モフモフ相棒ペッピーノ 2
仕事を終えて居酒屋から帰る時、ペッピーノが飼い主ではない別の青年に散歩されているところに出くわしたレーナは、思わず声を掛けた。
「ペッピーノの散歩、頼まれたんですか?」
知らない女の子に声を掛けられた青年は驚いている。
「違う。ずっと繋がれているから見かねてさ。飼い主の許可を得て散歩させているんだよ」
動物好きのとてもいい人だった。
飼い主は、ペッピーノにとことん関心がないのだろう。
少しでもペッピーノのためになることなら、自分も協力したいとレーナは思った。
「今度、私にも散歩させてください」
「それは助かるね」
「私、レーナと言います」
「僕はセルジョだ」
そんな会話でその日は終わった。
数日後、ペッピーノを散歩させていた青年セルジョが店にやってきた。
わざわざ厨房までやってくると、ボニファーチョにビールをオーダーして、レーナに声を掛けた。
「君の料理が旨いと評判だから、食べに来たよ」
「ありがとうございます」
「アクアパッツァ、食べられるかな?」
「すぐにご用意します。席でお待ちください」
フランカがやってきて席に連れて行こうとしたが、それを「あとで座るよ」と、断ると、レーナに不幸なニュースを伝えた。
「レーナ、君の耳に入れるべきかどうか迷ったんだが……」
「何かありましたか?」
「ペッピーノのことだけど、処分されるかもしれないんだ」
衝撃のあまり、レーナはトングと落としてしまった。
「どういう意味ですか? 処分というのは……」
内容について大体想像はつくが、認めたくなくて聞き返した。
心臓がどきどきする。
「殺されるんだ。明日にでも処分場へ連れていくらしい」
「そんな! どうして?」
「邪魔になったんだろう」
「そんな理由で?」
今までだって、何の世話もしてこなかったくせに、何が邪魔だというのだ。
ペッピーノがいるだけで癒される。それだけではだめなのだろうか。
ペッピーノはとても優しい犬だ。貧相な体は飼い主が十分に世話をしていないからだ。きちんと栄養を与えて運動させれば、とても美しい犬になるはずだ。
何の罪もない優しいペッピーノが殺されてしまう。
考えただけで涙が出てくる。
(私にできることは何だろう?)
このままペッピーノを見殺しにするのか?
今まで忙しいからとか、自分は飼い主じゃないからとか、お金もないし家族は反対するだろうしと、目を背けてきた薄汚い現実。
今こそ向き合い立ち向かう時ではないだろうか。
(これは、絶対に救うべき大きな命じゃない!)
家族に怒られてもいい。
レーナはペッピーノのために戦うことを決意した。
「私、反対します!」
セルジョは、レーナの剣幕に驚いている。
すぐにでも駆け付けて、ペッピーノを助けたい。
そんな衝動に駆られたレーナだったが、ボニファーチョに怒鳴られて現実に引き戻された。
「いつまで無駄口を叩いているんだ! オーダーが滞っているぞ!」
「すみません……」
今は仕事を放りだすわけにはいかない。
「セルジョさん、連れていかれるのは明日ですね」
「ああ。夜明け前に出発だそうだ。だから、今日は最後の散歩をしてきたんだ」
最後なんて言葉を軽々しく口にして欲しくなかったが、セルジョにできる精一杯のことだったのだろう。
レーナは堅く唇を噛む。
「分かりました。教えてくれてありがとうございました」
レーナは、熱々のアクアパッツァを出した。
席に付いたセルジョに顔見知りが声を掛ける。
「飲みに来るなんて珍しいな。もしかしてフランカ目当てか?」
「ここのアクアパッツァを一度食べてみたかったんだよ。確かにこりゃ旨い」
セルジョは、ビールを飲んでアクアパッツァを平らげると帰っていった。
わざわざ伝えるために足を運んでくれたのだろう。レーナは、セルジョの思いやりに頭が下がった。