕

〔くっそ高級な防具は相応の性能が無いと売れんわなそりゃ〕


 俺の補足を受けてか、ヴィオレットに対する『得体のしれない物を見る』ような雰囲気はかなり薄れたようだ。

 理解できない超絶技巧なんてちょっとネットを調べれば動画でいくらでも出て来る時代だが、それも一定のラインを越えると畏怖さえも超えて恐怖に近い印象を与えてしまう。

 それを防ぐにはどうするか……解決法はシンプルだ。理屈を説明し、『理解の範囲』を広げてやればいい。人体切断マジックも初見であればただの公開処刑に見えるが、タネが解っていれば怖くないのと同じだ。

 カラクリを知る前ならグロテスクに見える光景も、解ってしまえばエンターテインメントになる。

 俺がこうしてヴィオレットがチヨと戦える理屈を説明した事で、漸くリスナー達にもあの二人の戦いを楽しむ下地が出来たのだろう。コメントの雰囲気もすっかり元に戻って行った。


〔おお!耐えきった!〕

〔周囲の地形変わってる…〕

〔奥の方から突進して来てたランページブルがUターンして逃げてるの草〕


(これでコメントの方は良し……後、今大事なのは──)


『──そこです!』

『ぐっ……!』

『まだ、まだぁっ!』


「おお、すげぇなアイツ……チヨの攻撃の隙を突いてカウンター入れてらぁ」


〔いけーっ!〕

〔反撃開始だ!〕

〔ブリッツスラスト入った!〕


 今、何より大事な事……それは、俺もこの配信を楽しむ事だ。『兄』である俺が楽しんでいれば、それを見ているリスナーも安心して楽しめるだろうからな。

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― 新着の感想 ―
陰のMVPニキ(一応、本兄)。
ヴィオレットってどのくらい余力を残してるんだろう? あの蜘蛛や悪魔2人を瞬殺できるかな?
更新お疲れ様です。 なんかさらりとチヨが重大な事を喋りそうになってましたね。来ないと困るっぽい→ヴィオレットがダンジョンに来ない(入らない)とマズいのは確定っぽい? ただどうマズいのか…チヨ達側だけ…
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