レーナを探して 8
「くそ、一人でやるしかない!」
覚悟を決めたカルロ王子は、腰の剣を抜いて男たちに向けた。
「そんな腰抜けの剣でやれるかよ」
「こいつ、実戦は弱そうだな」
「何だと!」
乱闘が始まった。
カルロ王子は、レーナに危険が及ばないように、一番遠くの小柄な男に向けて振り下ろした。
「へへ!」
小柄な男は余裕で太刀筋を避けた。敏捷な身のこなしだ。
「女に当たらないように、こっちを狙うのは分かっていたぞ」
狙いを読まれていては、当たらない。
巨漢が向かってきた。
「お前のようなレモン野郎には、この鉄の棒で充分だ!」
「カルロ!」
レーナが心配して叫んだ。
剣で鉄の棒を受け止める。軽々と振ってきたが、とても重くて驚いた。
歯を食いしばって耐える。
「今のうちに女を連れていくぞ!」
色白がリーダーのようで、二人に指示を出している。
「助けて!」
レーナが引っ張られていった。
「離して!」
「レーナ!」
「カルロ!」
レーナがカルロ王子に手を伸ばすが、色白に邪魔された。
「おっと、大人しくしな」
「お前たち、誰かに雇われているのか?」
「ああ、そうだ」
「そいつは誰だ。金が必要なら私がそれ以上に払う! 交渉させろ!」
「ほほー、気前がいいねえ。じゃあ、そいつに伝えておく。カルロだったな」
「そうだ。だからレーナに手荒な真似をしないでくれ!」
「ああ、分かった」
「ほら、こっちだ!」
禿げの巨漢がカルロ王子を呼んだ。
振り向きざま、額にガツンと頭突きしてきた。石頭の衝撃にクラクラして立っていられなくなり、ひざまずく。
「もう終わりか? やっぱ、王子様は弱いや」
「じゃーな、レモン王子様」
カルロ王子が動けないでいる間に、男たちはレーナを連れて消えてしまった。
「くっそ! レーナを返せ! レーナ!」
もう少しで、レーナの返事を聞けるところだった。
「ああ、また同じだ……」
もう少しのところで綾里の返事が聞けたあの時と、全く同じ状況だ。
「私は、呪われているのか?」
カルロ王子は、両腕で地面を掴んだ。
そこに、ランベルトとペッピーノがのんきに帰ってきた。
「もういいですか? あれ?」
屋台裏は乱闘の結果、グチャグチャになっている。
「ワンワン!」
ペッピーノが異変を感じて吠えた。
「これは一体、何があったんですか?」
「ランベルト、無事だったのか。どこに行っていたんだ?」
「すみません。ペッピーノが走って行ってしまったもので、連れ戻していました。レーナは?」
「レーナが三人の怪しい男たちに連れ去られたんだ!」
「なんですって⁉ それで、お怪我はありませんか?」
ようやく、めまいが治って立ち上がる。
「私のことより、レーナだ! 助けにいかねば!」
「急いで追いましょう! で、手掛かりはありますか?」
「う……、しまった」
何も聞いていなかった。
「何にも分からない。あっという間に姿を消してしまって、西に向かったのか東に向かったのかも」
カルロ王子は、頭を抱えた。
「私がもう少しなんとかしていれば……、情けない……」
「王子は王子ですから、そこまでご自分を責めなくてもよろしいかと」
レーナが今頃泣いているだろうと想像したカルロ王子は、我が身が引き裂かれるような苦しみを感じる。
「ああ、レーナ!」
憔悴するカルロ王子に、ランベルトがペッピーノの体を撫でて教えた。ランベルトとペッピーノは、いつの間にかモフモフできる間柄となっていた。
「カルロ王子、優秀な警察犬がここにいるではないですか」
「ワン!」
カルロ王子は、ランベルトの言わんとしていることが分かった。
「そうか! ペッピーノか!」
「そうです。彼なら、レーナの匂いを辿れます」
ペッピーノにレーナの匂いを追わせた。
二人は、ついて行く道すがら会話する。
「しかし、何者だったんでしょう」
「金で雇われたと言っていた。誰かに指示されたようだ」
「レーナをさらって、どうするつもりでしょうかね」
「まったく分からない。それと、私のことを王子だと見抜かれていた。私の顔を知っているはずないのに」
「どんな風に言っていましたか?」
「レーナ姫を守る王子様登場だと言われた」
「ああ、それなら、物のたとえで持ち出しただけですよ」
「物のたとえ?」
「王子だと知っていて言ったんじゃないってことです。女性を守る男性は、女性から見れば王子様ということで、つまりは皮肉です」
皮肉も冗談も通じない男に思われたのだと、ようやく理解した。
「まあ、そのことはいい。今は一刻も早くレーナを見つけることだ」
「しかし、何のために連れ去ったのでしょうかね」
「一人、思い当たる人物がいるだろう」
「思い当たる人物?」
「偽トリュフの売人だよ。あいつは捕まっていない」
「レーナを恨んでいる可能性は高いですね。そうなると、本当に危ないかもしれません」
「ペッピーノ、まだ見つからないか」
ペッピーノは、まだ匂いをたどっている。
郊外の廃墟まできた。
「ワンワン!」
ついに、とある建物の前で止まって吠えた。




