母想いの少女は物騒な夢を叶えると共に恋も手に入れました
しいな ここみ様主催「リライト企画」の参加作品です。
いかすみこ様の「母想いの少女が恋を知り夢を叶えるまでの始まりの物語 〜叶えたい夢は物騒です〜 0003」をリライトさせていただきました。
https://ncode.syosetu.com/n4391in/
この作品は、リライト元の続きを想定して作った作品ですので、是非リライト元からご覧ください。
【あらすじ】
父に捨てられ、母と叔父夫婦に育てられた主人公リリィ。現在母は病弱で寝込んでおり、叔父夫婦に負担をかけていることを申し訳なく思っていた。そんな時に、国王からの使いと名乗る騎士が王都に来るよう迎えに来た。治療費と生活費を引き換えに以前からの自分の夢を叶えるため王都に行くことになる。
その夢とは、自分の瞳と似ていると言う海を見ることと、そしてクズな父親をぶっ飛ばすことだった。
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「騎士様は、私のことを知っているみたいですが、一応改めて自己紹介しておきますね。私、リリィと申します。よろしくお願いします」
「私は、王都の騎士団に勤めるリアム・リー・アスターだ」
騎士様は名前だけ名乗って、無表情に戻る。きっと、普段から無口な人なのだろうな。でも、やはり馬車に乗っているだけでは暇だから、様々なことを語りかけたけど、騎士様はただ最低限の受け答えしかしなかった。それでも、無視したりすることは無いので、律儀な人ではあるのだろうね。
長い馬車に乗って疲れてきた頃、騎士様が今日はここで休みもうと手を差し出して、私を馬車から下ろした。意外と紳士なのね。
案内された場所はこじんまりとした旅館。この周りにはまだ海が見えなくて少しがっかりけど、疲れたからもう休もうと食事だけして、床に就いた。
ふと目を覚ますと、まだ夜が明けていなかった。もう一度寝ようと思うものの、目が冴えて眠るに眠れない。少し気分転換に新鮮な空気でも吸おうと、外に出た。
やっぱり、外の空気は美味しい!
夜風も気持ち良いし、もう少し外にいたいな。
でも、そんな時向こうで騒いでいる声が聞こえたから、気になって行ってみることにした。すると、なんと私と同じぐらいの女の子が3人の男に絡まれていたの。女の子がとても困っているから、助けなきゃと身を乗り出してしまった。
「ちょっとあんた達、止めなさいよ!」
私は女の子の腕を掴み、3人の男の腹を思いっきり蹴り飛ばして、即座に逃げた。でも、逃げているうちにハプニングが起こってしまったのよ。
どうやって旅館まで戻れば良いの!?
ここの場所知らないから、帰り方が分からない。私はたまにこう言うことがあったから、蹴った間に逃げて撒いてきたけど、安全な場所に逃げなきゃ何の意味もないことに今更気づいた。と言うか、寧ろかなりマズイ状態になっちゃったよ。
おまけに逃げた先が、行き止まりって最悪。早く他の場所に逃げなきゃと思ったら、目の前にあの男達がいた。
え? 立ち直るの早くない? 強めに蹴ったよね?
それにしても今度は何処に手を出したら良いのかしら?
こっちは塞がってるから逃げづらいし、女の子を怪我させてもいけないしなと困っていたら、いきなり男達が倒れたのだ。
「何勝手に外出てるんだ。面倒事にも巻き込まれて」
不機嫌そうに騎士様は私を睨みつけた。そこまで怒らなくても良いのに。もう腹立つ!
「私が面倒事に巻き込まれたわけではないのです。彼女がこの男達のせいで面倒事に巻き込まれてしまったので、ただ助けてようとしまして……」
「結果的に巻き込まれてるじゃないか」
それを言われたら何も言い返せないけど、やっぱりその言い方が腹立つわ!
「すみません。私が不甲斐ないばかりに……」
「貴女は悪くないわ。寧ろ怖い思いさせてごめんなさい」
不甲斐ないのは私の方だわ。助けようと思ったのに、彼女を不安にさせてしまって……。
「貴女は彼らに送ってもらうと良い」
彼女を無事帰してくれることには安心した。それにしても、ここの騎士団を連れて来るなんて、仕事早いわね。少し見直しちゃったわ。
「さあ帰るぞ」
騎士様はそう言って私を軽々とひょっと持ち上げてお姫様抱っこをしてきた。
「そういうことをしなくても、逃げませんから」
「怪我してるから、大人しくしとけ」
確かに言われると左脚から血が流れていた。どうやらいつの間にか怪我をしていたらしい。気配りもすることが出来るのね。何だか意外だわ。
それにしても何だか変な感じ。きっと、今までこんなに男性と密着したことがないから緊張しているんだわ。
騎士様に連れ戻されて、手当をされた後、ベッドに戻ったらすぐに、私は疲れから眠ってしまった。
夜が明けて騎士様に起こされた後、食事を済まして再び馬車に乗る。今回も暇なので他愛のないことを騎士様と話していた。
暫くしてふと外を眺めると、何処までも広がる澄んだ青色が目に写った。
「これが海?」
「ああ」
やっぱりこれが海なんだ。私が叶えたかった夢が1つ叶ったんだ。もう少しじっくり見たくて、馬車にから降りたいと言ったら、少しだけなと言って下ろしてくれた。
本当に綺麗だな。確かに私の瞳の色と似ている。でも、私の瞳とは違って、もっと澄んでいて、吸い込まれそう。本当に何時までも見ていられる。
「お母さんにもこの素敵な景色を見せてあげたいな」
「そうか」
お母さんに海をどのように説明しようかなと考えてしまうと、つい口角が上がってしまう。
「可愛い」
今まで私からしか口を開かなかったのに、初めて騎士様から口を開いた!? でも、それ以上に何よその発言。綺麗とは普段から言われ慣れているけど、可愛いなんて言われたことなんてないわ。
「無邪気に騒ぐ子どもみたいだな」
はい? もう一言余計だってば。もう腹立つ! それなのに何で胸のドキドキがとまらないのよ。
「海って壮大だよな」
こら! 話を逸らすな! でも、騎士様なら、見慣れているはずの光景の筈なのにどうしてそのように感じるのかしら? よく分からないわ。
「騎士様もそう思うのですか?」
「ああ。特に来たばかりの頃はな」
「もしかして騎士様は貴族じゃなかったりします?」
「いや貴族だ。ただ昔は庶民だった」
なるほど。元々庶民で田舎暮らしだったから昔は海は珍しくてそのように感じていたんだ。なんだか少し親近感を感じてしまう。それにしても、貴族になるなんて相当エリートなんだろうな。
「そろそろ行くぞ」
騎士様はそう言って私を馬車に乗せて、再び馬車は進み始めた。
長い間馬車に乗り、日が沈みかけた頃、先程は人も馬車もそこまでいなかったのに、急に多くなった。どうやら王都に来たらしい。たいそう賑わっており、その雰囲気に呑み込まれそう。華やかな街並みに目移りしてしまう。これが王都なんだ。
また、移動している間にお城が見えて息が飲み込んでしまう。とても大きくて豪華で、絵本に出てくるのお城そのものだ。こんな所に国王が住んでるのね。
城に到着したところで、騎士様にエスコートされて付いていった。
それにしても、周りにある物がどれも高価な物しかないわ。誤って壊してしまったりしたらどうしよう。
「大丈夫だ。そんな高価な物に近づいて歩きやしない」
何で私の考えていること分かるの? でも実際にそのように先導してくれているし、やっぱり気がきくのね。
少し安心して足を進めていると、豪華な椅子の上に豪華なものを身に着けた国王がいた。もう眩しすぎて、まともに目が開けられないってば。
「お前がリリィか?」
何だろう? 騎士様と同じことを聞かれているのに、何だかこっちの方が無性に腹が立つのだけど。
「ええ、そうよ。何があって私を呼び出したのかしら?」
本来ならこんな態度を取ったら駄目だろうけど、まともな態度は取りたくないわね。
「生意気な。まあ良い。お前には大事な役割がある。よく聞け」
偉い立場の人だけど、言い方が腹立つわ! 言うならさっさと言って。
「お前は儂の娘、つまり王女だ。だから1ヶ月後この国の王女として隣国の公爵のもとへ嫁いでもらう。精一杯儂の恥をかかせぬよう、明日から王女に相応しいマナーを身に着けよ。連れていけ!」
叔母様がああ言っている時点で勘づいてはいたけど、やっぱりお前が私の父親か! だから無性に腹が立ったんだわ。でも、そもそもこの高圧的な態度は何? 言っていることが無茶じゃない?
いやいやまず王女だって言われても、簡単にはいそうですかなんて受け入れられるわけないし、何で勝手に結婚相手を決められなきゃいけないわけ? 私は好きな人と結婚したいし、私よりも3倍も離れた下心ばかりの隣国の公爵だなんて絶対嫌。国の恥でも王女として育てられていない私には言われる筋合いが無いのに、何でお前の恥をかかせないようにマナーを身に着けなきゃいけないのよ。絶対お断りだわ。
でも、側に控えていた侍女に連れられて、部屋に連れて行かれて閉じ込められてしまった。侍女は明日からレッスンしますので、今日はもうお休みなさいませと言う言葉を残して、そのまま去っていった。
これはマズイわ。このままだとマナーレッスン地獄の後に、嫁がされてしまう。想像するだけでも嫌になる。早く逃げないと。
窓が開かないかとか、ドアを開けられないかとか、隠し穴はないかとか様々なところを探ってみたけど、全然抜け出せそうにない。このままだともう終わりだわ。
そんな時、ドアが静かに開いた。そこにいたのはなんと騎士様だった。騎士様は、サッと部屋に入ってきて、私の耳元で小声で静かにしてろと言ってお姫様抱っこをする。そして、そのまま部屋から出て行き走り出す。あっという間にお城から出ていた。
「この馬車に乗って逃げろ」
そう言って騎士様は私に馬車を乗せようとしたが、私は頑なに乗ることはしなかった。
「どうして? どうしてここまでしてくれるの?」
話を聞くと次の通りだった。
元々国王は浪費家であったものの、そこまでは酷くなかったが、最近極度に国の金を貢ぎこみ、国家金が少なくなっていると言う。そのため、リリィを大国である隣国の公爵と婚姻の関係を結び、補填しようと考えていたらしい。
一方騎士様は、国王が不正に利用しているのではないかと疑い、不正ならば見過ごすことが出来ないと、その真相を暴いて、不正をしていた暁には国王を摘発しようとしていたものの、決定的な証拠が見つからないどころか、手がかりさえまだ掴めていないらしい。本当は騎士のみんなでしたかったらしいけど、国王に逆らうのが怖くて誰も協力してくれなかったんだって。まさかリリィを呼び出された理由がそのためだったとは知らなかったらしく、自分が気づかなかったことを申し訳なく思い、逃がそうとしてくれたらしい。
お母さんと私を捨てている時点でもクズなのに、国の金を使った上に、今まで見向きもしなかった私を利用してチャラにしようだなんて虫が良すぎるわよ。
「本当にすまない。貴女まで国王の被害に遭っては駄目だ。逃げてくれ。貴女が逃げている間に必ず国王を摘発することを誓う」
騎士様の表情は真剣そのもので、また本当に心から申し訳ないと反省しているようだった。
「騎士様を信じます。でも、私も協力させてください。私は不正をしているのも見過ごせないし、何よりもお母さんを苦しい目に遭わせたことがどうしても許せないので、ぶっ飛ばしたいんです。申し訳なく思っているのなら、手伝わせてください」
「だが、かなり危険だ。そんな目に合わすわけにはいかない」
「確かに昨日迷惑はかけましたが、今回はしませんからお願いします」
「分かった。だけど、俺から離れないでくれ」
騎士様はかなり不安に思っていたようだけど、最後は渋々承諾してくれた。彼は何も悪くないのに、私を助けてくれるなんて本当に優しいと思う。その彼の優しさを利用して証拠を掴みに行こうとしていることには少し罪悪感を感じるけど、どうしてもお母さんのことを思うと許せなくてぶっ飛ばしに行くことにした。
馬車の中で眠っていたけど、日が明けたので裏ルートを使ってお城に戻ると、やはり私が失踪したことで大騒ぎになっていた。国王はカンカンであり、怒鳴り散らしていた。国王は部下達に私を捜すよう命令した。すると、国王は出かけると言って、1人の部下だけ連れて外に出て行ったのだ。ここ最近出かけるなんて言わなかった国王に違和感を感じ、騎士様は今日こそ尻尾掴んでやると意気込んで国王の後を追った。私も騎士様と同様に意気込んで付いて行った。
国王が来たのは、違法カジノ。騎士様はこんなところにカジノあったことも気づかなったし、注ぎ込んでいた理由のカジノだったと分かり驚愕していた。国王は変装してお金持ちの貴族を装っている。店員に対して、あり得ない額を提示してゲームをし始めた。
私達も変装し、少し参加して暫く経ったけど、それにしても国王が弱すぎて見ていられない。どうしてあんなに弱いのよ。通ったことが無い私より弱いって……。
最後まで勝てなかったようで、国王は大変ご機嫌斜めで、差し出された書類にサインをして帰って行った。店員は部屋を出て、違う部屋に移動した。そして、先程の書類を引き出しに仕舞って元の場所に戻って行った。
「あの紙を手に入れれたら摘発は出来るが、どうやって手に入れたら………」
「私が取ってくるわ」
あそこに書類があると分かっていて、黙っとけないわよ。もう実行するのみ!
人がいないタイミングを見計らってサッと引き出しを開き、先程の書類を取った。これで不正を暴くことが出来るわ。
騎士様の元へ戻ろうとした時、先程の店員が帰ってきて、見つかってしまった。店員が大声を上げて私達を捕まえようとしている。これかなりマズくない?
騎士様は再び私を抱えて、慌てて逃げ出す。私は、手に入れた書類を落とさないように必死に掴んでいた。
本当に危ないながらも、騎士様の足の速さで何とか逃げ切ることが出来た。
「ごめん。大丈夫か?」
私が勝手に行動して、酷い目にあったのに私を責めるどころか、私の身を心配してくれた。本当に優しいんだから。
それにしても、あとは少しだけ準備したら舞台は整うわね。さあ、あいつを成敗してやりましょう!
そして夕方。騎士様はお城に戻ってきて高らかに声を上げた。
「国王様、リリィ様を見つけて参りました」
「今すぐここに連れて来い!」
その命令に騎士様は笑みを浮かべて私を連れて行く。私は堂々と入っていった。
「何故勝手に失踪したんだ」
「捜し物があったからよ」
私は胸ポケットに仕舞っていた書類を取り出して、国王に見せつけた。
「これは何だか見覚えあるわよね。今日の朝、違法カジノに行った際に払うと約束した書類よ」
国王の顔は一気に真っ青になったものの、こんなことを言ってきやがった。
「そんなの知るか。儂を嵌めようとして用意しただけだろ」
はいはい。それぐらいの反論は想定していたわよ。
「実はこれをお前が書いた今までの書類と執筆鑑定したところ、同一であることが判明したわ。偽名を使っても執筆鑑定は誤魔化せないわよ。鑑定所でしっかり調べてもらったわ」
私は鑑定所の判子を指して本物であることを示した。国王はとてもワナワナしているが、まだ認めようとはしなかった。
「そんなの書いているだけで、実際に行ったと言う証拠はないだろう。それはただ遊び心で書いただけだ」
こんなの言い掛かりでしかないじゃない。言い訳が見苦しいわ!
「国王様、今一度自身のポケットを確認お願いします」
騎士様は不敵な笑みを浮かべ、自身で調べるように促した。国王は何の事だ、自身のポケットに手を入れる。すると、国王は何か見つけたようで、それを取り出した。
それは、カジノで使われていた珠であった。
「可怪しいですね。カジノに行ってないならどうしてその珠があるのでしょう。その珠はカジノで持ち出し禁止となっていて、決して意図的に外に漏らしたことはないようです。今回はたまたま中に国王のポケットに入ってしまい、それに店員も気づかなかったので、持ち出されたようですがね。これをどう説明しますか?」
国王はもう観念したようで、逆に開き直って切れ始めたのだった。
「そもそも国の金を国王が使って何が悪い? それは儂のものだろうが! あと何で親に対して恩を仇で返すような真似をする? 儂がいなければお前は生まれてないのだぞ!」
はあ? 勘違いも甚だしい。これはガツンと言ってやらないと。
「その認識がそもそも間違い。国の金は、国を運営するためのお金であって、お前だけのものではない! あと、そもそも育ててもらってないし、母親を蔑ろにした人にもらった恩なんてねえよ。お母さんは疲労で今寝込ませたくせに、自分のお陰で生まれたなんて威張るな!」
国王は、大変驚いたようだった。そんなことを言われるだなんて夢にも思わなかったんだろうな。本当は首絞めたいぐらいだけど、流石にそこまでは出来ないし。まあ十分か。
国王は騎士達に連れられた。こうして、私は2つ目の目的も達成することが出来たのであった。
「格好良かったな」
え? 今度は可愛いから格好良い? それもそれで言われ慣れてないからやめて欲しい。でもそれも嬉しいわよ。
それからこの国はどうなったかと言うと、まず国王は国家金の横領罪と私の育児放棄で懲役30年の刑が下された。
また、亡き正妃の息子である王太子が国王となり治めることとなった。彼は、父親の国王とは違って大変真面目で国民のことを考える人で、国民からも貴族からも支持される存在となったのだ。
騎士様は、男爵から伯爵へと出世して、騎士団長まで上り詰めた。
私は、王女として国の仕事に関与し、その働いたお金で、お母さん達にも生活費を渡している。お母さんの病は治り、叔父様と叔母様も相変わらず元気に過ごしている。
そして、私は伯爵夫人としても顔を持ち合わせている。夫は現在騎士団長のリアムで、かつて騎士様と呼んでいた人だ。プロポーズは私からこのように言ったのだ。
「お互い成り上がり同士、ずっと一緒に支え合いませんか」
彼は大変驚いていたが、すんなりと受け入れてくれた。今では国1番の仲良し夫婦とまで言われている。
私達が出逢ってから今までのお話は、国民は誰も知らない人がいないと言われるほど浸透しているのだ。
ご覧いただきありがとうございます。
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