新天地でモフモフ料理無双 5
従業員用通用口に案内された。
「こっちだよ。あ、ペッピーノは外に出しておいて」
「分かりました」
レーナが「ペッピーノにここで待っていて」と命じると、大人しく座った。
「よしよし、聞き分けの良い子ね」
モフモフしながら褒めてあげる。
「ただいま帰りました!」
ガイオが元気よく挨拶して中に入ると、着飾った化粧の濃い年配の女性が出てきた。
「お帰り、料理人は見つかったかい?」
「はい、こちらのレーナです。レーナ、女将のビビアナだよ。ご挨拶を」
「初めまして、レーナです。こちらでお世話になります」
「これはまたずいぶんと若い料理人だね。ガイオ、自分の好みの子を選んだんじゃないだろうね」
「滅相もありません。腕は確かです。この目でちゃんと見ました」
大げさに自分の目を指さして協調した。
「そうかい。それならいいよ。私は200年続くこの老舗温泉旅館タルパの女将、ビビアナだ。早速働いてもらうよ」
「分かりました」
怖いぐらいにあっさりと採用された。
「ついておいで。しきたりの説明をするから。ガイオは自分の仕事に戻りな」
ガイオとは、ここでお別れとなった。
長い廊下を歩きながら、ビビアナはいろいろと質問してくる。
「今まではどこで働いていたんだい?」
「城下町の居酒屋です」
「城下町から? あそこに比べたら、こっちはずいぶん田舎に感じるだろう。洗練されたあちらとは違うからねえ」
「いえ、そんな……」
「いいんだよ。事実だもの。歩いている人々のセンスが全然違う。私もドレスの買い付けには、城下町まで行くんだよ。商品がこっちにはないものばかり。だけど、別に引け目に感じてはいる訳じゃない。こっちにはこっちの良さがあると思っている。温泉のお陰で、街の活気は城下町とさほど変わらないからね」
「そのようですね。たくさんの観光客で賑わっているのを見ました」
「そうだろう。この世の悪が尽きようと、ペイポンの湯は尽きることがない。そう古来より言われている。それぐらい、ここでは良質な温泉が豊富に湧き出ている。それを求めて全国から人が押し寄せるんだ」
「へえー」
「それもこれも、ヴェントーネ火山のお陰。火山様様さ」
ここで暮らす人々は、何百年もの間、恩恵を受け続けているヴェントーネ火山を崇めているようだ。
「たまに噴火してその時は大変だけど、ここからは離れられないねえ」
「噴火するんですか?」
「そりゃそうさ。今でもマグマが沸々と湧き出ているよ」
「うわー」
「だから、20年に一度、火山の神様の怒りを鎮める儀式をするんだ。それが今年だ」
「どんなことをするんですか?」
「その時がくれば分かるさ。大事な儀式だ。いつも以上に忙しくなるからね。たくさん働いてもらうよ」
「分かりました」
20年に一度の儀式に立ち会えるなんて、凄くラッキーだとレーナは考えた。
どんな儀式が見られるのだろうと楽しみになった。
スタッフらしき男性が大慌てで走ってきた。
「ビビアナ! 大変だ!」
「騒がしいね。ここで大声はご法度だよ。新入りもいるんだ。言動には注意しな」
立て続けに注意が出て、スタッフは肩をすくめる。
「すみませんでした。以後、気をつけます」
威厳あるビビアナには、誰も頭が上がらないようだ。
「それでいい。で、何があったんだい?」
「パッソーニ一家が、今度の宴会をうちでするから、食べたことのないご馳走を用意しろと言ってきました」
「なんだってええええええ!」
「うわ!」
レーナもスタッフも思わず耳を塞ぐ。
(一番でかい声じゃない!)
笑えるぐらい、ビビアナの声が誰よりもうるさく館内に響いた。
「ああっと、コホン。そうかい。上納金を拒否しているから、嫌がらせをする気だね」
パッソーニ一家の嫌がらせと聞いて、チャロを思い出した。
このペイポンに巣食うパッソーニ一家。上納金を払え、さもないと営業妨害するぞと、ここでも脅してくるのだろう。
ビビアナは、レーナの顔を見た。
「そうだ。あんたの腕前を見せてもらう機会としよう」
「え? 新入りの私がいきなり?」
「そうだよ。城下町仕込みの腕前を披露しておくれ。さぞかし珍しいご馳走を作れるんだろう」
「えええ⁉」
「いいかい、絶対にしくじるんじゃないよ。パッソーニ一家のボス、ジェルマーノは美食家だ。彼の口に合わない料理を出したら、悪評を広められてしまうからね」
「そんな……」
成り行きとはいえ、働きだした早々にとんでもない責任を負わせられることになった。
「準備期間は一週間。その間に他の者と相談して、パッソーニ一家を黙らせる料理を出すんだ」
「うええええ!」
無理難題を押し付けられて、吐きそうだ。




