第95話 大型コラボ配信開始
すみません、ちょっと手直ししていたら遅れました!
「皆様ごきげんよう! クラン『トワイライト』リーダー、オーマ=ヴィオレットと──」
「同じくクラン『トワイライト』のソーマです」
「皆さんもご存じと思いますが、今回の探索配信は私達を含めた合計22人のダイバーによる大型コラボですよー!」
配信開始前の打ち合わせも終わり、いよいよスタートした大型コラボ配信。
企画を代表して先ず私と『俺』が目の前に並んだ合計22台のドローンカメラを前に配信開始の挨拶をすると、それぞれの配信を見ているリスナー達のコメントが一斉にずらりと表示された。
〔ごきげんよう!〕
〔ごきげんよう~!〕
〔大型コラボだー!〕
〔ソーマ!?復帰するんか!?〕
〔ホントだソーマの配信枠も立ってる!〕
〔こんな規模のコラボって今まで無かったよな〕
……
流石に限られた時間でこの数のコメントに返事をしていくのは無理なので、さっさと今回のコラボに参加してくれるダイバーの紹介に移る事にしよう。
「時間も惜しいので、早速参加してくれるダイバーの皆さんに自己紹介してもらいましょう! ──先ずはクラン『ラウンズ』の皆さんからどうぞ!」
「では最初は代表して私から──」
と、私が百合原さんへと自己紹介と挨拶のバトンを渡し、その後も事前に話し合った通りの順番でパスが渡されていく。
所属クラン、ダイバー名に加えて一言添える程度に収めて貰っているが、流石に20人と言う大所帯である為それでも数分はかかってしまった。
「闇乃トバリだ。我を含めここに居並ぶは魔を冠する令嬢の声に導かれ、今宵、更なる深淵へ挑む者達だ。……各々の雄姿、目に焼き付けよ」
最後にじゃんけんで大トリを勝ち取った闇乃トバリが自己紹介を締めるのを確認し、私が再びカメラの前に立つ。
……今宵と言いつつ真昼間なのは突っ込まない方が良いだろうな。
「はい! 以上のメンバーで今日は下層を探索していくのですが……その前に先ず、私が一人で下層の様子を確認します!」
そう言って軽い調子で下層へ続く境界へと身を躍らせる。
下層で待ち伏せされていたらちょっと面倒なので、その安全確認という訳だ。
これについても打ち合わせで決めていた流れなので、他のダイバー達に動揺は無い。
「──【ストレージ】、【エンチャント・ヒート】っと。……ふむ、魔物はいないようですね」
腕輪から取り出した数本の投げナイフに炎を纏わせ、周囲に投げて洞窟を照らす。
「では……リスナーの皆さん、今回のコラボの参加者の誰かの配信に『安全が確認できた』とコメントで伝えて貰えますか?」
〔はいよー〕
〔了解!〕
〔お義兄さんに伝えて来るね〕
〔↑勝手に身内になろうとすんなw〕
ダイバー間の連絡をリスナーに任せると言うのはコラボ探索では良くある事である為、リスナー達の動きもスムーズだ。
それほど経たない内に他のダイバー達も中層から下層へと降りて来て、打ち合わせの通り私が先導する形で洞窟の外へ続く通路を進む。そして──
「わぁ……!」
「これが下層か……」
「配信で何度も見ましたが、このスケールはやはり圧倒されてしまいますね」
洞窟を抜けた先、眼前に広がる地下世界に各々の感想を漏らす一行。
遥か遠くまで続く薄闇の所々に突き出した水晶が作り出す明かりは、まるで沼から顔を出す蓮の葉のように地面を円形に浮かび上がらせており、その円形と円形の間の光景をもうっすらと照らしている。
明度補正がかけられているドローンカメラ越しの配信で見るよりも強調されたそのコントラストは、かえって今まさに自分が画面越しに見ていたその場所に足をつけているのだという実感を与えていた。
「……皆さん、解っていると思いますが、警戒を怠らないようにしてくださいね。私も注意は払っていますが、ダンジョンホッパーを見逃した場合は厄介な事になりますよ」
軽く呆けている者や、薄闇の先の未知に眼を輝かせている者に特に強く言い含める。
ここから先、迂闊な行動は自分だけでなく周囲の仲間全体に危機を招くのだ。それを本質的に理解していない者はこの場に居ないと信じたいが……視覚的に強烈なインパクトは、時にそれを忘れさせてしまうからな。
私の言葉にハッと我を取り戻した数人のダイバーが気を引き締めるのを確認し、改めて周囲へと目を走らせる。
(……近くには魔物の姿は無いようだが、少し離れたところから微かに荒い鼻息が聞こえる。恐らくアークミノタウロスか……)
魔族の聴覚でギリギリ捉えられる程度の気配。現時点で普通の人間であるダイバーに気付けと言っても無理な話だが……これは丁度良い相手かもしれないな。
アークミノタウロスは中層に生息するミノタウロスと攻撃手段や体格が近く、下層の魔物の強さに慣れる為の最初の相手としてはお誂え向きだ。
鼻息の数からしてもこの場にいる全員が経験を積めそうだし、こちらから近付いてみよう。
「──皆さん、この場所に留まっていてもあまり意味はありません。周囲の警戒を続けながら、私について来てください」
小声で全員にそう伝え、一団となって下層を歩く。
特に身を屈めたりはしない。多少姿勢を低くしたところで、見つかる時は見つかるからだ。
寧ろ地面を掘って襲ってくるダンジョンワームに柔軟に対応できなくなる為、かえって危険と言ってもいい。
「──ッ! この気配……」
「気付きましたか。流石です、慧火-Fly-さん」
アークミノタウロスの気配に逸早く気が付いたのは、クラン『飯テロリスト』の軽業師『慧火-Fly-』だった。
コラボ相手と言う事で事前に仕入れていた情報によると、彼はクランでの探索時には斥候の役目を務める事も多く、生き物の気配に敏感らしいのだが……
(──それってやっぱり暗殺者なんじゃ……)
まぁとにかく、彼の指摘によって周囲のダイバー達の表情が一層引き締まった。
陣形こそまだ構えていないが、心は既に臨戦態勢を整えているようだ。
(よしよし……これなら、最初は彼らに任せてみても良いかもしれないな)
アークミノタウロスに近付いた事で魔物の気配が掴みやすくなり、その数もはっきりと分かった。
その数、合計6体。彼らの実力であれば勝てるだろう。
「──では、早速下層での初陣と行きましょう。皆さん、武器を私の前に」
配信前の打ち合わせの時点で、既に彼等の希望の属性については聞いている。
今回の相手は属性による有利不利はそれ程無い為、リクエストされた属性を各自付与する事にした。
「今回、私はなるべく手は貸しません。勿論皆さんの身が危なくなれば助けますが……可能な限り、皆さんだけで対処してください」
それぞれの希望した属性を纏った武器を手に、ダイバー達は私の言葉に頷きを返す。
そして事前に振り分けていた4つのパーティに分かれ、アークミノタウロスの元へと向かっていった。
◇
ヴィオレットさんの示した方向へと足音を消しながら慎重に歩を進めていくと、やがて薄闇の中に赤い体毛に覆われた巨躯の輪郭が見えた。
彼女の言うところによると、今回の敵はアークミノタウロスが6体らしい。
今まで通り一人では流石に厳しいと思うけど、今回は私を含めて21人のダイバーが一丸となって戦うのだ。勝てない相手ではない。
(……まぁ、パーティで戦った経験があまり無いのはちょっと不安だけど)
パーティの振り分けはヴィオレットさんが決めた。
と言っても初戦と言う事もあり、最初は様子見の為に元々安定した連携が取れるクラン『ラウンズ』や『飯テロ』の人達はそれぞれのクランメンバーだけで構成されたパーティとなっている。
反面、残りの二パーティは私を含めた殆どが個人勢。連携をとった経験が皆無なダイバーも居る為、そこに若干の不安が残っている。
(──ううん、大丈夫だ! ヴィオレットさんも、多分私達だけで戦えるって考えてくれているから見守る事を選んだんだろうし!)
気を引き締めて相棒である『鋼糸蜘蛛の焔魔槍』を力強く握ると、私の中に残っていた微かな不安を吹き飛ばす様にその穂先が燃え上がる。
それとほぼ同時に私達の接近に気が付いたアークミノタウロスのリーダーらしき個体がこちらを振り向き、高らかに吠えた。
「ヴモオオオォォオオーーーーォォッ!!!」
「──来るぞ! 散れ!」
Katsu-首領-さんが声を張って指示を飛ばし、それに従ってパーティ毎に散開する。
私達の移動につられてアークミノタウロスの戦力も分散するが、元々6体だったアークミノタウロスの群れだ。最大まで分散させても、いくつかのパーティは2体以上のアークミノタウロスを相手取る事になる。……その一つがどうやら私達のパーティだったようだ。
「ヴルルルル……ッ!」
「ヴフーッ! ヴフーッ!」
「アークミノタウロスが2体か……!」
「怯むな! 数で言えばこっちは6人だ!」
武器を構えて唸り声をあげるアークミノタウロス二体。
ミノタウロス系の魔物は持っている武器によって脅威度が若干変化するのだが、その中で比較的やり易いと言われているのが棍棒持ちだ。
大剣や戦斧、戦槌は一撃で致命傷を受ける可能性があるのに対して、棍棒は比較的そのリスクが少ない……と、言われている。
不幸中の幸いか、今回私達が相手するアークミノタウロスの片方はその棍棒持ちだった。そして、も一方は──
「……提案があります! 聞いてくれますか!?」
「なんだ!? 手短に頼む!」
「はい! アークミノタウロスの内の一体──『槍持ち』の方を、私に任せてもらえませんか!?」
「──はぁ!?」
私の割り振られたパーティ内での最年長の男性ダイバー──と、言っても30歳未満だけど──が、正気かと言いたげに私を見る。
しかし、私だって好奇心だけでこんな提案をしている訳じゃない。
「何も最後まで任せて欲しい訳じゃないんです! 私がしばらく一方を引きつけますから、その間に皆さんで棍棒持ちを倒してください! 2体を同時に相手するより、その方がずっと安全です!」
「そ、そうは言うが、お前の方はアークミノタウロスとタイマンだぞ!?」
「大丈夫です! 私、『槍の扱い』と『槍使いとの戦い』には慣れてますから!」
それだけ告げると、私は返事も聞かずに駆けだした。
動きの出方を伺っているアークミノタウロスが、焦れだすのを感じたからだ。そして──
「──【エア・レイド】、【ラッシュピアッサー】!」
「ヴルッ!!」
まさに今、攻撃に移ろうとしたアークミノタウロスの上空を飛び越え、両肩に深い一撃を加えると同時に背後に回り込む。
「さぁ、そちらは任せました!」
「くっ……! わかった! こっちが片付くまで持ちこたえろよ!」




