表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/201

第?話 ダンジョン配信者、ヴィオレット

この話は時系列的にはプロローグよりも大分後の内容になります。

主人公の扱いはだいたいこんな感じになるんだなと言うのが伝われば幸いです。


 壁面に並んだ燭台の光が照らし出すダンジョンの深層に、剣戟の音が響く。

 決着を焦ったのか牛頭を持つ巨躯の魔物『アークミノタウロス』が振りかぶった戦槌を前に、その少女は構えた細剣に左手を添えて力ある言葉を静かに唱える。


 『【エンチャント・ダーク】』


 すると少女の左手から広がった薄闇が細剣に纏わり付き──


 『【ラッシュピアッサー】』


 戦槌が振り下ろされるよりも早く懐に入り込んだ少女の連続突きにより、一瞬で無数の風穴を空けられたアークミノタウロスの巨体は力を失い、少女の上に倒れ込む……寸前で塵のように空気に溶けた。

 同時に散った魔力が起こした微風が彼女──『オーマ=ヴィオレット』の名が意味するのと同じ紫色の長髪を揺らしている様子は、まさに『剣姫』と呼ぶに相応しい絵となって配信を彩っていた。


 『剣姫』と言うのは細剣を用いる戦闘スタイルと、その可憐な容姿からそう呼ばれるようになった彼女の二つ名だ。

 全身を包む黒をベースにしたドレスアーマーと、装飾が美しい細剣(レイピア)で戦う彼女に非常にマッチした呼び名だと俺も思う。

 ……まぁ、彼女が好きで付けていると言う()()()()()()()()()の所為で、人間と言うよりはゲームに登場するような魔族の姫と言った印象だが。


 『──ふぅ、今ので最後かな?』


 ルビーの様な紅眼を彷徨わせ、敵の影が無い事を確認した少女を写す映像の傍らには、先程の戦いを見ていたリスナー達の興奮を示す言葉が高速で流れていた。


 〔本当に勝ってもーた…〕

 〔うおお!さっすが剣姫!やっぱつええ!〕

 〔¥50,000 単騎殲滅おめでと代〕

 〔速過ぎて何が起きてるのか全然分からんかったけどとにかくすげぇ!〕

 〔最強の()()()()だからな…正直俺もほとんど動き見えんかった〕


 『あ、プレチャありがとうございます! あといつも言っていますが、あまり私の真似で無茶しないようにしてくださいね』


 彼女は目に入ったプレミアムチャットへのお礼のついでに、そう釘を刺すのも忘れない。

 と言うのも以前彼女の配信を参考に無茶をした『ダイバー』が居て、その時に『ダイバー協会』から定期的に注意喚起を頼まれたのだと以前の配信で言っていた。

 ただ、そんな真似をするのは元々軽率なダイバーだけで、殆どの場合は彼女と自分の差は知っている。


 〔真似したくても出来ないです…〕

 〔そもそも深層に辿り着けないです…〕

 〔ミノタウロスの巣に単騎で突っ込んで殲滅とか完全に人間辞めてるのよ〕

 〔犇めいてたからな!牛だけに!〕

 〔文字通りひs〕

 〔¥200 突然すみません!私はダイバーなり立てなのですが最初の頃の立ち回りについて教えてください!〕


 『プレチャありがとうございます! 新人ダイバーさんですか……最初の頃はとにかく敵や周囲をよく観察する事、それと危なくなったら無茶せず「腕輪」の機能で生還する事ですね。それと初配信をまだ済ませていないのであれば、初配信の前に2、3回潜る事をお勧めします。初探索配信も確かに需要はあるみたいですけど、配信を気にし過ぎて失敗する危険の方が──』


 (それにしても、『ダイバー』か……)


 新人ダイバーからの問いかけに丁寧に答える彼女の声を聞きながら、その言葉の意味を思い返す。

 『ダンジョン配信者(ライバー)』……誰が言い出したか、略してダイバー。

 単純な略称でありながら『潜る者』と言う意味の英単語と響きが同じ事もあってか、この名称は気に入られ、今ではすっかり定着した。

 昔はダンジョンに潜り、倒した魔物の素材や宝を持ち帰る職業として『探索者』があったのだが、時代が進むにつれて動画配信と結び付けた者が現れ始めると、配信の収入もついでに得られると言う事で探索者が(こぞ)って真似をしだしたのだ。

 今となっては、元来存在した探索者と言う職業は実質消滅。彼らを支援する『探索者協会』もいつの間にやら『ダイバー協会』に名前を変え、動画配信が前提の職業へと変化していった。

 その動きの背景には配信で得られる収益の他にも、ダンジョンの情報を配信で共有する事で互いに事故を減らし、生還率を高めると言う目的もあったらしい。

 ダイバーは探索者時代から協会から配られている『腕輪』を身につけており、それには脱出用の転送魔法が込められているのだが、それでも時たま事故は起こる。

 そう言った時に配信をしていたおかげで助かったという例も実際多いのだ。


 そんな事を考えている間にも彼女は再び探索に戻っており、壁面の所々から飛び出した不思議な輝きを放つ結晶が照らす岩窟を歩いていた。


 『……』


 いくら最強と名高い彼女でも、この時ばかりは無言になる。彼女が今居る深層では、突然厄介な魔物に遭遇するのは日常茶飯事なのだ。コメントに答える声でそれらを呼び寄せてしまってはキリがない。

 リスナーもその辺りは当然理解しており、この時のコメントにはプレチャも少なく、どちらかと言うとコメント同士の情報共有や雑談の場になっている。


 〔ヴィオレットちゃんのレアジョブ『魔剣士』って他にいないんだっけ?〕

 〔俺は結構色んな配信追ってるけど他には見た事ないな〕

 〔魔剣士ジョブ良いなぁ。強そうだからうらやま〕

 〔初期アーカイブでも魔剣士な辺り血筋系ジョブなのかも〕

 〔それは無い。お義兄さんもダイバーだけど向こうは普通の剣豪ジョブだったし〕

 〔そっかそっちはジョブ明かしてるのか〕

 〔兄の方も中層を危なげなく探索できてるくらいには強い筈なんだけど比べるとどうしてもな…〕

 〔魔剣士って見た感じ継戦能力と近接での対応力がぶっちぎりで高いよな。遠距離攻撃は殆ど無いけど〕

 〔↑↑↑↑何サラッとお義兄さん呼びしてんだヴィオレットちゃんはやらんぞ〕

 〔↑お前のもんでもねぇよ〕

 〔ヴィオレットちゃんなら今俺の隣で寝てるよ〕

 〔ヴィオレットちゃん今深層にいるんですが……〕

 〔実家深層ニキこっわ…〕

 〔お兄さんなら俺の隣で寝てんだがな〕

 〔↑幸せにな〕


 どうやら今回は彼女の持つレアジョブ、『魔剣士』の話が中心になっているようだ。……最後に変なコメントも少しあったが。

 ジョブと言うのは、ダイバーが支給された腕輪を最初に装着した際に測定された才能を基に自動で割り振られるパラメータだ。最初は『剣士』や『弓使い』と言った物が一般的で、そこから経験を重ねる事で『剣豪』や『スナイパー』のように持ち主の戦い方に合った派生や進化をする。

 だが中には最初からそれらに該当しない特殊なジョブが発現する場合があり、彼女の魔剣士もそっちだと言われている。……いや、思い返してみれば厳密には少し違うな。

 折角だからその事についてコメントして訂正するとしよう。


 〔ヴィオレットのジョブは『魔剣士』って確定した訳じゃないぞ〕

 〔古参ニキだ!〕

 〔普段あまりコメントしない最古参ニキ!?〕

 〔そう言えばそうだったな。ヴィオレットちゃんのステータス画面って()()()()()()()()()()()()もんな……〕

 〔コメント対応とか結構してくれるヴィオレットちゃんもそこだけは頑ななんだよなぁ……〕

 〔いやでも戦い方からして似たようなジョブだろ。ラッシュピアッサーは剣士系か槍士系ジョブのスキルだし〕

 〔それ普通にただの剣士系ジョブなんじゃ……?〕

 〔今回で言うと「エンチャントダーク」がなぁ…似たスキルも聞いた事が無いから「魔剣士」って名前かはともかくとして、知られていないレアジョブ持ちなのは確実だろ〕

 〔ヴィオレットちゃんステータス開示してくれぇ!〕

 〔ステータスの開示は個人の自由。強要はマナー違反だぞ〕

 〔気になる気持ちも分からんではないけどな。そう言うミステリアスな所も魅力なんよ〕


 そう、彼女には秘密がとにかく多い。

 確かにステータス開示は個人の自由とは言え、ジョブの名前くらいは明かしているダイバーが殆どだ。

 レアジョブ持ちであれば特にそれを早々に開示し、リスナー数を稼ぐ宣伝に使う者も少なくない。

 しかし彼女は俺が偶々見つけた初配信の時から、自身のジョブを始めとしたあらゆる情報を伏せて来た。


 (まぁ、その秘密を色々と考察しながら見るのも面白いんだけどな)


 彼女が明かしていない秘密をアレコレと想像し、次にどんなスキルが飛び出すのかを期待しながら配信を追う。

 誰も到達していない深層の景色や、彼女の能力等……多くの未知を求めて今日も彼女の配信には多くのリスナーが集っていた。

初めて書いたオリジナル小説ですが、応援していただければ嬉しいです!

高評価とブックマーク登録をしていただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ