レーナを探して 6
「会いたかった、レーナ」
「カルロ……」
カルロの言葉に感激したレーナの瞳が潤む。そこにはカルロしか映っていない。
ランベルトは、目の前で繰り広げられる愛の世界に居場所をなくす。
(私の存在をすっかり忘れて、二人だけの世界に酔いしれている……)
カルロ王子がくるりとランベルトを見た。
(うわ!)
不意を突かれてビックリした。
「ランベルト、しばらくレーナと二人きりにしてくれないか」
レーナにあの事を聞きたいカルロだったが、ランベルトに聞かれてはまずいだろうと考えた。
(どう説明したって、異世界の人間に理解できる話とは思えない)
頭がおかしくなったと思われる可能性が高いから、レーナにだけ聞かせるつもりだ。
「カルロ……、それはできません。私は常に、外では一緒にいなければなりません」
それが護衛長の職務。怠れば首になる。
レーナは、(ランベルトって、カルロの名前を言った後に、いつも数秒だけ溜めるのよね)と、間が空くことを面白がった。
ランベルトは、その数秒で「王子」の部分を必死に飲み込んでいる。
『レーナの前で決して私を王子と呼ばないように』と、常に注意されている。
『いつご自身のご正体を明かすおつもりですか』
『私がタイミングを見て打ち明ける』
間違ってカルロ王子と呼んでしまえば、間違いなく激怒されるだろう。
「ここでは誰も我々を知らないよ。数分でよい」
「カルロ……、二人きりになったからと言って、レーナに迷惑を掛けてはいけませんよ。ご自身のお立場をよくよく考慮されますように」
「は?」
カルロ王子は焦った。
「わ、私がレーナに手を出すっていうのか? そ、そんなこと、私がするわけないだろ! どういう目で私を見ていたのだ」
「え、レーナに告白するのかと。逆にお聞きしますが、他に目的がありますか?」
カルロ王子は、てっきり二人きりになった自分が、レーナに手を出すと思われていると考えていた。
己の誤解に気付いた。目的はそれではないが、間違ってもいない。
「それは、まあ……、そう言うことでいいだろう」
カルロ王子は、照れ隠しで盛んに前髪を撫でつけた。誤魔化そうとしているが、逆効果でむしろ強調している。
(カルロ王子、バレバレですよ)
それがおかしい。カルロ王子は本気でレーナを好きなんだと伝わってくる。
「カルロ……、頑張ってください!」
最後は力強く励ました。
(やはり、いついかなる時でも、カルロ王子から目を離すことはできないな)
ランベルトは、屋台から少しだけ離れた場所で見守ることにした。
「ペッピーノ、一緒に見守ろう」
ペッピーノと一緒なら寂しくないので誘ってみる。
「クゥーン……」
ペッピーノが珍しくランベルトに従ってついてきた。
「おお、これなら、自分にもモフモフさせてくれるかも!」
ランベルトは、未だにペッピーノをモフモフしたことがない。
(モフモフしたい……。あの絶対領域を……)
耳と耳の間の狭い額。そこはケモノの絶対領域。
ランベルトの指先がうずく。
(今ならモフモフできそう)
他所を見ているペッピーノの後ろから、そーっと手を伸ばした。
(そーっと、そーっと)
ゆっくり距離を縮めていく。
もう少しのところでペッピーノに気付かれて、ススス……と逃げられた。
「ク……、気付かれたか」
しかし、遠くには行かないで、手の届かない絶妙な位置でピタリと足を止めた。
再度、挑戦。
(そーっと、そーっと……、気付かれないように……)
全神経を集中し、ペッピーノの額にじわじわと手を伸ばす。
「フー……フー……」
怪しい鼻息が出る。
ペッピーノの耳がピクピクした。
(いかん、鼻息でばれる!)
息を止める。
(そーっと、そーっと)
もう少しのところで、やはり、ススス……と逃げられてしまった。
「ク……、私には、モフモフさせてはくれぬのか……」
ペッピーノが許してくれるまで、まだまだ時間が掛かりそうだ。
「何をしているんだ、私は……。バカな事をしていないで、任務に戻るか……」
冷静になったランベルトは、モフモフを諦めて屋台を見守ることにした。
猫が堂々と目の前を横切っていく。
ペッピーノが、「ワンワン!」と、吠えたことで、驚いた猫が走って逃げた。
「ワンワンワン!」
ペッピーノが逃げる猫を追って走っていった。
「おい、どこへ行く! 待て!」
ペッピーノを捕まえようと、ランベルトは後を追った。




