新天地でモフモフ料理無双 3
『炎回廊亭』と看板に書かれたレストランを発見。
「ここね。うわー、豪華な造り。間違いなく高級レストランだ」
ヴェントーネ特産の石造りの堅牢な建物。そこかしこが金で装飾されているピカピカの外観。
内装も天井にはシャンデリアが吊るされて、床には赤い絨毯が敷き詰められて豪華絢爛。
入り口にはドアマンが立っている。
レーナの身なりでは、話も聞いてくれないだろう。裏手に回って搬入口から訪問することにした。
裏口は開け放たれていて、たくさんの料理人とスタッフが働いているのが見えた。
ここなら高級食材トリュフの価値を正当に評価してくれるはずと、期待が高まる。
腰を低くして、近くにいた掃除中の女性に声を掛ける。
「お忙しいところ、お邪魔します。一分だけお時間戴けませんか?」
「勧誘かい? そんなことをしていないで、真面目に働いたらどうだい?」
最初のセリフを間違えたようだ。
「いえ、勧誘ではなく、最高級のトリュフは要りませんか?」
「シェフ! トリュフ、要りますかって!」
シェフとは料理長のことで、厨房内では一番偉い。ありがたくもその人に取り次いでくれた。
しかし、そう簡単に事は運ばない。奥にいたシェフはそっけなく断ってきた。
「いらないよ。他を当たってくれ」
「一度、味を試してみませんか?」
「帰ってくれ」
壁は厚いが、トリュフの良さを一度知れば絶対病みつきになるはずだとレーナはもう少し粘ることにした。
「そんじょそこらでは手に入らない最高品質です。見るだけでもお願いします」
「前にあんたのような飛び込みでトリュフを売りに来た人がいて、ろくでもない商品を買わされたんだよ」
諦めの悪いレーナを追い返すために、理由を教えてくれた。
「それって、どんなトリュフでしたか?」
「白トリュフだよ。城下町では大人気のキノコだと聞いて、安かったから仕入れてみたが、中は真っ黒で香りも味も全然なくてガッカリした。周辺の店はどこも買わされていて、皆も警戒しているんだ」
「そうだったんですね」
売れない謎が解けた。
「外が白くて中が黒いトリュフはありません。おそらく、トリュフによく似たメラノガステルだと思います。香りも味もなく、食べる価値のないキノコと言われています」
「そうだったのか。いやあ、おかしいと思ったんだ。こんなに味のないものを、王室は喜んで食べているのかと」
まがい物ワインを売る業者がいたように、偽トリュフを売る行商人がここで横行しているようだ。
「これ、教えて頂いたお礼です。賄いで使ってみてください」
レーナはお礼にトリュフを一つ渡した。
「ふうん。まあ、貰っておくよ」
全く期待のない声で受け取った。
外に出てしばらく街中を歩いていると、さっきのシェフが追いかけてきた。
「トリュフ売りのあんた! ちょっと待ってくれ!」
レーナは足を止めて待った。
「ハアハア! 見つかって良かった」
たくさん走ったのか、肩で息をしている。
「何でしょうか?」
「あのトリュフ、まだあるかい?」
「ありますよ」
「全部くれ!」
「本当ですか⁉」
飛び上がって喜んだ。
「前に買わされたトリュフとは、似ても似つかないいい香りと味だったから、うちで引き取るよ」
「良かった!」
レーナは、まとまったお金を手にすることができた。
誤解が解けて、トリュフの良さを知って貰えたことも嬉しかった。
懐具合が良くなると、心のゆとりも出てくる。
心のゆとりは笑顔を作る。
ニコニコとペッピーノをモフモフした。
「ペッピーノ、これでしばらくは食べ物に困らないで済むわ」
「ワン!」
ペッピーノも嬉しそうにしている。
市場に行くと、丁度店じまい直前だったので、売れ残りの魚を激安で買えた。
「この魚と残ったトリュフで絶品料理を作ってみよう!」
形が崩れて売り物にしなかったトリュフが、少しだけ手元に残っている。時間が経つと香りが無くなってしまうから、早いうちに食べることにした。
必要な物を購入して川原に行った。
一尾をペッピーノに分け与えると、生のまま食べた。
生で食べられないレーナは、調理を始めた。
枯れ木を集めて焚火を起こし、買ったばかりのスキレットでソテー。ジュワーと音を立てて焼けていく。
中まで火が通ったら、トリュフのみじん切りを入れた。途端に、ポワンと独特の香りが立った。
「ああ、いい匂い」
売れ残りの魚がトリュフによって高級料理となる。
「できた!」
魚のソテー、トリュフ風味の完成だ。
スキレットのまま食べる。
「いただきます! モグモグ……、ムフー! 絶品! ああー、久しぶりのちゃんとしたご飯だあああ!」
感涙しながら食べた。
目の前の景色もよい。
雄大にそびえる赤茶色のヴェントーネ火山。
それを見ながら食べると、ここがまるで高級リゾート地のレストランにも思えてきて、優雅な気分になった。
家出して大正解だった。
「美味しいし、景色もいいし、最高!」
料理と景色を堪能していると、「あのー」と、後ろから声を掛けられた。
「ワ!」
パッソーニ一家がやってきたのかと身構えて恐る恐る振り向く。
そこには、丸顔で背の低い青年がいた。
怖い印象は全くない。むしろ人の好い顔をしている。
パッソーニ一家ではなさそうでホッとした。




