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愛する姫はもういない  作者: 桜木ひかり
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姫に会いたい

物語全体のざっくりとした内容は書きあがっているので、ある程度テンポよく更新していければと思っています。

結構伏線等も置いていて、最終的にはすっきり回収しますので、そうした物語が好きな方も是非。

感想などいただけるととても嬉しいです。

 いやいやいや、ありえないっしょ。

 昨日まで普通に通してくれてたのに、いきなり通せんぼなんて。

 そして信じられないことを顔見知りの衛兵は口走るに至り、オレは目の前が真っ白になった。


「姫はお亡くなりになった。

 お前の会うべき姫はもうおられない。

 ゆえに許可なくここを通すわけにはいかない。」


 王宮に入るための裏口にあたる門の前にオレはいた。

 いつも通り、姫に会うためにやってきた。

 週二回、オレは交際している姫と会うことを許されていた。

 許可を出したのは姫の父たる王だ。

 王の権限において、オレは特別に裏口からの王宮への出入りが可能となっていた。


 姫とオレが正式に交際を始めてからもう一年になる。

 一年の間、同じようにオレはこの裏口を通って姫の元へ通っていたのだ。

 勝手知ったる、というやつで、ごくごく当たり前の日常だった。

 王宮に行くからと言って、特別な緊張感を持つことももうなかった。

 結婚こそタイミングの問題でまだしていなかったが、婚約はしていた。

 オレと姫は、夫婦になることが約束されていたのだ。それなのに。


「何度も同じことを言わせるな。

 関係者以外、ここを通すわけにはいかない。」


 新人の衛兵だろうか?

 オレのことを知らないのではないか。


「あの、あなたは新人の方ですか?」


「何を言う、この一年同じように顔を合わせていただろう。

 お前が通い始めるずっと前から私はこの任務に従事している。」


 喋り方も、顔にも確かに見覚えがある。

 いかにも衛兵、と思わせる、ステレオタイプないかつい角張った顔と、筋肉隆々の長身。

 間違いない。

 この一年、何度も顔を合わせてきた男だ。

 衛兵が新人に変わり、そのためにオレのことを知らない、というわけではない。

 だがそれならば何故。


「ですよね?

 ではなぜ今日に限ってオレを通してくれないんですか?

 いつも挨拶一つで通してくれるじゃないですか。」


 衛兵は大きく一つため息をついた。


「いいか。よく聞け。これが最後だ。

 姫は亡くなられた。

 それはつまり、お前が婚約者を失ったということだ。

 婚約者たる姫がお隠れになった以上、その時点でお前はこの王宮に出入りする目的も資格も同じく失ったのだ。

 よって、私は断固としてここを通すわけにはいかない。」


 ・・・亡くなった?

 さっきもそんなことを言っていた。

 意味がわからない。意味が。

 その言葉が表現する事象がわからない。

 いや違う、理解はしていた。だが脳が、拒否していた。

 その言葉を受け入れてはいけないと、全身が主張していた。

 オレは黙った。

 一度、目をつぶる。

 そして衛兵の言葉を、少しずつ、少しずつ、我が身に浸透させていく。

 衝撃に備えるために。


「姫は今、何をされているのですか?」


「亡くなったのだ。

 姫は亡くなられたのだ。

 もうこの世には、いらっしゃらない。

 会うことは永遠に叶わない。」


 亡くなった・・・死んだ?

 姫が?


 いや、だって、数日前に会ったばかりだし、普通に元気だったし、病気の気配なんて一つもなかったし、そんなことがあるわけがない。


「ウソを言うな。」


 つい、詰問口調になった。

 そうじゃない、今は冷静にならなければ。


「ウソなどつくわけがなかろう。本当のことだ。」


「姫には数日前にお会いしたばかりです。

 お元気でしたよ?

 人がそんなに急に死ぬはずがない。」


「気持ちはわかる。

 だが、事実だ。

 王と王妃、そして王子によって事実確認がなされている。」


 王と王妃、王子も?

 三人の顔が脳裏に浮かぶ。

 皆、笑っていた。

 笑った顔しかみたことがないからだ。

 非常に優しい方々なのだ。


「・・・ならば、一度王に、いや王子でもいい、どちらかに会わせてください。

 何がなんだかわからない。」


「それは叶わぬ。

 先ほど言った通り、姫がお亡くなりになったことで、お前と王家との特別な関係性は消滅した。

 お前は優秀な魔法剣士と聞いているが、王に会うためには正式な手続きを踏む必要があるのだ。

 そしてそもそも、そう簡単に王への謁見など叶わぬ。今までとは違うのだ。」


 衛兵は頑として譲らない。

 理屈はわかる。わかるのだが、それは違うんじゃないか。

 仮に、もし本当に姫が亡くなられたとして、その婚約者であるオレがその場にいることを許されないなんてことがあるのか?

 亡くなられた姫に、目通りを許されないなんてことがあっていいのか。

 王子だって、王だって、オレに対していつも懇意にしてくれていたじゃないか。なのになぜ。

 いや、それもそうなんだが、そうじゃない。

 そこじゃない。

 前提が間違っている。


「姫が亡くなるはずがない。これは何かの間違いです。会わせてください。」


「できぬ。」


「では、せめて王か王子に取次を!」


「何度も言わせるな。

 それもできぬ。

 これはお二人から直々の命であり、ご意志である。」


 そんな馬鹿な。そんな馬鹿なことがあるのか。

 急に胸の奥底から駆けあがってきたどす黒い感情により、オレは剣に手をかけ魔力を込める。

 過去、経験したことがないほどの破壊衝動が今、確実にオレの中にはあった。


「ならば力づくでも!」


「血迷ったか!

 その剣を抜けば、それはすなわち反逆罪である!

 王および国家全体を敵に回すことになるのだぞ!

 それは姫のご意志にも逆らうことになる!」


 姫の意志?

 姫の意志とはなんだ?

 オレ以上に姫の意志がわかる人間がいるとでもいうのか。

 姫の意志というのなら、オレを姫に会わせろ!

 突然姫が亡くなったと言われ、王宮には入れないとされ、何がなんだかわからない状況の中での衛兵の態度と言葉は、冷静に、冷静にと自分に言い聞かせていたオレの自制心を簡単に破壊した。

 この衛兵を倒して強引に王宮内に乗り込んだところで、何も事態は解決しないどころか、余計にややこしいことになる。

 オレは反逆者となり、王宮を守る騎士団や魔法使い、王直属の親衛隊らによって、確実に殺されてしまうだろう。

 無意味だ。

 そうした未来は、刹那、オレの脳裏を確実かつ鮮明によぎった。

 しかし止められない。

 ここで引くわけにはいかない。

 だが、一歩を踏み出したら、終わりだ。

 進め、という暴走した自分と、止まれ、という自制心を持った自分に挟まれ、オレは一歩も動けなくなった。

 騒ぎを聞きつけてか、目の前の衛兵の後ろには、応援が続々と駆け付けつつあった。

 何人だ、十人以上?

 大丈夫、オレ一人でもそれくらい片付けられる。

 いくぞ、いくぞ!!


「エリアス! 何をやってんだ!!」


 聞き慣れた声と同時に、腰に重い衝撃を感じた次の瞬間、オレの体は思い切り側方へと飛ばされていた。

 痛みが後からやってくる。


「・・・な!」


「お許しください!

 こいつは今、混乱しているんです!

 剣を抜こうとしたのも気の迷い、反逆の心など持ち合わせておりません。

 私が責任を持って、この馬鹿を連れて帰り、言い聞かせますので、どうかこの場はご容赦を!!」


 衛兵たちに頭を下げている、イサーク・オルティスの姿が見えた。

 オレと同じ戦士養成学校の同級生だ。

 なぜここに。いや、それよりも。


「イサーク、何を言う・・・ぐっ!!」


 オレが言葉を続ける前に、素早く移動してきたイサークは、黙らせるようにオレの腹部を強かに蹴った。


「この馬鹿が!

 頭を冷やせ!!」


 一撃では済まなかった。

 イサ―クは何度も、容赦ない蹴りを続けた。

 強烈な痛み。骨の数本は軽く折れているのだろう。

 衛兵の手前、手加減できなかったということもあるのだろう。

 同時に、本気で怒ってもいるのだとオレは感じた。

 そんな、イサークの蹴りは、オレの頭を徐々に冷やしてくれた。

 冷えはしたが、同時に意識が遠くなっていく。


「そこら辺にしておけ、本当に死ぬぞ。

 ・・・さっさと連れて帰れ。」


 オレの要望をすべて拒絶した衛兵は、イサークに対してそれだけ言うと、集まってきていた他の衛兵たちをすべて解散させた。


「は! ありがとうございます!

 失礼いたします。」


 イサークは蹴りをやめ、オレを担ぎあげると、そのまま足早にその場を後にした。

 オレが吐き出した血が、イサークの肩をどす黒く染める。


「・・・帰るぞ。」


 遠くでイサ―クの声が聞こえた。

 痛みと絶望と、なんだかよくわからない感情の中で、オレは一度考えることをやめ、すべてをイサ―クに委ねた。


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