レーナを探して 3
庶民に扮装した二人は、城下町を歩き回り、レーナの情報を集めて回った。
すると、ペイポンから来たという行商人から興味い深い話を聞けた。
「ヴェントーネ火山の麓にあるペイポンという温泉街に、凄腕の女料理人がいるらしいよ」
「本当か⁉」
とても具体的で信憑性が高い情報に飛び上がる。
「もっと詳しく教えてくれ」
小金を握らせると、さらに喋った。
「なんでも、ペイポンを牛耳っているマフィアのボスを料理で攻略したとか。ペイポンの町は一時期その話でもちきりだったそうだ」
レーナならやりそうな話である。
「その話が本当なら、レーナの可能性は高いな」
「ペイポンに行ってみましょう!」
「もちろんだ!」
二人はペイポンに向かった。
***
ここでも聞き込みを続けたところ、タルパの料理人だろうとの情報を得た。
「タルパという温泉宿で、パッソーニ一家のボスを料理で攻略したという話を聞いたことがある。それを作ったのが、レーナという若い女料理人だったとか」
「その人だ! そのタルパの場所を教えてくれ」
「あっちを真っ直ぐにいって……」
教えて貰ったタルパにたどり着いた二人だったが、レーナはとっくにいなくなった後だった。
「残念ながら、レーナならとっくに出て行ってしまって、どこに行ったかわからないよ」
女将のビビアナにそう聞かされたカルロ王子は、膝から崩れ落ちる。
「そんな……、一歩遅かったなんて……」
ランベルトは、「そのものが我々の探している女料理人かどうか確かめたいのだが、何か情報はないか」と尋ねた。
「そうだねえ……。ああ、そうそう、息子のイレネオがレーナの似顔絵を描いていたよ」
「それを見せてください!」
似顔絵があるなんて、とてもラッキーだ。
ビビアナは、奥に向かって叫んだ。
「イレネオ! レーナの似顔絵を描いていたよね? それを見せておやり!」
「はーい!」
イレネオが、一枚の画用紙を持ってきた。
「たまたまレーナをスケッチしていたんだけど、これで役に立つかな」
それは、パッソーニ一家の宴会で活躍するレーナの横顔をスケッチしたものだった。
「おお、ありがたい!」
喜んで受け取ると、カルロ王子とランベルトは覗き込んだ。
うねった線で、もじゃもじゃに殴り書きした髪。鼻が小さな山となっている無理やりの横向き。輪郭らしき円は歪んでよく分からない。胸だけはドーンと出ている。
あまりに下手くそだったので、レーナかどうか判断つきかねた。
「うーむ……」
「これでは、女ということしかわからん……」
「ガアアアーーン!」
イレネオは、二人の反応にショックを受けて奥に引っ込んでしまった。
「いや、我々の記憶が曖昧なのかもしれない!」
「下手ということではないから! 似たような女料理人はいくらでもいるから悩んだんだ!」
「もぅ遅い!」
慌てて慰めたが遅かったようで、出てこなくなった。
仕方なく、ビビアナに更なる情報を求めた。
「他に知っていることはありませんか? どこから来たかとか」
「そうだねえ。ああ、そうだ、城下町の居酒屋で働いていたと言っていた」
「おお、それは本人の可能性が高い」
「でも、そういって高く売り込もうとするものは多いからねえ。他には……、ああ、ペッピーノというコヨルフの仔を連れていたよ」
「それだ! 我々が探し求めていた情報は!」
「良かったですね!」
カルロ王子とランベルトは、喜び合った。
「じゃあ、彼女があんたたちの探しているレーナなんだね?」
「ああ、そうだ。どこに行くつもりか聞いていないか?」
「当てはないと言っていたからねえ。だけど、この狭いヴェントーネだ。そんなに遠くまでは行っていないと思う」
「そうか……」
「彼女は何をやったのさ?」
「は?」
「あんたたち、扮装してるようだが、王室関係者だろ?」
「え、いや、そんなことは……」
「たくさんの泊り客を見てきた私の目は誤魔化せないよ。その剣には王室の紋章がついている」
カルロ王子とランベルトの腰に付けている剣の持ち手には、王室の紋章が刻まれている。
「私も王室は大好きだから、城下町まで行った時はお城を見学に行って、紋章の旗を眺める。だから、紋章をよく知っている」
「なるほど、感心した。でも、このことは内密にしてもらえないだろうか」
「ああ、もちろんだよ。どんな理由で探しているか分からないが、きっと大事なことなのだろう」
「ありがたい」
カルロ王子とランベルトは、タルパを出た。
「一足遅かったですね」
「ああ、残念だ。でも、元気そうで良かった。それが分かっただけでも良かった」
「あの家にいるよりは、どこでも幸せでしょう」
「そうだな……」
カルロ王子は、タッソ家を思い出した。
ポニファーチョの店の休業が続いて変だと考えたカルロ王子は、タッソ家までレーナの様子を見に行った。そこで、彼女の家出を知ったのだった。
レーナの父、ポンツィオは、娘の無事を祈るどころか、帰ってこないことを怒っていた。
『家族に迷惑掛けてとんでもない娘だ! どこかの男と逃げたんだ! ふしだらな娘は戻ってきても居場所はない!』
まくし立てるポンツィオに呆れた。
母親のゾーエと姉のマリアンナは、『あの子がいなくなって、私たち、家事が大変なんだから』と、何が悪かったのか分からず被害者面だった。
(あれが家族だろうか。あの家で唯一悲しんでいるのは幼い妹君だけだった)
妹のヴィオラだけは、『レーナがいなくなっちゃった』と、悲しんでいたが、『レーナのご飯が食べたいよう』と、余計な事まで言ったので、『私たちの料理が不味いって言うの⁉』と、ゾーエとアリアンナに責められていた。
「そうだな。今はどこかで自由を楽しんでいるのかもしれないな。家族に縛られることなく、ペッピーノとのびのびやっているに違いない」
そう考えると安心できる。
「レーナなら、どこに行っても活躍して名を馳せるでしょう。必ず見つけ出せますよ」
「ああ、そうだな」
カルロ王子は、どうしてもレーナに会って、自分の記憶について確かめたい。
だから、レーナ探しを諦めるつもりはなかった。




