1-1 ランキング圏外の休日
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『本の中にある、なにも書いていない空白ページみたいな名前だな』
精一杯捻り出した俺の皮肉は、あのガキの無邪気な笑顔にかき消された。
俺の物語はきっと、そこから始まっていたのかもしれない。
◇◇◇
(今日のランキングは二百三十七位か……。くそ、昨日より百位近くも下がってる……)
大手小説投稿サイトのランキングページは、今日も流行りのタイトルと物語で埋め尽くされていて俺の小説タイトルなんてまるで存在していないかのような賑わいをみせていた。
「……」
持っていたスマホの画面をスリープにして空を仰ぐと、紺碧の空にぽつんと浮かんだ三日月が慰めるように俺のことを見下ろしていて、妙に虚しい気持ちになる。
――頬に触れる風がいまだ猛暑の名残を思わせる九月中旬。その日の俺はお台場にいた。
普段、プライベートではあまり外に出ることがない俺にとって、そこは究極の娯楽施設集合地帯といえるが、特に何か予定があるわけではない。
仲睦まじいカップルや道ゆく家族連れをただぼんやり眺め、人間観察という名の暇つぶし、気分転換という名のネタ探しをしながら、持て余していた有給休暇を消化する。
最高に贅沢で最高に無駄遣いなこの時間は、果たして今の俺にとって何かメリットがあるのかどうかよくわからなくなりつつあるが、職場の口うるさいおばちゃん集団にしつこく聞かれる『休日の過ごし方』について、答える材料ができただけでもよしとしよう。
独り身で彼女もいない俺の休日の大半は、趣味である小説を書いて終わる。中学時代から続いているこのささやかな趣味は、職場の人間はおろか学生時代の友人や離れて暮らす家族にさえも秘密にしているため、毎回、休日や趣味の話題が出るたび返答に苦心してきた。
成果さえ出せれば少しは胸を張って周りにも言えるのに、必死な思いで書き上げてウェブ投稿した作品の数々は軒並みランキング圏外に追いやられ、最後の一手となる新作も本日の順位は二百三十七位と全く奮わず終い。
ネタ帳のメモが尽き、もはや精根まで尽き果てたがために気分転換で訪れたお台場だったが、やはり俺には敷居が高すぎた。デートスポットとして描くにしても、恋愛経験値が低すぎる俺にはそもそも恋愛小説なんて書ける気がしないし、小洒落た街並みを舞台にしたミステリー小説を書くにしても、謎解きや名推理を考える技量が俺にはない。
(なにやってんだよ、俺)
迷走もここまでくるともはや手の施しようがない。深くため息をつくと、月明かりの中で見ていたスマホをポケットにしまって立ち上がる。
時刻は十九時二十二分。どこかで飯でも食って帰ろうと、俺は手頃な店を探し始めた。




