新天地でモフモフ料理無双 10
ジェルマーノは、腹が減ったのか次の料理を催促した。
「早く次の料理を持ってこい」
「かしこまりました」
蒸した鴨肉、オマール海老、ムール貝、レーナお得意のサルシッチャなどを美しく盛り付けた前菜を運ぶ。
「ヴェントーネ産の海の幸山の幸の前菜です。肉の腸詰めはサルシッチャと申します」
「うむ……」
ジェルマーノは、隣の女性から渡された前菜を無表情で食べている。
幹部たちは、特にサルシッチャを特に気に入ったようで、先を争って取っていき、すぐに無くなった。
「このサルシッチャというのが特に旨い。あんたが作ったの?」
「そうです」
「このタレも旨いね」
素材が良いので蒸しただけでも食べられるが、味が物足りない。
そこで、唐辛子、塩レモン、ニンニク、姫林檎を混ぜて甘辛のタレは作った。これを浸けて食べると味が別物となる。
好評に気を良くして、次のスープを出す。
「アクアパッツァです」
「こんなに旨いアクアパッツァは初めてだ」
「俺史上一番かも」
アクアパッツァも大好評だった。
「ウンウン……」
幹部たちが褒め称える中、ジェルマーノも頷きながら食べている。
「このような具沢山のアクアパッツァが夢だったんだ」
ポロリと本音を隣の女性に漏らした。
その声はとても小さかったが、レーナの耳にしっかり届いた。
メインとなる肉料理を出した。
「ラムチョップのロースト、塩レモンを添えです」
ヨーグルトに一晩漬け込み、臭みを取って肉の繊維を柔らかくしている。それを炭火で炙り焼きにした。
100人分を焼くのは大変だったが、コンロをフル回転させて用意した。
「さっぱり食べたい方は、塩レモンをお好みでふり掛けてください」
早速手が伸びる。
「このラムチョップは、柔らかくて臭みもなくて香ばしい」
「塩レモンってのがいいね。サッパリ食べられる」
「もう一本、頂こう」
「お前、何本目だよ」
「まだ一本目だが?」
「ウソつけ、その骨は何だ」
「あれー? おかしいなあ? 誰か俺の皿に乗せただろ?」
ラムチョップの奪い合いになった。
骨をいつまでもしゃぶっている者もたくさんいる。
料理に夢中で、誰も酒を飲んでいない。宴会じゃなくて、タルパの料理を味わう会となった。
ジェルマーノも満足そうに食べている。
レーナは、次の魚料理を出した。
「魚はタイの塩釜焼です。こちらは私が取り分けます」
尾頭付きのタイが踊るような形をつけて、塩釜で蒸し焼きにしている。
「これは上品な味だ」
「魚は淡泊で物足りないと思っていたが、これは文句なし」
塩釜によって甘味と旨味が引き出されたタイの身は、食感がフワフワ。どこにも文句のつけようはない。
つまりは、パッソーニ一家に付け入る隙を与えない。
〆は塩レモンとトリュフのパスタを出した。
それもあっという間に食べつくされた。
「この香りは、ドレッシングにも使われていたトリュフか? こんなに匂いがきついものなのか」
「今朝収穫したばかりなので、特に香りが強いのです」
ペッピーノと一緒に早朝出かけて収穫してきたトリュフを贅沢に使っている。
「これは贅沢なパスタだ」
「今まで食べてきたのは何だったんだと思ったよ」
食べ終わった幹部から料理の感想を言いあって騒がしくなった。
(良かった。これで生贄はないわね)
トリュフと聞いて、サビーノが何か思い出して言ってくるかと思ったが、ずっと押し黙っている。
ところが、サラダ以外の料理を平らげたジェルマーノが不満そうな顔なのが気になった。
突然、ジェルマーノがレーナを名指した。
「おい、女料理人、レーナと言ったか」
「はい」
「これで終わりか? ああん?」
一気に場が静かになる。
今まで喜んで食べていたはずの幹部たちが、一様に押し黙り、険しい顔になる。
「こんなもんじゃ、この俺を満足させることはできないぞ」
裏手では、ビビアナたちが成り行きを見守っている。
「やはり、難癖つけてここを潰す気だね」
「あれだけ美味しい、美味しいって、パクパク食べていたのにね」
料理の評価と目的が完全に切り離されている。
「もう出すものは終わり? このままじゃ、うちが潰されてしまうよ」
心配するビビアナに、クラウディオが毅然と言った。
「いえ、まだです。最後の隠し玉があるみたいです」
「隠し玉?」
「見てはいけないと言われて、預かっている皿がここに」
クラウディオは、レーナから、『最後に出すまで隠しておいてください』と、布巾で覆われた大皿を預かっていた。
イレネオは、のんきに言った。
「さてさて、最後に大逆転があるのかな?」
この大皿の正体は何なのか。
レーナがこの後、ボスに対してどう出るのか。
一同は、固唾を飲んで見守る。




