レーナを探して 5
教えられた通りまで足を運ぶが、それらしき屋台は見当たらない。
「この辺りでアクアパッツァの屋台を見掛けませんでしたか?」
通行人に聞いて回った。
「もしかして、女料理人が売っている屋台のこと?」
「そうです! ご存知でしょうか⁉」
「転々と場所を変えているんだよね。今日は、ここから2ブロック向こう側の通りで見かけたよ」
「ありがとうございます!」
ついにとらえることに成功した。
カルロ王子とランベルトは、急いで向かう。
教えられた通りに入ると、行列を作っている屋台を見つけた。
「あれだ!」
「いた!」
小さな屋台では、レーナがアクアパッツァとレモンスカッシュを売っていた。
「アクアパッツァとレモンスカッシュです! ありがとうございました!」
レーナの元気よく接客している姿を見て、カルロ王子は涙が出た。
ランベルトもすすり泣く。
「ついに、ついに見つけた……。どれ程、この日を待ちわびたことか……」
「良かったですね、カルロ王子」
今までの苦労が報われた瞬間を、二人は噛み締めた。
「声を掛けましょうか」
「いや、待て。行列が出来ている。商売の邪魔をしてはいけない」
「では、我々も並びましょう」
「そうだな。レーナのアクアパッツァを食したい」
カルロ王子とランベルトも行列に並んだ。
レーナを驚かそうと、自分たちだとばれないようにフードを深く被り、マントで顔を隠す。
少しずつ行列が短くなり、近づいていく。二人はワクワクした。
とうとう順番が回って来た。
「お次の方、どうぞご注文を」
二人は、フードを取り、マントを下げて顔を見せた。
「私たちを覚えているか?」
「え……? あ!」
二人の正体に気付いたレーナは、とても驚いた。
「カルロにランベルト!」
「久しぶりだね」
「捜したぞ」
「驚きました。どうしてここが分かったんですか?」
「たくさん聞き回ったよ」
「おーい、早くしてくれ!」
ダラダラと会話していたら、後ろから怒号が飛んだ。
「すまない。アクアパッツァを2人前」
「走り回ったからノドがカラカラだ。レモンスカッシュも2つ」
「すぐにご用意します」
レーナは、アクアパッツァを取っ手付きのスープカップに、レモンスカッシュをコップに入れると、小さなお盆で渡してきた。
「これ、園遊会方式を真似させてもらっています」
レーナは、小さくほほ笑む。
「ああ、お妃選びの園遊会か」
屋台でアクアパッツァを配っていた。それをヒントにしたという。
「屋台は何時まで?」
「売り切れたら終了です」
「それまで待たせてもらう。君とは話したいことがたくさんあるんだ」
「分かりました。裏でお待ち頂いて構いません」
アクアパッツァを食べながら裏手に回ると、ペッピーノがいて、すぐにカルロ王子だと分かってじゃれついてきた。
「ワンワン!」
「ペッピーノ! 元気そうだな」
「ワンワン!」
ペロペロと顔を嘗めてくる。特に、口元をよく嘗めた。
「ハハハ、アクアパッツァでもついているのかな? お返しにモフモフしてやろう」
ペッピーノの全身をモフモフしているカルロ王子の様子を見て、ランベルトがツッコむ。
「どうみても、楽しんでいるのはご自分ですよね」
「……」
カルロ王子は、ランベルトの自分への敬意が減っている気がした。
ランベルトは、カルロ王子ばかりモフモフしているのが羨ましかった。自分が触ろうとすると、ペッピーノは巧みに逃げるのだ。
「ありがとうございました! 本日分は終了です!」
思ったよりも早く、ソールドアウトで店じまいとなった。
並んでいたのに食べられなかった客たちが残念がる。
「えー、終わり?」
「食べそこなったか」
「せっかく並んだのに。もっと作っておいてよ」
「申し訳ございません。明日もお願いします」
頭を何度も下げてレーナは謝った。
それから裏に回った。
「お待たせしました。これ、どうぞ」
レーナは、カルロ王子とランベルトにソーダブレッドとサルシッチャ、白身魚のソテーという賄いを振る舞った。
「おお、レーナの料理は久しぶりだ!」
「いいのか? たくさんの客が食べられていないのに」
「これらは売り物ではなくて、私の賄いです」
お腹を空かせたペッピーノが吠える。
「ワンワン!」
「ペッピーノもお腹空いたね。はい」
エサ皿にサルシッチャを入れると、ペッピーノがガツガツとむさぼり食べていく。
「ペッピーノは大きくなったな」
「そうなんです。たくさん食べるんですよ」
「温かいうちに、私たちも頂こう」
「どうぞ」
カルロ王子とランベルトは、サルシッチャをかじった。パキッと皮が裂けると、中から脂と旨味たっぷりの肉汁がジュワーとあふれ出す。
「ああ、これだ。懐かしい味だ」
「ポニファーチョの店を思い出しますね」
二人はサルシッチャを堪能した。
白身魚のソテーには、見慣れぬ黄色いソースが掛かっていて、甘い香りが広がっている。
「色が凄いなあ」
「これは何を使っているんだ?」
「マンゴーソースです。最近、南方船が入港したんですよ。南の珍しいフルーツがたくさん市場に出回っていたので、マンゴーの他にも、カスタードアップルやマンゴスチンなど、目に付いたものを片っ端から買い漁っちゃいました。新鮮なスパイスもたくさん仕入れられました。これで料理のバリエーションが増えます」
ヴェントーネ王国は、北と南の交易の中継地点となっている。南方船や北方船が入港すると、市場が賑わう。
フワフワな魚の身を崩して、マンゴーソースをつけて食べる。魚にクセがなく、ソースの甘酸っぱさと良く合った。
魚に振られたスパイスが、ピリッと痺れる辛さを舌に与えてくる。甘いソースと調和して、食欲が増進した。
「こんな味も色も匂いも、初めてだ」
「試作品です。賄いで新しい料理を試すんです。お口に合わなかったらすみません」
「いや、突然押しかけてきて、食事の用意までしてもらったんだ。それに、とても美味しいよ」
新鮮な驚きをレーナはいつも与えてくれる。
ソーダブレッドでマンゴーソースを拭って綺麗に食べた。
「デザートピザはいかがですか? よいカカオが手に入ったんです」
チョコレートソースが掛かるピザを出してきた。
カカオの苦みと砂糖の甘みがバランスよく、大人向けのデザートとなっている。
それも軽く平らげた。
「ああ、お腹がいっぱいだ」
「御馳走になった」
カルロ王子とランベルトは、料理とデザートの美味しさで満たされた気分になった。
それはつまり、ハッピーということだ。
「ウフフ。お二人とも変わりませんね」
「レーナも変わっていなくて何より。相変わらず料理道にまい進する姿に感心したよ」
レーナの料理には食べる人へのリスペクトと愛がある。それを改めて感じられた。
「はい……、あの……」
レーナが言いにくそうに口にした。
「私を探してここまで来たんですか?」
「そうだ」
「誰かに頼まれたんですか? タッソ家とか、ポニファーチョとか」
「それは見当違いだ。私が個人的に会いたかったからだ」
カルロ王子は、黙っていなくなるなんて水臭いと言おうと思ったが、そこまでの関係ではないと思いとどまった。
こんなことになる前に、きちんと関係を築くべきだった、それを怠った自分が悪いのだと考えていた。




