新天地でモフモフ料理無双 6
厨房に連れていかれると、ビビアナから三人の厨房スタッフに紹介された。
「新入りのレーナだよ。みんな仲良くやってくれ」
「「はい!」」「……」
「右から、コルンバーノ、ベニアミーナ、クラウディオだ」
コルンバーノは、一番年長だが、それでも30代後半ぐらい。
ベニアミーナは、レーナとあまり年が変わらない女の子。
クラウディオは20代前半ぐらいで、ずっと俯いているのが気になる。
「よろしくお願いいたします!」
レーナは、新人らしく元気よく挨拶した。
三人は、軽く会釈を返す。
「早速だけど、今度パッソーニ一家のパーティーがうちで開かれることになった。その料理をこのレーナに一任する。協力し合って成功させること。分かったね」
「「はい!」」「……」
クラウディオ一人だけ、先ほどから一言も喋らない。
ビビアナがいなくなると、三人は緊張が緩んで笑顔になった。
「どこでスカウトされたんだ?」
コルンバーノが話しかけてきた。
「川原にいたら、ガイオにスカウトされました」
「ガイオ? あいつ、確かに一人辞めて人手不足だから誰か探してこいとビビアナに命じられていた。こんなにすぐ見つかるもんなんだな」
レーナのような若い料理人では、不満なのだろうとすぐに分かる。
「料理長はどなたですか?」
「いないよ。その料理長が辞めたんだから」
「そうでしたか」
ベニアミーナが興味津々にレーナを見ている。
「あんたにパッソーニ一家の料理を作らせるなんて、アコギなことをするもんだよね、ビビアナもさ」
「ああ、もうこれは失敗前提だな」
誰もレーナの実力を信じていない。
「どうして私のような新入りに、作らせようとしているのでしょう?」
「ここには、パッソーニ一家のボスを満足させられる料理人がいないと考えているからだ」
「料理長が辞めちゃったからですね」
「そう。突然辞表だけを残して、煙のように消えてしまったよ」
「今頃新しいレストランで働いているでしょうよ」
誰も心配していないのが不思議だと、レーナは考えた。
ふらりとイケメンの青年が厨房に入ってきた。
「あ、イレネオ様!」
ベニアミーナが女の顔になる。
「新入りって、その子かい?」
「レーナです。今日からお世話になります」
「僕は、イレネオだ」
イレネオがキラキラした笑顔をレーナに向けた。
(イケメンだけど、カルロの勝ちかな)と、レーナは思った。
「イレネオ様……。今日も素敵……」
ベニアミーナは、口を開けてうっとりとイレネオの顔を見ている。
(わっかりやす!)
呆れて見ているレーナに、コルンバーノが耳打ちした。
「イレネオは若旦那。ビビアナの息子でこの旅館の跡取りだ」
「え? 若旦那って、ガイオじゃないんですか?」
「はあ?」
ベニアミーナが顔を歪ませる。
コルンバーノはケラケラと笑った。
「若旦那って、本人がそう言ったのか?」
「いえ……」
「あいつも使用人の一人。それも、ここでは一番下っ端の三助をやっている」
「他に何にもできないからね」
「そうでしたか。本人は、そんなことを一言も言っていません。私が勝手に想像しただけです。失礼いたしました」
レーナは、イレネオにお辞儀した。
「お世話になります」
「料理が上手なんだって?」
「自信はあります」
「それは助かる。いい人が入ってくれて良かった。期待しているからね。辞めないでくれよ」
「はい。頑張ります」
辞めようかと思っていたが、ここでそれを言う勇気はない。
「そうだ、今度一緒に食事をしよう」
ベニアミーナがキッとレーナを睨む。
「ありがとうございます」
「では、これで」
ベニアミーナは、イレネオの背中に向かって元気よくお辞儀した。
「お疲れ様でした!」
そのままレーナに脅すように言った。
「社交辞令だからね。本気にするんじゃないわよ」
「分かっています。……ところで、三助って、何ですか?」
コルンバーノが教えてくれた。
「三助ってのは、温泉の管理と入浴客の背中を流す人のことで、温泉になくてはならない仕事だ」
「そうだったんですね。私、てっきりこの旅館の若旦那と思い込んでいました」
レーナの頭をゴンとベニアミーナが小突いた。
「え?」
「あんなのを若旦那と間違えるなんて、イレネオ様に失礼極まりなし! よく反省しなさい!」
「すみませんでした……」
こんなことで頭を叩かれて凹む。
「そんなことより、宴会のことを考えた方がいい。メニューをどうする?」
コルンバーノに言われて、レーナは、(本当に、『そんなこと』だわ)と、ちょっとだけ留飲を下げられたので、気分を切り替える。
「ボスについて、いろいろと教えてください。出してはいけないものとか、好物とか」
「分かった。俺たちが知っている限りのことを教えるよ」
コルンバーノは信頼できそうだ。
ベニアミーナは、イレネオのこととなると、見境なくなる。
クラウディオは、まだ一言も喋っていない。全体的に暗い。
勝手に話し合いから離れて、野菜の飾り切りを始めた。
みるみるうちにニンジンをドラゴンに変えていく。その速さと確かなテクニックにレーナは目を見張った。
出来上がったドラゴンは、モミジやサクラの花のレベルじゃない。細かな切込みで、造形もしっかり出来ている。
「素晴らしいですね!」
「……」
レーナが話しかけても黙っているが、少しだけ照れている。
「クラウディオは、パッソーニ一家の宴会で使う飾り野菜の練習中。豪華な飾り付けでボスの機嫌を取る作戦だ」
「頼もしいです」
「俺たちは、ワンチームだからな」
レーナは、その言葉に嬉しくなった。
いきなり重責を背負わされて絶望したが、仲間たちの協力があればこの難局を乗り切れるに違いないと希望が出てきた。




