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新天地でモフモフ料理無双 8

「部屋には入らないで、ここで聞かせてください。一歩でも入ったら、ペッピーノがかみつきますよ」

「グルルルル……」


 ペッピーノが本気で唸りだした。

 クラウディオに襲い掛からないのは、レーナが首を抑えているからだ。臨戦態勢のペッピーノは、レーナが手を離せばいつでもとびかかれる。


「分かった。ここで話す。よく聞いてくれ。ビビアナが君に料理を任せた理由は、人手不足だけじゃない。もう一つあったんだ」


 それはとても気になる情報だ。


「聞かせてください」


 クラウディオは、気持ちを整えると話し出した。


「それは……、失敗したときを考えてのことだ」

「大変なことになるみたいですね。どう責任をとるつもりでしょうか?」

「あんたを生贄として差し出すつもりなんだよ」

「私を生贄に⁉」


 レーナは、ガアアアンと大ショックを受けた。


「なにそれ! 理不尽!!!」

「パッソーニのボスは、定期的にパーティーを開くんだが、上納金を拒否している店をわざわざ選んでいる。そこで難癖つけて嫌がらせ行為をするのが定番なんだ。前にそれで別の店のオーナーが引き回しにされて半死状態にされた。一命は取り留めたが、後遺症で寝たきりだ」

「なんてひどいことを」

「ここの料理長が黙って辞めたのも、それが理由。ビビアナは責任を取らないし、イレネオを差し出すなんて絶対にしない。犠牲になるのは自分だろう。そう怖れていたところにとうとう宴会の話が来た。それで夜逃げのようにいなくなった。ビビアナはガリオに命じて、身代わりにできる料理人を探してこい、こないとお前を差し出すと脅したんだ」

「宴会の話を知ってから逃げたんですか」

「そうだ」


 ビビアナは、スタッフと示し合わせて、さも今知ったように演技したということだ。

 レーナを騙したのだ。


「そんな……、親切な人だと思ったのに。裏でそんなことを企んでいたなんて……」

「君は若くて可愛い。失敗しても、君を差し出せばボスが怒りを鎮めてくれるだろうと考えている。そうでなければ、新人にいきなりこんな大問題を任せたりしない」


 生まれて初めて可愛いと言われたが、この状況で喜べない。

 生贄などとんでもなく嫌だ。


「絶対に嫌です! どうして来たばかりの私が、この宿の犠牲にならないといけないんですか」

「来たばかりだからだよ」

「うう……」

「実はこのことを黙っているように言われていたんだが、騙されている君が気の毒で……。こんな時間になったのも、他の人に聞かれたくなかったから」

「そう言うことでしたか。教えてくれてありがとうございます。誤解も解けました」


 クラウディオの立場も悪くなるだろうに、勇気を出して教えてくれたことはありがたかった。


「逃げ出すかい?」

「そうですね……」


 考えなくもない。

 せっかく見つけた働き口だが、命の方が大事。

 だが、逃げたという後ろめたさに耐えきる自信はレーナにない。


「料理でボスを攻略すればいいんですよね」

「え?」

「せっかくワンチームになっているんですから、やれるところまでやりたいです」

「ボスが気に入る料理は難しいよ」

「私、やってみます。クラウディオ、私に協力をお願いします」


 レーナは深々と頭を下げた。


「奇特な子だ」

「よく言われます。二つの道があったら、困難で損する方を選んでしまうんです。そういう性分です」


 誰もが、ちょっとでも得したい、損は他人に押し付けたい、報酬以上のことは絶対しないと考えて生きているこのヴェントーネでは、珍しい人だとクラウディオは考えた。


 クラウディオは、ヴェントーネ出身ではない。

 海のはるか向こうにある、小さな島国プジルエトからやってきた。

 そこでは地道に生きる人が多かった。

 飾り野菜の技術も故郷で習得している。

 移民だが、ヴェントーネにはなかったこの技術を武器にいくらでも働き口は見つかった。

 移住してから分かったのは、故郷と違い、ここでは人々がギスギスして足の引っ張り合いが普通ということだ。

 人間関係に疲れたクラウディオは、会話嫌いを標榜してできるだけ他人と関わらないように過ごしてきた。

 そこに現れたレーナという女料理人。


(レーナのような人ばかりなら、この国も生きやすくなるのに)とさえ思った。


「分かった。僕もできるところまでやってみるよ」

「はい! 頑張りましょう!」


 レーナがニコッと笑ったから、クラウディオは驚いた。


「君は、気丈な子だね。今まで見たことがない」

「私はただの料理人です」

「見習いたいよ。明日も早いから無理するなよ」


 クラウディオは、感心しながら自分の部屋に戻っていった。


「ああ、驚いた。でも、話してみるといい人だったね」


 味方がいると分かっただけで、精神的にはとても救われた気がする。


 ペッピーノをモフモフしているうちに、グッスリと寝てしまった。



 翌朝、いつもよりずっと気持ちの良い朝を迎えられた。


「よーし、今日も頑張ろう!」

「ワン!」


 レーナは、支給されたコック服の腕をまくりながら厨房へと向かう。


「お、やる気マックスだな」


 コルンバーノがレーナの腕まくりを冷やかしてくる。

 クラウディオは、レーナだけに見えるよう小さく親指を立てた。



 それからも寝る間を惜しんで自伝を読み込んだレーナは、ボスのことをいろいろと知ることが出来た。


「ペッピーノ、これで料理が作れそうよ」

「ワン!」


 ボスを攻略するメニューが完成した。

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