求婚
ダイラ・リナレスはアウグスト戦士養成学校の中庭で一人、剣を振っていた。
遠目でも、特徴のある青髪はよく目立つので、すぐに気づけた。
大型結界ドームで戦った時と、服装が変わっている。
おそらく、オレが最後に炎をぶつけたことで、焦げて着られる状態ではなくなったのだろう。
・・・弁償したがいいのだろうか。
代わりの服は借りたのか、持参していたのか。
似合っているので持参品かもしれない。どちらでもいいのだが。
「おお! 意識が戻りましたか。よかった。」
ダイラは誰よりも早く、オレに気づいた。気配を感じ取る能力はさすがの一言。
「ありがとうございます。こちらのナタリアに回復してもらったので、怪我一つなく。
ただ、怪我は治ってもかなりの痛みだったので、気を失ってしまったんだと思います。
長い時間お待たせしました。」
ナタリアは軽く頭を下げたがダイラは全く見ていない。
「いや、私もそれほど長く待っていたわけではないのです。
最後のエリアス様の攻撃で全身を焼かれまして、先ほどなんとか治療が終わったばかり。
魔法にもある程度対処できるつもりでしたが、あのような攻撃を受けたのは、生涯初めてでした。
死の予感に襲われたのも、同じく初めて。お見事でした。」
ん? 敬語? エリアス『様』?
「いえいえ、本当に申し訳なかったです。
それこそ、私もこれは死ぬ、と脳裏をよぎって。最後は本気で攻撃してしまいました。」
「エリアス様。」
「はい?」
「今、『最後は』本気で、と申されましたね?」
「・・・ええと、表現の仕方が良くなったですね。
ずっと本気だったんですが、最後だけ、死に歩み寄られた状態だったので、普段出すことができない爆発力が顔を出した、という感じでしょうか。」
「いえ、エリアス様。あなたは最初のうちは本気ではなかった。」
「・・・そんなことは。」
「何故なら。あなたは当初、私を殺す気がなかった。
殺すつもりで、と始めに話していたのにも関わらず。
どうしてって?
私の動きを氷で封じた時点で、エリアス様に私を殺す気があれば、あそこで勝負は終わっていました。
が、エリアス様は殺す気がなかったため、私を氷で封じた次の瞬間、ホッとされましたよね?
大きな隙でした。
そしてその隙のおかげで、私は反撃の一撃を繰り出すことができましたし、最後にはどうにか奥義も繰り出せたのです。」
さすがに超一流剣士、よく見ている。
確かにそういう気持ちがあったのは間違いない。
だが、それは言うまい。
「とんでもないです。仮に再戦しても、オレに勝ち筋は全く見えませんしね。
そして、最後の衝撃波は、奥義、ですか・・・あれは恐ろしかった。」
正直な感想だ。本当に心が折れた。
「エリアス様。敬語はおやめください。」
「いやいや、それはこちらの言葉ですよ。どうしてダイラ様が敬語になってるんですか?」
「勝負こそ、結果的に引き分けのような形になりましたが、私はあなたを尊敬すべき強者だと認識したのです。
今後は私のことは、ダイラ、と呼び捨てでお呼びください。」
恭しくダイラは頭を下げた。
考えてもいなかった展開だが、しかしこれはこれでありだろうか。
ダイラがオレのことを親密に考えてくれるのであれば、今後の話は早い。
「・・・わかった、ダイラ。それなら、お互いに堅苦しい言葉遣いはやめよう。」
「エリアス様がお望みならそのように。いずれにしても。」
と、ダイラは続ける。
「私は概ね満足できる戦いが出来たと考えてはいるものの、エリアス様が最初から本気ではなかった、という不満は残りました。
これは完全にエリアス様の不手際。よって、いずれまた手合わせいただきたい。」
いや、もう御免蒙る。
命がいくつあっても足りない。
「冗談でしょ! 今回だってエリアス、本気で死んでてもおかしくなかったんだから!」
オレの心の叫びをナタリアが代弁してくれた。
ただ、あまりダイラを刺激はしないで欲しい。
「・・・そなたは? エリアス様の何だ?」
「え? ・・・幼馴染で友達よ! 私が彼を治療したの!」
先程軽く紹介したのに、ダイラはやはり何も聞いていなかったらしい。
というより、興味のない者にはとことん興味を持たないということか。
「そうか。では確かに悪いことをした。エリアス様の大けがを見て、さぞ肝を冷やしたことだろう。だが、真剣勝負の結果ゆえ、理解していただきたい。いずれにしても、エリアス様の妻や恋人でなくてよかった。」
「つ、妻?」
「エリアス様。」
ダイラはオレの正面に立ち、まっすぐに目を見てきた。
身長はオレより少し低いくらい。
童顔で青い髪と瞳を持ち、その凛々しい立ち姿は本当に絵になる。
「私をあなたの妻にしてもらえないだろうか。」
「え!?」
「えええええ!?」
オレとナタリアは同時に素っ頓狂な声を出した。
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