モフモフ相棒ペッピーノ 3
深夜までの営業を終えて帰宅したレーナは、数時間後には家族の朝食を作らなくてはならない。
朝までの貴重な睡眠時間はわずか3時間。寝てしまえば間に合わないと考えたレーナは、先に朝食を作っておくことにした。
「こんな夜中にうるさいよ」
起きてきたゾーエに叱られたが、「ごめんなさい。仕込みがあるから明け方には仕事に行かないといけないの」と嘘を吐いた。
「今日だけかい? それなら許すけど、続くようならボニファーチョに文句を言わなきゃ」
ブツブツ言いながら寝床に戻っていった。
レーナの体を心配するというより、自分たちの安眠を心配している。これはいつものこと。
朝のパンを焼いて、スープを作り、家族の好物であるサルシッチャを人数分茹でておいた。
遠くの山に朝日が当たる。空が白白してきたので、外に出て朝一番の空気を深呼吸。清涼な空気が喉を通って肺の奥まで流れ込むと、徹夜明けの体にパワーが出た。
「よーし! 絶対に阻止してやるから。ペッピーノ、待っててよ!」
勇んで向かった。
ペッピーノの家に行くと、ちょうど荷車に乗せたところだった。
これから待ち受ける自分の運命など、知る由もないペッピーノは、飼い主と楽しいお出かけと思っているのか、ハフハフと息を荒げてはしゃいでいる。
「ペッピーノ!」
ペッピーノがレーナに気付くと、尻尾をブンブン回転させて喜んだ。
「ワンワン!」
何も分かっていない無邪気な瞳を見て、涙がこぼれる。
「なんだ、レーナじゃないか。こんなに朝早くからどうした? ああ、ペッピーノと仲良かったからな。最後の別れに来たのか」
何の罪の意識もない飼い主の言葉が頭に来る。
「どうしてペッピーノを処分するんですか?」
「なんだ、文句を言いに来たのか。お前には関係ない。あっちへいけ」
飼い主は、レーナにシッシとまるで野良犬を追い払うように手を振った。
「ペッピーノはいい子です。殺さないでください」
「だから、お前にそんなことを言う権利はないんだよ。こいつはもう役立たずなんだよ」
そういうと、こん棒を取り出してペッピーノを叩き出した。
「キャイン!」
驚いたペッピーノは、尻尾を後ろ足の間に巻いて怯えている。
「止めて! 叩くなんて可哀そうじゃない!」
「こいつは犬だぞ。どうせ死ぬんだ」
「犬だって人間だって、叩かれたら痛いし悲しいです。それに、死ぬのはあなたが殺すからでしょう! ペッピーノはまだ何年も生きられます!」
「うるさいなあ、じゃあ、お前が替わりに叩かれるか?」
飼い主は、レーナに向かってこん棒を振り上げて叩く真似をした。
「ヒ!」
恐怖で身をすくめたレーナだったが、さすがに当たる前に止めた。単なる脅しだった。
「お前が騒げば、その分、こいつを叩いてやる」
またこん棒でペッピーノを叩いた。
「キャイン!」
ペッピーノが痛がり、ブルブル震えた。怯えている。
「やめて!」
その姿を見ても憐れむことなく、レーナの悲痛な声も届かず、ペッピーノの叫びにも動じぬ飼い主は、こん棒で何度も叩いた。