愛の逃避行 1
不遇なチャロにさらなる不幸が襲い掛かる。レーナは彼女を助けようと知恵を絞る。
市場で買い物をしていたレーナは、隅っこの目立たない場所でコスモスを売っているチャロを見つけた。
近況を聞こうと近寄って声を掛ける。
「チャロ!」
「あ、レーナ!」
チャロも笑顔になる。
「久しぶり。元気そうね」
「はい! レーナも!」
水を入れたいくつかのバケツには、色とりどりのコスモスが混在して無造作に突っ込んである。
「ここでコスモスを売っているんだ」
「はい」
路上で売っていたチャロが、露店とはいえ、きちんと商品を並べている。物凄い進歩だ。
「売れ行きはどう?」
「あまり良くないけど、ここではパッソーニ一家の邪魔が入らないの。それだけでもとても楽です」
「そうなの?」
「はい。この青空市場では実行委員が代表で支払っているので、監視にこないんです。あ、出店料を払っていないのは内緒ですよ」
チャロがいたずらな顔になった。
「ああ、それで、こんな隅っこの後ろの方にいるのね」
事情が分かった。
許可を得ない闇出店しているのだ。
「ここの人に見つからないの?」
心配するレーナに対して、チャロは笑顔で答える。
「来る頃を見計らって隠れますから。もし見つかったら、パッソーニ一家のサビーノの名前を出します」
「サビーノ?」
宴会で泣いていたサビーノを思い出した。
「なんで?」
「実は、あれからも見つかっていて、早くここから出て行けと脅されていたんですが、家の事情を話したら同情してくれて、何かあったら自分の名前を出していいと言われたんです」
急に風向きが変わってレーナは驚いた。
「家庭の事情って?」
「うち、お父ちゃんもお母ちゃんもいないんです。おじいちゃんと暮らしているんですが、もう働けないんです。だから私が稼がないといけなくて。でも、おじいちゃんの介護で、一日に何回も様子を見に家に戻らなければいけないから、どこかに勤めることが出来ないんです。それを知ってから、優しくしてくれるようになりました」
いつの間にか、二人がいい仲になっている。
「そういうことか……」
サビーノが、同情して花売りを目こぼししたのも分かる気がする。
ジェルマーノの昔話に泣いていたのだから、心根は優しいのだろう。
男泣きするサビーノの面影がチャロの話と重なる。
「花が売れたらお金を貯めて、他の町に移って花屋を開いたらいいって、助言までくれました」
この町を出て行けと言う部分だけは理解できないが、それ以外は、チャロのことを思いやっているサビーノに好感を持てた。
レーナは、バケツの花を見ていて気になる事があった。色がごちゃ混ぜで分かりにくい。
「バケツ毎に色を分けた方がいいんじゃない?」
「そうですか?」
チャロは、レーナの助言に素直に従ってバケツ毎にコスモスの色を分けた。すると、スッキリして商品が見やすくなった。店全体のディスプレーが良くなって、通行人の目を引くようになった。
「本当だ。選びやすくなって、見栄えも良くなりました」
「これなら、ピンクを何本、黄色を何本って、お客様も求めやすくなると思う。それぞれの色が残り何本あるかも、把握しやすくなったね」
「そうですね」
チャロは、手を叩いて喜んだ。




