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愛する姫はもういない  作者: 桜木ひかり
7/18

求婚

 ダイラ・リナレスはアウグスト戦士養成学校の中庭で一人、剣を振っていた。

 遠目でも、特徴のある青髪はよく目立つので、すぐに気づけた。

 大型結界ドームで戦った時と、服装が変わっている。

 おそらく、オレが最後に炎をぶつけたことで、焦げて着られる状態ではなくなったのだろう。


 ・・・弁償したがいいのだろうか。


 代わりの服は借りたのか、持参していたのか。

 似合っているので持参品かもしれない。どちらでもいいのだが。


「おお! 意識が戻りましたか。よかった。」


 ダイラは誰よりも早く、オレに気づいた。気配を感じ取る能力はさすがの一言。


「ありがとうございます。こちらのナタリアに回復してもらったので、怪我一つなく。

 ただ、怪我は治ってもかなりの痛みだったので、気を失ってしまったんだと思います。

 長い時間お待たせしました。」

 

 ナタリアは軽く頭を下げたがダイラは全く見ていない。


「いや、私もそれほど長く待っていたわけではないのです。

 最後のエリアス様の攻撃で全身を焼かれまして、先ほどなんとか治療が終わったばかり。

 魔法にもある程度対処できるつもりでしたが、あのような攻撃を受けたのは、生涯初めてでした。

 死の予感に襲われたのも、同じく初めて。お見事でした。」


 ん? 敬語? エリアス『様』?


「いえいえ、本当に申し訳なかったです。

 それこそ、私もこれは死ぬ、と脳裏をよぎって。最後は本気で攻撃してしまいました。」


「エリアス様。」


「はい?」


「今、『最後は』本気で、と申されましたね?」


「・・・ええと、表現の仕方が良くなったですね。

 ずっと本気だったんですが、最後だけ、死に歩み寄られた状態だったので、普段出すことができない爆発力が顔を出した、という感じでしょうか。」


「いえ、エリアス様。あなたは最初のうちは本気ではなかった。」


「・・・そんなことは。」


「何故なら。あなたは当初、私を殺す気がなかった。

 殺すつもりで、と始めに話していたのにも関わらず。

 どうしてって?

 私の動きを氷で封じた時点で、エリアス様に私を殺す気があれば、あそこで勝負は終わっていました。

 が、エリアス様は殺す気がなかったため、私を氷で封じた次の瞬間、ホッとされましたよね?

 大きな隙でした。

 そしてその隙のおかげで、私は反撃の一撃を繰り出すことができましたし、最後にはどうにか奥義も繰り出せたのです。」


 さすがに超一流剣士、よく見ている。

 確かにそういう気持ちがあったのは間違いない。

 だが、それは言うまい。


「とんでもないです。仮に再戦しても、オレに勝ち筋は全く見えませんしね。

 そして、最後の衝撃波は、奥義、ですか・・・あれは恐ろしかった。」


 正直な感想だ。本当に心が折れた。


「エリアス様。敬語はおやめください。」


「いやいや、それはこちらの言葉ですよ。どうしてダイラ様が敬語になってるんですか?」


「勝負こそ、結果的に引き分けのような形になりましたが、私はあなたを尊敬すべき強者だと認識したのです。

 今後は私のことは、ダイラ、と呼び捨てでお呼びください。」


 恭しくダイラは頭を下げた。

 考えてもいなかった展開だが、しかしこれはこれでありだろうか。

 ダイラがオレのことを親密に考えてくれるのであれば、今後の話は早い。


「・・・わかった、ダイラ。それなら、お互いに堅苦しい言葉遣いはやめよう。」


「エリアス様がお望みならそのように。いずれにしても。」


 と、ダイラは続ける。


「私は概ね満足できる戦いが出来たと考えてはいるものの、エリアス様が最初から本気ではなかった、という不満は残りました。

 これは完全にエリアス様の不手際。よって、いずれまた手合わせいただきたい。」


 いや、もう御免蒙る。

 命がいくつあっても足りない。


「冗談でしょ! 今回だってエリアス、本気で死んでてもおかしくなかったんだから!」


 オレの心の叫びをナタリアが代弁してくれた。

 ただ、あまりダイラを刺激はしないで欲しい。


「・・・そなたは? エリアス様の何だ?」


「え? ・・・幼馴染で友達よ! 私が彼を治療したの!」


 先程軽く紹介したのに、ダイラはやはり何も聞いていなかったらしい。

 というより、興味のない者にはとことん興味を持たないということか。


「そうか。では確かに悪いことをした。エリアス様の大けがを見て、さぞ肝を冷やしたことだろう。だが、真剣勝負の結果ゆえ、理解していただきたい。いずれにしても、エリアス様の妻や恋人でなくてよかった。」


「つ、妻?」


「エリアス様。」


 ダイラはオレの正面に立ち、まっすぐに目を見てきた。

 身長はオレより少し低いくらい。

 童顔で青い髪と瞳を持ち、その凛々しい立ち姿は本当に絵になる。


「私をあなたの妻にしてもらえないだろうか。」


「え!?」


「えええええ!?」


 オレとナタリアは同時に素っ頓狂な声を出した。


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