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別の世界ではただの日常です

謝罪会見

作者: 茅野榛人

「おい、おい! ちょっと!」

「え、な、何ですか?」

「行かないと!」

「え? いや、えっと、どこに?」

「謝罪会見! 今から行かないと! ほら!」

「え? 謝罪会見? え? ちょっと、どういう事ですか?」

「は? お前さっき商品床に落としたじゃねえかよ!」

「いや、それはまあ、はい、落としました。申し訳ございませんでした」

「そんな軽々しく頭下げるだけで済む訳ねえだろ! ほらとっとと謝罪会見して来いよ!」

「あの、その、謝罪会見って一体何ですか?」

「そこからかよ! 自らの過ちを謝罪する会見の事だよ!」

「あ、いや、それは分かっているのですが……」

「なら何が分からない?」

「あの、謝罪会見って、有名人とか、重役の人とかがするものだと思っているんですけど、僕、一般人ですよ?」

「……何を言っている? 謝罪会見は身分関係無くするものだろ!」

「……え?」

「兎に角、今直ぐ行け! 話は俺がつけてやるから! 会見開かなかったってなったらお前は勿論、店長の俺の首もあぶねえんだからさ!」

「……はい」


「ちょっとこれ本当にマジな謝罪会見じゃないですか! しっかりとマスコミがいて……」

「そりゃそうだろうが! お前さっきからどうしたんだよ? あ、まさかお前、謝罪会見した事無いんか?」

「え? いや無いですって、って言うか、俺みたいな有名でも何でも無い人が謝罪会見なんて……」

「しー! 嘘でしょ……お前マジかよ……謝罪会見した事無いんか?」

「……はい」

「お前それ……人生で一度も失敗をしてきませんでしたって言ったようなもんだぞ……」

「いや……失敗は沢山してきました……でも……」

「マジで? 参ったなあ……お前失敗しても謝罪会見開かなかったのか……」

「……はい」

「お前……失敗しても謝罪会見を開かなかった事は誰にも言うな……言ったら……うちのコンビニエンスストアの信頼は地に落ちるからな」

「……は……はい」

「一応言っておくが、今回は、商品を袋に入れている時に、商品を床に落としてしまった事だけを謝罪しろよ。失敗しても謝罪会見を開かなかった事は今後一切口をつぐめ、良いな」

「……はい」


「……この度は、僕の不注意により、商品を袋に入れている時に、商品を床に落としてしまい、お客様、及び、関係者様へ、多大なるご迷惑をおかけしてしまった事を、深く、お詫び申し上げます。大変、申し訳ございませんでした」

「何故商品を床に落としたりなんかしたのですか?」

「思わず、手が滑って、落としてしまいました」

「ストレスによる発作的行動だったのではありませんか?」

「いやいや! そんな事は……ただのミスです」

「本当に心の底から反省しているのでしょうか?」

「しております! 心の底から……反省しております……大変申し訳ございませんでした……」

「お見掛けしない顔ですが、今までに一度も謝罪会見は開いて来なかったのですか?」

「……はい……そうです」

「そのような方が、どうしてこのような失敗を?」

「……疲労でしょうかね」


「……ただいま」

「おかえり」

「……」

「……見たよ、謝罪会見」

「え……見たって……」

「ニュースでしっかりと流れてたよ、O君の頭を下げる姿」

「マジか……ニュースで流れたのか……」

「……うん」

「ごめん! 本当にごめん……」

「良いの……」

「僕の感性が間違ってた……」

「え?」

「謝罪会見なんて……有名人とか……お偉いさん方がするものだとずっと思ってた……でも……それは間違いだった……身分関係無しに……失敗したら……謝罪会見を開く……今更気が付いたこの僕を……どうか……許して下さい……」

「……良いんだよ……気にしなくて良いから……頭上げてよ」

「ありがとう……ありがとう……」

「大丈夫……今まで謝罪会見を開いて来なかった事は……黙っておいてあげるから……その代わり……私の側に一生いてよね……」

「ありがとう……本当にありがとう……Rちゃん!」

「良いのよ……O君」


「誕生日に、何が良いかなって思っててさ」

「うーん、彼女ゲーム好きだったりする?」

「あ、めっちゃ好き、小さい頃はゲーム漬けだったって言ってたし」

「家にゲーム機は?」

「無い」

「じゃあゲーム機買っちゃえ」

「買っちゃうか!」

「買っちゃえー!」


「はい、どちら様ですか?」

「Oさんですね?」

「……はい」

「謝罪会見の時間が迫っておりますので、お迎えに上がりました、こちらへどうぞ」

「……え?」

「こちらへどうぞ」

「いや……あの……僕別に失敗してないんですけど……」

「こちらへどうぞ」

「……」


「お乗り下さい」

「……はい」

「よし、出して下さい」

「分かりました」

「あの……僕別に失敗してないんですけど……」

「Rさんから、Oさんが浮気をしたと言う情報を頂きまして、謝罪会見を開く事になりました」

「え? う……浮気? 僕浮気なんかしてませんって……」

「……」

「あの……聞いてますか? 僕浮気なんか……あ! まさか……いやあの人とは、そう言う関係では全くありません! Rちゃんへの誕生日プレゼントを選ぶ手伝いをして貰っていただけです!」

「……」

「すみません! 降ろして下さい! これは間違いなんです! 降ろして下さい!」

「……」

「降ろせ! 僕は浮気なんかしていない! 降ろせ!」

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