新天地でモフモフ料理無双 9
パッソーニ一家の宴の日がやってきた。
ボスのジェルマーノ、幹部、若頭など、総勢100人ほどのいかつい顔ぶれがタルパの宴会場に集まった。
会場の外では、厳めしい顔つきの男たちが物々しい雰囲気で見張りに立っている。
「うわあ、何かの失態でもしようものなら、その場で殺されそう」
気が強いベニアミーナでさえ青ざめている。
「ちょっと、レーナ、本当にあんたに料理を任せて大丈夫なの?」
「では、代わりに作りますか?」
「っ! 性格悪い!」
「出来ないなら、私に任せてください」
「分かったわよ! 失敗したら、あんたが責任を取るんだからね!」
ベニアミーナは、恐怖で震えながらサラダの下ごしらえを始めた。
「ボスは野菜が嫌いだってのに、こんなにたくさん用意してさ! どういうつもりよ!」
文句が減らない。
「この大皿に美しく盛り付けてください」
クラウディオが一週間かけて作り込んだドラゴンや女神、噴水の飾り野菜を乗せた大皿に、ベニアミーナが生野菜サラダを盛り付けていく。料理人の端くれだけあって、なかなかのセンスである。
「ふう、どうかしら」
「あら、いいじゃない」
「おお、豪勢な一品となったな」
ビビアナもコルンバーノも出来栄えに感心した。
タルパの一大事なのにのほほんとしているイレネオは、なぜか厨房でスケッチしている。
ビビアナが気付いた。
「こんなところで、何してんだい?」
「この素晴らしい瞬間を記録に残そうと思って」
写真のないヴェントーネでは絵で残すしかない。
サササ! と写し取った絵は、飾り野菜ではなくてレーナの顔だった。
レーナたちは、戦争のような忙しさでイレネオに構うものは誰もいなかった。あのベニアミーナでさえも、その余裕はない。
100人前の用意に人手がいくらあっても足りず、他のスタッフも総出で準備を手伝った。
その中にガリオもいたが、レーナは恨み言をいう暇もない。
「俺の目利きが確かだったろ」
自分の手柄として他の人に自慢している。どんな神経をしているのかとレーナは呆れた。
「サラダが出来ました。運んでください」
「じゃ、挨拶に出ようかね」
サラダを運び終えたところで、ビビアナが女将の挨拶をする。
会場では、豪華なサラダの皿が次々と運び込まれるごとに「オオー」と歓声が上がっている。
「つかみはオッケーね」
レーナは会場の反応に手ごたえを感じた。
部下たちが喜んでいる中、いくら野菜嫌いのボスでもあからさまな文句は言わないだろう。
ビビアナの型通りの挨拶が終わると、レーナが本日の責任者として紹介された。
「本日の料理はこちらの料理人が担当いたしました」
「レーナです。本日は私の創作料理をご堪能下さい」
「これは目にも楽しめるな」
「テーブルの飾りだろう。食べなくてもよいのだよな」
初めて見る飾り野菜に驚いている。
「どれも食べることができます。私が作りましたお好みのドレッシングをおかけください」
トリュフ、プラム、塩レモンの三種類の手作りドレッシングを用意している。
野菜嫌いのジェルマーノは、当然動かない。
ボスを差し置いて手を出すことができない部下たちは、ジッと許可を待つ。
「お前ら、食べていいぞ」
ジェルマーノの一声で、幹部たちが一斉にサラダに手を伸ばした。
見たことのないトリュフソースに、幹部たちは興味津々となっている。
匂いを嗅ぎ、口にすると、その美味しさにまたビックリした。
「嗅いだことのない匂いと味だ」
「このソースを掛けると、ただの生野菜が御馳走に変身するぞ」
レーナは、チャロを苛めていたサビーノの存在に気付いた。
(ヤバ!)
何か言われたらどうしようと心配していたが、トリュフを勝手に売っていたレーナの顔を覚えていないのか、無視してサラダを食べている。
野菜好きでなくても美味しく食べられるよう工夫したつもりだが、やはりジェルマーノは手を付けないでワインを飲んでいる。
「ボス、このソース、今まで食べたことのない味で美味しいですぜ」
「ジロリ……」
「あ、すいやせん。差し出がましいことをいいました」
睨まれてすぐに引っ込んだ。
宴会料理はコース料理と違って、大皿で提供して自分の好きな料理を食べていくのだが、ジェルマーノには横にいる愛人らしき妖艶な女性が付きっ切りで取り分けている。
野菜を取るなと言われているようで、全く手を出さない。
ドレッシングで食べて貰えば気に入るはずだと自信あったが、残念ながら失敗だ。




