三角関係+1
以降、ダイラは忙しい修行の日々の合間を見つけては、オレのところに通ってくるようになった。
学生ではないのだが、平気で学校の敷地内にも入ってくる。
そこまで厳しく部外者の立ち入りを制限されているわけではないのだが、何の躊躇もなく定期的にずかずか入ってくる図太さはさすが向かうところ敵なしの剣士様だ。
とはいえ、見た目は可憐な高嶺の花のような存在なので、男の学生にはむしろ歓迎されているようだ。追っかけやファングループのようなものができるのも、もしかしたら時間の問題かもしれない。
ダイラのことを、「メチャクチャかわいい」、「美しすぎる」、「かっこよすぎ」などと評する声は、よくオレの耳にも届いてくる。
まぁ、そもそもが4大公爵のご令嬢でもあり、普通ならお目にかかることも難しい存在と考えれば、アイドル的人気となってもおかしくはないのかもしれない。
一般的には遠い存在である4大公爵を近くに感じられるという意味では、アウグスト戦士養成学校に頻繁に出入りするダイラの行動も、悪いことではない。
ただ、一つだけ、ダイラには大きな問題があった。
「エリアス様!」
オレを見つけると、ダイラはすぐに近くにやってくる。
それはいい。だが、それからの距離感が、近すぎるのだ。
すぐに腕に絡みついてくるのはまだいい方で、後ろから抱きついてきたり、気が付けば顔を、頬が触れ合うのではないかという至近距離にまで近づけてきたり、恋人同士でしかありえない距離感で詰めてくる。
都度注意するのだが、彼女は全くへこたれない。
そんなことで諦めるようなら、最強剣士になどなれない、ということなのかもしれないが、自分の欲望に忠実すぎる。
諦めた。という言葉は一体なんだったのか。
よくよく考えたら、そういえば「一旦」とか言ってたな。
一旦諦めた。
便利な言葉だなおい。
諦めた、という言葉とは裏腹に、姫は亡くなった(とされている)のだから大いにチャンスはある、と考えているのかもしれない。
そして、オレにしても、ダイラほどの女性に近寄られて悪い気がするわけもなく、「あんまり強く注意して本気で怒らせたら殺されちゃうしな・・・」と言い訳をしつつ許している部分があるのも良くないのだと思う。
姫のことを忘れることは絶対にないものの、正直、ダイラに徐々に心をほぐされている感覚はある。
気が付けば、ダイラのことを神聖視したりアイドル的に追いかけたりする層とはまた別に、オレの通い妻のように噂する人たちも増えつつあった。
イサ―クはいつものようにニヤニヤ笑いながら何も言わなかったが、ナタリアは何故か絶望的に日に日に機嫌が悪くなっていた。
「今度ダイラに、父上のリナレス家当主、シーロ・リナレス様を紹介していただけることになったんだ。」
「あら、義理のお父様にご挨拶? 最近ずいぶん仲がよろしいですものね。」
「・・・いや、そうじゃなくて。」
まぁ、わかっていて言っているのだろうが。
ナタリアとしては、ウナムーノ家よりも先にリナレス家に行くことになったのも面白くないのかもしれない。
本来、どっちが先とか後とかは関係ないし、姫に関する情報さえ入手できればどちらからでもいいのだが、難しい話だ。
「エリアス様!」
オレもいつもいつもナタリアと一緒にいるわけではないのだが、たまたま話をしている時に限って、ダイラは折り悪くやってきたりする。
「・・・!」
ナタリアは憎悪のこもった瞳をダイラに投げつけている。
オレとナタリアの間の物理的距離が、人二人が入る程度だとして、オレとダイラの距離はゼロだ。
密着。
隣に何の遠慮もなしに引っ付いてくる。
多少なりともナタリアの怨嗟のオーラに気づいているとは思うのだが、ダイラはお構いなしだ。
「ねぇあなた。エリアスが姫の婚約者だってこと、わかってるの?
いっつもいつも、近すぎない?」
いつもの戦いが始まった。
この戦さは、100パーセント、ナタリアによって開戦の狼煙が上がる。
「そんなことは言われるまでもないな。
私はエリアス様に親愛を表現しているだけだ。他意はない。」
と、キリッとしたことをナタリアにはいいつつ、オレの耳元で「エリアス様ぁ」とかささやいていたりするから恐ろしい。
これがあのリナレス流剣術の最高峰?
ギャップ萌えすぎてやられてしまいそうになる。
「明日のリナレス卿へのご訪問は、予定通りで大丈夫?」
オレは席を立ってダイラとの距離を取りつつ、一番大事な要件について、確認した。
「大丈夫です。父も楽しみにしているようです。
まぁ、表情や態度には出さないでしょうが。」
リナレス卿の耳にも、オレとダイラの模擬戦の内容については伝わっており、かなりの興味を持たれているそうだ。
オレの実力以上に期待されすぎても困るが、4大公爵の一人という、本来ならオレの手が届くはずもない相手が、時間を取って会ってくれる運びとなったのだから、その点は素直に喜びたい。
「元々リナレス家は魔法剣士に対していい感情を持っていないと聞いていたけど、その点については?」
「それは確かにその通りの面もあります。
ただ、一方で誤解もあります。
父も私も、すべての魔法剣士に対して悪感情を持っているわけではないのです。
父曰く、剣術一本ですら道を極めることができない者が、付け焼き刃として別の道に逃げ込んで、物になろうか、と。
剣にも魔法にも真摯に打ち込み、道を極めんとする方に対して、礼を失するようなことはありません。」
出会った瞬間吊るされるようなことはなさそうだ。
とはいえ、愛娘のダイラに瀕死の重傷を負わせたのは疑いようのない事実。
ある程度の罵倒は覚悟しておいたがいいだろう。
「いずれにしても、エリアス様は私にとって特別なお方。
父にも文句は言わせません。」
そうダイラは続けつつ、逃げたオレにさらに追いすがり、くっついてこようとする。
咄嗟に席を立ったナタリアが、オレとダイラの間に入ってきて、ダイラを押し返す形になった。
その刹那、ダイラの手が背の剣に伸びた。殺気!
・・・ナタリアが切られる。
オレは気づいてダイラを制止しようとしたが、それより早く、ダイラの後方にいたイサ―クの筋肉質な腕がダイラの細腕を掴んで押しとどめた。
「おおっと、ダイラちゃんよ、三角関係も大変結構。だけどよ、そんな物騒なものを持ちだしたら、これは一向に面白くないよ?」
笑顔で言い放つイサ―クに対して、冷たい目でそれを見返すダイラ。
本当に瞬間的なものでしかなかったが、先にナタリアに対して、次にイサ―クに対して、ダイラからは確実な殺気が飛ばされていた。
だが、次に気づいた時にはダイラは既に柔和な笑みをたたえており、ナタリアを回り込んで結局オレの横に陣取りつつ口を開いた。
「イサーク、別にお前に恨みはないが、万が一私の敵に回るなら、その防御力をもってしても私は止められないことを忘れないようにな。」
・・・ちょっと、怖すぎるんですけど。
この人もしかして、こういうところで今までお見合い失敗してきたのでは、と思ってしまった。
イサークは変わらず笑っているが、ナタリアはダイラの殺気にやられたのか、青ざめている。
ほらほら、ダイラの怖さを忘れて突っかかるからこうなる。
怒らせたら世界一怖い青髪お姉様ですよ?
「ま、せっかくエリアスを介して知り合ったんだ。仲良くしましょうや?」
「私がお前と仲良くする義理はない。」
ダイラの笑顔はまったくブレないが、目だけは全然笑ってない。
「えぇ? そんなこと言っていいんですかい? オレはエリアスの親友ですよ? ついでにナタリアも。なぁ、エリアス。」
「ついでって何よ!」
しっかり突っ込むナタリア。
話を振られたオレは、イザークの意図を感じ取り、ここでもう一度ダイラに釘を刺しておくことに。
「そうだな、イサークもナタリアも、オレの命の恩人でもあるし、一番仲が良い友達だ。
ダイラも仲良くしてくれるよな?」
ダイラの首筋に右手を優しく添えて、少し頭を引き寄せ、顔を近づけながら念を押すように言う。
「・・・エリアス様が、そうおっしゃるなら。」
顔を赤らめながら目を逸らしたダイラ。
彼女の扱い方が、なんとなくわかってきた気がする。
「時にダイラちゃん、リナレス卿によ、オレも一緒に会わせてもらったりできないかなぁ?」
お?
イサークがオレも全く聞いていなかった話をしだした。
「それは無理だ。」
即、ダイラは却下した。
「えー、どうして?」
「父に紹介する未来の夫はエリアス様一人で十分だ。」
「いや、ちょっと待って?」
聞き捨てならないことを言い出した。さすがに止めた。
「オレ、リナレス卿にダイラの未来の夫として紹介されるの? それは聞いてなかったよ?」
「いや、そういう可能性もある、という話で。あくまで可能性の話なのでお気になさらず。」
「なにそれ、うっざ!」
ナタリア復活。
だからそういう言い方すると、切られかねないからやめろ、と言いたい。
大体、どこでそんな言葉覚えたんだ・・・ってオレかな?
「可能性の問題なら、エリアスだけじゃなくオレにも未来の夫って可能性あるじゃん?
同じ感じで紹介してもらえれば助かるよ。」
「いや、意味がわからない。」
やれやれと首を振るダイラ。
未来の夫とか言われ、一番意味がわからないと思ってるのはオレだけどな。
「で、イサークは、何のためにリナレス卿に会いたいんだ?」
今の今までイサークからそんな話を聞いたことがなかったから、単純に興味を持った。
実は一つ、心当たりはあり、一定の想像はできているのだが。
「そりゃ、剣の世界のトップだからよ。
今の自分がどれくらい通用するのか、さらに今後の自分の伸びしろを知りたい。
どれくらいまで防御力を高めることができるのかってことを確認するためにもさ、会ってみたくてね。」
純粋に武人としての興味か。
ダイラがいるこの場での回答としては100点かもしれない。
ウソではないだろうし。
「・・・そういうことなら、一応頼んでやらなくもない。
明日、断られることを前提に出てこい。
許可が出れば会うことができるかもしれない。」
「おっ、助かる! 期待してるぜ!」
武人としての向上心は、ダイラにとって不快なものではないらしい。
かくしてオレとイサークは、その翌日、ラファエラ王国4大公爵の一人、リナレス卿ことシーロ・リナレスに面会することになった。
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