新天地でモフモフ料理無双 4
「それ、とても美味しそうだね」
青年は、レーナの手元の魚料理に興味があるようだ。
「ええ、美味しいですよ」
「とても変わった香りがするけど、何を入れた?」
「トリュフです」
「トリュフ? 幻のキノコと言われる?」
「ここでは、そう言われているんですか?」
「ああ、収穫されたトリュフは全て王室に送られてしまうので、庶民の口になかなか入らない。名前を知っていても、どんな味でどんな匂いがするのか、ほとんどの人が知らないでいる。それで幻のキノコと言われている」
レーナは、そこまでの事情を知らなかった。
「だからみんな騙されて偽トリュフを買ってしまったんですね。謎が解けました」
料理人までが騙されるのは変だと思っていた。
本物を見たことも食べたこともなければ、見分けを付けられないのも仕方ない。
収穫したトリュフは王室へ送ることと義務付けられているとしたら、盗掘になってしまう。捕まってしまうのだろうかと心配になった。
「あの、このことは黙っていてもらえますか?」
「ハハハ。もちろん。通報しないよ。君はこの辺の事情に疎いようだね」
青年は屈託のない笑顔になった。
(悪そうな人じゃなくて良かった)レーナも笑顔になる。
「最近、ここに来たばかりなんです」
「へえー、何しに?」
「働き口を探しています」
「ほおー。……で、決まりそう?」
レーナは首を振った。
「まだ何も決まっていません。住み込みの仕事を探しているんですが、この子、ペッピーノがいるのでどこも難しくて……」
住み込みの仕事はいくらでも見つかるが、ペッピーノと一緒だと言うと断られていた。
「何の仕事を希望なの?」
「料理の仕事です。腕には自信があります」
「へえ、なるほど。だから手際の良さがプロなんだ」
怖いほどよく見ている。
「良かったら、うちで働かない?」
「お兄さんの家で?」
「申し遅れた。僕の名はガイオ」
ガイオは右手を差し出した。
「うちの温泉宿で、料理人が急に辞めてしまって困っていたんだ。今日も働ける人を探して、隣町まで行ってきたところ。その帰り道だった」
「料理人を探していたんですか?」
レーナは飛び上がって喜んだ。渡りに船とはこのことだ。
「あ、でも、この子が一緒じゃないと嫌なんです。それは譲れません」
「その子も一緒でいいよ。番犬になりそうだ」
ペッピーノも飼ってよいなんて、なんていい話だろうと感激した。
「私、レーナと言います。この子はペッピーノ」
「よろしく。ペッピーノもよろしく。賢い子だ」
レーナはようやくガイオと握手した。がっしりと大きな手は温かい。
ガイオは、慣れた手つきでペッピーノの鼻先を撫でた。ペッピーノは盛んに匂いを嗅いでいるが嫌がる気配はない。それも信用の後押しとなった。
「じゃ、ついてきてよ」
「はい」
慌てて荷物を纏めると、ガイオについて行く。
「僕で良かったよ。人さらいもいるから」
「え、人さらい?」
「で、そのトリュフはどこで手に入れたの? 僕に場所を教えてくれないかな」
「えーと、この子が見つけたんです。だから私はどこにあるか知らないんです」
ペッピーノの体を撫でた。
「そうか。犬は鼻が利くからなあ」
素直に納得している。
「うちでは毎日客がやってきて、朝昼晩の食事も提供している。大忙しだ。一人抜けただけで大変さ。君みたいないい人が見つかって良かった」
ガイオは饒舌に話してきた。愛想もよく、客商売に向いている。
「他に何名の料理人を雇っているんですか?」
「三名いる。一人は君ぐらいの年の女の子だから、気が合うといいね」
「私ぐらいの女料理人? それは嬉しいです」
話が合うといいなと考えた。
ガイオが働く温泉宿「タルパ」に到着した。
「ここだよ。うちの温泉宿タルパ。大浴場が自慢で、大宴会もできる」
とても古い木造建物で、前面に3階建て。その後ろに5階、右に7階建て。それぞれ屋根付きの渡り廊下でつながっている。増改築を繰り返したのか、中で迷いそうな構造をしている。
庭園には、草木の間にいくつもの溶岩の塊がオブジェのように置かれていた。
「うわあ、日本の古い旅館みたい」
昔を思い出して懐かしくなった。
「うちの名物料理は溶岩焼き。溶岩風呂に入って汗を流した後、溶岩焼きが堪能できる宿として人気がある。遠方からもたくさんのお客様が来るんだ」
「聞いているだけでもワクワクします」
レーナは、ここでぜひ働きたいと思った。
「ガイオはここでどんな仕事をしているんですか?」
「ああ……、何でも屋さ」
ガリオは歯切れの悪い返事をしたが、『うちの温泉宿』と何度も強調していたし、採用も担当している。きっとここの若旦那だろうと、レーナは好意的に解釈した。




