レーナを探して 11
「ランベルト、トリュフ密売の罪は重いのか?」
「軽くしたら他の者への示しがつきませんので、それなりに」
「何と言うことだ……」
レーナを救う方法はないだろうかと、カルロ王子は、必死に考えた。
(ここは、王室特権を使うしかない!)
カルロ王子は、白々しく言った。
「ああ、その罪のことだが、私は常々変だと思っていたのだよ。トリュフを全て王室が取り上げるというのは、どう考えてもおかしい話だ」
(いや、ついさっき知ったばかりでしょう!)
ランベルトは、心の中で突っ込んだ。
カルロ王子は、いかにも普段から庶民のことを考えている風に演説する。
「ふ、今どき、強権というか、国民ファーストでないというか、私は国民ファーストこそが、これからのヴェントーネ王国に必要だと思うのだ」
「急にどうしました? 国民ファースト???」
「民が国の主役ということだよ。私が何のために、今まで庶民の振りで視察をしてきたと思っているのだ。すべては国民の生活を知り、国政に生かすためだ」
「そうだったんですか」
ランベルトは、カルロ王子がただ楽しんでいるだけだと思っていた。
「私は、王子としてトリュフの自由売買を認めることとする! 常々考えていたことだから、レーナを助けようとかの個人の事情とは全く無関係」
ランベルトは、(そもそもこの罪は、先々代の国王がトリュフを独り占めするために決めたこと。その時の反発はすごかったらしい。むしろ取りやめるとなれば、国民は大賛成。発案者のカルロ王子の株も上がることだろう)と、考えた。
だから大賛成だ。
「お城に戻り次第、王陛下へお伝えしましょう」
(よし、これでレーナの罪もなくなる!)
カルロ王子は、ホッとした。
レーナが恐る恐る言った。
「え、ちょっと待ってください。カルロって……、王子様だったんですか?」
「え……、あ! ウワアアアー!」
カルロ王子は、余計な事を喋ってしまったと気付いて叫んだ。
「キャアー!」
カルロ王子が急に大声を出したので、レーナは驚いた。
焦ったカルロは、どうしようもなくなってランベルトを責める。
「ランベルト! なぜ止めてくれなかった!」
「あまりにナチュラルに話しておられたので、先ほどすでに打ち明けられたのかと思っておりました」
「どうしよう!」
「知られてしまったのだから、正直に認めた方が良いかと思います」
「そうだな……」
カルロ王子は、レーナに向かって真剣に謝った。
「レーナ、今まで黙っていて悪かった。私はヴェントーネ王国の第一王子、カルロなのだ」
「そうだったんですか」
「そして、ランベルトは、私の護衛を務めている騎士だ」
「改めて、よろしく」
「ランベルトさんも、ちゃんとされた方だったんですね」
「何だと思っていた?」
「カルロの遊び仲間かと」
「遊んでいるように見えたか?」
「アハハ! そうですね」
レーナが屈託なく笑った。
「本当に驚かせてすまない」
「いいえ。私たち国民のことを常に考えてくださる、素敵な王子様です。とても親しみやすくて嬉しいです」
「レーナ……」
これならいけそうと、カルロ王子は自信をつけた。
「さ、事件も解決したところで……」
カルロ王子は改めてレーナに聞くことにした。
それにはランベルトが邪魔だ。
「ランベルト」
カルロ王子が目配せする。
「また席を外せとおっしゃるんですね。分かりました」
ランベルトが出て行き、また、二人になった。
いよいよ、核心に触れる。
「グリーンカレーの話の続きだが……」
「はい」
「私たちは同じカレーを食べていたんじゃないかと思う」
「……」
「レーナは名輪綾里と言う名前に聞き覚えがないだろうか」
「え⁉ どうしてその名を⁉」
レーナは、自分の前世の名前をカルロ王子が口にしたので、とてもとても驚いた。
昔の記憶を打ち明けた相手はペッピーノだけ。誰かに話した覚えなどない。
「知っているんだな」
「え、ええ……」
「片岡翼と言う名前に覚えはないだろうか」
「それも⁉ どうしてあなたが二人の名前を知っているの?」
「私は、かつて片岡翼という日本人だった」
「ええ⁉」
驚きのあまり、レーナはよろけて近くのコップを落とした。ガシャンと高い音を立てて割れた。
「そんなことって……」
レーナは、奇跡が起きたと思った。
「カルロ、いえ、片岡先輩……、私は名輪綾里です」
「やはり、そうだったか。これは驚いた」
「そんな……」
奇跡の再会に感動した二人は、涙を堪えきれずに泣き出した。
「私たちは一緒に大地震に巻き込まれ、同じようにこの異世界ヴェントーネに転生したんだな」
「知り合いなんていないと思っていました。こんなところで巡りあえるなんて……」
「綾里……」
「片岡先輩……」
二人は、自然と体を寄せ合い見つめあった。
カルロ王子がレーナの頬にそっと手を添える。レーナの潤んだ瞳が美しく光っている。
「見た目は別人だが、中身は変わっていないんだね」
「そうかもしれません」
「あの時、私は君に告白して、その返事を聞けなかった。今度こそ聞かせて欲しい」
「もうあの時とは状況が違います。顔も身分も名前も違う」
「それでも構わない。あの時の返事を聞かせて欲しい」
「……あの時、私も好きと言おうとしていました」
愛が成就したことに、カルロ王子は感涙した。
「レーナ! いや、綾里! その言葉をずっと聞きたかった。まさかここで願いが叶うなんて」
レーナも感動している。
「転生してから、伝えられなかったことがずっと心に引っかかっていました。そのために、他の男性に求められても受け入れることが出来ませんでした。結婚も諦めていました」
カルロ王子は、ようやく抱えていた問題が解けた気がしてスッキリした。それと同時に、レーナが自分を忘れずにいて、ほかの男を拒否していたことに感激した。
「今の私も君をお妃に選びたいと考えている。レーナはどうだろうか?」
「お妃なんて、私にはとてもとても……。一介の料理人がいいんです」
「そういうと思っていた」
ガッカリしたが、レーナらしくてそこが好きでもある。
「私だってなんとか王子をやっている。君だってできるさ」
「でも……」
「そんなに料理が好きなら、お妃になっても続けていい。どうか結婚を考えて貰えないだろうか」
「料理人をしながらお妃してもいいんですか? それなら、考えさせてください……」
レーナが言下に断ってこなかったのだから、まだ希望はあるとカルロ王子は考えた。
片膝ついて、レーナの手にキスする。
「私には君が必要だ。ずっと一緒にいて欲しい」
「カルロ……」
カルロ王子は、立ちあがってレーナを抱きしめた。
「レーナ、大好きだ。愛している。今までも、これからも、この想いは変わることがない」
カルロ王子の言葉に、レーナは泣いた。
不安な気持ちがすっと溶けて、流す涙と共にどこかへと消えていく。
「私たちの愛は、時を越え、世界を越えたんだ! なんて素晴らしいことだ!」
「本当ですね。凄いことです」
「私と一緒に都へ帰ろう!」
「都には帰れません」
ここまできてのレーナの拒否に、カルロ王子は言葉を失う。
「どうして?」
「私、家族に黙って出てきてしまったから、きっと怒っていると思います」
レーナは、家族の反応が心配だった。
「そのことなら心配いらない。タッソ家には、王室を通して、一切君に関わらないように伝える。何か言ってきたら私が君を護る。だから安心して戻ってくれ」
「そこまでおっしゃるのなら」
カルロ王子の懇願で、レーナは都へ帰ることを決意した。
「まだですか?」
ランベルトが顔を覗かせた。
「ランベルト! 凱旋だ! レーナが私たちと都に帰ることになった」
その晴れ晴れとしたカルロ王子と、隣で頬を染めるレーナを見たランベルトは、告白が成功したのだと分かった。
「ようやく、お妃様がお決まりになったようですね」
お城に朗報を持って戻れる喜びに、ランベルトの声も明るくなる。
「ワンワンワン!」
ペッピーノも、何か楽しいことになっていると分かって興奮している。自分の尻尾を追いかけて、グルグル回ってはしゃいだ。
了
これで完結です。
最後までお読みいただきありがとうございました。




