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レーナを探して 1

物語は最終局面を迎える。

 カルロ王子は、お城の自室に一人閉じこもる日々を過ごしていた。


 レーナが町から消えてから、ずっと悶々としていた。


「ああ、レーナよ……。どこに消えてしまったんだ」


 目の前から消えてしまったレーナの名を呟き、面影を思い出しては嘆いていた。


「なぜ、そなたはこんなにも私の心をかき乱す……。ああ、レーナが作ったグリーンカレーをもう一度食べたい……」


 一度食べただけのグリーンカレー。それによって、カルロ王子は、不思議な感覚を呼び起こされていて、それに苦しんでいた。


「私は、あのグリーンカレーをどこかで味わっている。舌が覚えているんだ。あの味をしっかりと。私の中にいる別の私の記憶がモヤモヤと浮かんでは消えて行く。どこかに置き忘れてきたかのような大切な記憶の気がする」


 自分はこの世界の人間ではないと、謎の違和感をずっと抱えていた。

 気が付いたらカルロ王子としてここにいた、といった感じだ。


 周囲のヴェントーネ王国のお世継ぎとして恭しく接してくることが居心地悪くて嫌だった。

 お城にいるより、庶民に混ざって食べ歩く方が楽しい。それで、視察の名目で頻繁に外へ出掛けていた。

 誰にもカルロ王子だと知られない方が気楽で楽しかった。


「変なんだ……、自分が自分でないような気がしてならない……」


 必死に記憶を掘り起こしては、断片を見つけていく。それらが少しずつ集まり、一つの塊となる。


「もう少しだ……」


 塊同士を結び付けていくと、大きなストーリーとなってまとまった。


「ああ! 思い出した!」


 ハッキリと認識できた。


「私は、日本と言う国の料理人で、片岡翼という名前だった。間違いない。思い違いじゃない」


 前世のあらゆる記憶が頭の中を流れていく。


 片岡家に生まれた自分。

 父は和食料理人。母は専業主婦で家庭料理が得意だった。

 兄が一人いて、自分は料理人にはならないと親父と喧嘩して家を飛び出した。寂しそうな親父の背中を見て、自分は料理人になると決意。修行に出た。

 修行先の一つで名輪綾里という女性と出会い、一緒に働いた。

 顔を見るだけで幸せな気分になれた。

 仕事はきつかったが、負けていられないと頑張れた。


「名輪綾里!」


 その名を口にするだけで、甘酸っぱい感覚が甦る。


「私は、彼女を好きだった。そうだ! ある日、思い切って告白したんだ。もう少しで彼女の返事を聞けると思ったその時に、大地震が起きた。その後の記憶が無い……。気付いたらこうなっていた」


 すっかり忘れていた転生前の記憶が、レーナのグリーンカレー一つで全て思い出せた。


「なんてことだ……。私は片岡翼だった……。地震で死んで、異世界ヴェントーネに転生したんだ……」


 カルロ王子は、鏡に自分の顔を映す。

 金髪碧眼。鼻筋高く、顔の彫は深く。背も高い。そして、身分は王子様だ。


「ウソみたいだ。まるで別人だものな。これでは前世の記憶など出てくるはずもない」


 金髪を触って感触を確かめる。柔らかい。

 軽くウェーブがかかる毛髪を一本だけつまむ。

 どの方向に動かしても光が反射して煌めく。

 前は剛毛な黒髪で短髪だったから、決してできなかったことだ。


「こんな荒唐無稽な話、誰かに打ち明けたところで信じて貰えるはずもない」


 カルロ王子は、新たな苦悩を抱えることとなった。


「誰にも……誰にも……、……いや、一人だけいる……。レーナだ!」


 レーナは、なぜグリーンカレーを作ったのだろう、どうして、この世界で見たことのないカレーを作れたのだろうと考えていた。


「グリーンカレーを作る彼女なら、何か知っているかもしれない。同じような生まれ変わりの記憶を持っている可能性だってある」


 レーナは何らかの鍵を握っている。そんな気がしてならなかったが、肝心のレーナは行方不明になっている。聞きだすことは叶わない。


 ――トントン!


 力強いノックの音が聞こえる。


「誰だ」

「ランベルトでございます」

「入れ」

「失礼します」


 ランベルトが入ってきた。


「もう何日も閉じこもっていてはお体に障ります。久しぶりに剣でお手合わせ願えませんか?」

「今はそのような気分ではない」

「また、彼女のことを考えておられるのですね」

「構うな」


 レーナが消えて苦悩するカルロ王子を見かねたランベルトは、提案した。


「いっそのこと、全国にお触書を出して民に探させてはいかがですか?」


 王室権力を使うことも一つの手段ではないかということだが、カルロ王子は、決して首を縦に振らなかった。


「それはダメだ。これは私個人の問題なのだ」


 カルロ王子は、こう考えていた。

 王子の身分を利用して捜し出しても、レーナの本心を知ることは出来ない。

 カルロが王子だと知ったレーナが、拒否するかもしれない。

 カルロ自身も、王子を理由に愛されるのは嫌である。

 レーナの本心をしっかり知った上で、身分を打ち明けるつもりだ。


「打ち明けるのは、まだだ」

「分かりました。差し出がましいことを申し上げました」

「しばらく一人にしてくれ」

「承知致しました」


 ランベルトは、引き下がって部屋を出た。

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