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レーナを探して 2

 ――トントン。


 ランベルトとは違う、優しいノックの音が聞こえる。


(次から次へと。私に構うなと伝えておいたのに)


「誰だ」

「ブルネッラです。カルロお兄様。ここを開けてください」

「入れ」

「失礼いたします」


 美しい妹、ブルネッラ王女が入ってきた。

 ブルネッラ王女は、カルロ王子のすぐ下の妹で16歳。美しい母の遺伝子をそのまま受け継いだ面立ちと、父からはプラチナヘアと翡翠のような美しい瞳を受け継いで融合させた美王女だ。


(突然、こんな美少女の妹まで持ってしまった)


 そのことに、まだ慣れていない。

 それまで男兄弟の生活にいて、日常に華やかさなど一つもなかったから、接し方も分からないし、戸惑うことも多い。


「何の用だ?」

「このところ、ふさぎ込んでいられるとお聞きしましたので、心配になって様子を見に来ました」

「ふさぎ込んでなどいない」

「何日も外に出ておられないのではありませんか? どうなさったのですか?」

「それは……」


 カルロ王子は黙っている。


「私でよければ、気晴らしのお相手をさせていただきますが」

「気遣い無用だ」

「そうおっしゃらず」


 ブルネッラ王女は、強引にカルロ王子の向かいに座った。


 しげしげとカルロ王子を観察する。

 ブルネッラ王女は、得意の観察眼でカルロ王子の落ち込みの原因を見抜いていた。

 元気がなくても、その色つやは劣るどころか輝きを増している。

 物思いにふけってため息を吐く。

 どこからどうみても恋煩いだ。


(間違いありませんね。お兄様は、誰かに恋をしていらっしゃる。お兄様の寵愛を賜るなんて、どこの幸運なご令嬢でしょう)


 兄がここまで入れ込むのだから、相当見目麗しい女性なのだろうと考えた。

 先日のお妃選びで気に入った娘が見つからなかったと両陛下から聞いて、本命が別にいると分かっていた。

 あれからしばらくして部屋に閉じこもり、会話が減った。


(もしかして、振られたのでしょうか? いえ、まさか、考えられませぬ)


 王族が振られるなど考えられない。


(そうなると、許されぬ関係にあるとか?)


 悩める兄を心配するブルネッラ王女は、想い人について聞いた。


「お好きな方がいらっしゃるのでしょう?」

「いない!」


(兄は妹に恋の相談をするものだろうか? それすら分からない)


 ブルネッラ王女との関係が、カルロ王子に余計なダメージを与える。



「私には、何も教えてくださらないのですね」


 食い下がるブルネッラ王女に辟易する。


(このような場合には、妹をいい気分にさせればよいのだろうか)


 カルロ王子は、性に合わないセリフを言うことにした。


「教えないも何も、何もないからね。ブルネッラのことは愛しているよ」


 舌を噛みそうになり、自分が赤面した。


「まあ」


 ブルネッラ王女が頬を染める。効果はあったようだ。



「分かりました。諦めます」


 部屋を出たブルネッラ王女は、正攻法では何も教えて貰えないようなので、常日頃からカルロ王子の近くにいて、プライベートを一番知っているであろうランベルトを呼び出して問いただすことにした。


「お兄様について、何か知っていることがあったら、洗いざらいお話しなさい! お兄様には、好きな方がいらっしゃるのよね。どなたですか?」


 ブルネッラ王女の急な呼び出しに嫌な予感がしていたランベルトは、ああ、ついに気付かれたかと思った。


「ランベルトは何も存じ上げておりません」

「ウソおっしゃい! お兄様のあのご様子を見て、変だと思いませぬか?」

「カルロ王子はいつもとお変わりございません」


 知っていても、ブルネッラ王女にペラペラと喋ることはできない。

 そんなことをすれば、カルロ王子と自分の信頼関係をぶち壊しになるからだ。


 ランベルトは、余計な事を一切喋ることなく、ブルネッラ王女の機嫌を損ねないよう片膝ついて頭を下げ続ける。


「私の頼みを聞けないのと言うのですか?」

「申し訳ございません。カルロ王子に関することは、何もお伝えすることが出来ません」


 苦渋の顔で返答する。


「ふうーん、さすがお兄様の一番の忠僕。口が堅いですわね」


 ブルネッラ王女がランベルトの前に両膝を落として同じ高さになる。


(うわ、近い!)


 フランカの野性味あふれる美貌とは違う、清らかで上品な美貌を持つブルネッラ王女は、王室の宝石。間近に見られる幸せをランベルトは密かに噛み締める。

 さらに良い香りが漂ってきて鼻腔が広がる。


「では、私をお兄様と同じ店に連れて行ってください」

「それは、ご勘弁ください。王女様をお連れできる場所ではございません」

「そんなに危険なところなのですか? そんなところへお兄様はお通いになさっているというの?」

「危険ではございません。お城とは全く異なる環境ですので、陛下の外出許可がないとお連れすることはなりません。それに、その店は現在休業中でございます。行くだけ無駄でございます」

「休業中? なるほど。息抜きで通っていたお店に行けていないということですね。それで元気がないと……。そこにお目当てのご令嬢がいらっしゃったということですね。分かりました。お兄様は、市中視察と称して、外でどなたかと密会を続けていた。そう言うことですね」


 カルロ王子の想い人は料理人だとはみじんも想像できないブルネッラ王女は、どこかのご令嬢、もしくは人妻とコッソリ会っていると考えている。


「いえ、密会とか言うほどの大げさな事ではございません」


 本当に16歳かと驚くほど、目の付け所が大人びているとランベルトは考えた。


「しかし、あのご様子は……」

「これで失礼いたします」


 ランベルトは、部屋から逃れた。


「危ない、危ない」


 たくさん冷や汗を掻いた。


「カルロ王子が早く元気を取り戻して下さればいいのだが」



 カルロ王子の部屋に戻る途中で、カルロ王子の声が聴こえた。


「ランベルト!」

「は! ここに!」


 ランベルトは駆け付けた。



「城下町へ行くぞ! レーナの行方を探す!」

「承知致しました!」


 ようやく外出する元気の出たカルロ王子にランベルトは喜んだ。

 お城にいてブルネッラ王女から追及されるよりは、よほどのびのび空気が吸える。

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