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新天地でモフモフ料理無双 2

 早速麓の町に行くと、たくさんの人が歩いていて活気がある。

 誰かは買ってくれるだろうと期待して、道端にトリュフを並べて売った。


「最高級のトリュフはいかがですか? お買い得ですよ」


 通行人に声を掛けるが、誰も興味を示さず素通りしていく。


「人はたくさん歩いているのに、見向きもされないなあ……」


 オノフリオとの料理対決で使われていたから、トリュフが知られていないはずはないのだが、この地域では食べる習慣がないのだろうかと思うぐらい誰も関心を寄せない。

 たくさん売れたら、砂糖を買って、姫リンゴでデザートを作ろうと考えていたがこのままでは無理そうだ。


「仕方ない、姫リンゴも売ってみるか」


 試しに姫リンゴを並べたら、かなりの人が買ってくれて、すぐに完売した。


「あれー? トリュフの方が千倍価値あるのに」


 ぼやかずにいられない。

 お金は手に入ったが、リンゴデザートはお預けとなった。


 目の前で、「お花はいりませんか? コスモスです」と、観光客らに声を掛けて売っている花売りの少女がいる。


「あの売り方がこの辺では普通?」


 レーナも売り方を真似してみることにした。トリュフ売りの少女誕生である。


「トリュフはいりませんか?」

「トリュフはいりませんか?」

「トリュフはいりませんか?」


 あちこちに移動していろんな人に声を掛けたが、無視され続けた。

 トリュフより、横にいるペッピーノに興味を示すものが多い。


「トリュフはいりませんか?」

「それより、お前はコヨルフを飼っているのか?」

「ペッピーノと言います」


 レーナがニッコリ笑って伝えると、そそくさとどこかに行ってしまうのが大半だった。


「ペッピーノが怖がられているのかなあ。こんなに大人しいのに」


 見慣れていない人には恐怖を感じてしまうのかもしれないが、隠しておくこともできない。


 突然、男の声で怒鳴られた。


「おい! こんなところで勝手に商売するんじゃない!」

「わ! すみません!」


 縮みあがって声のした方を見たが、自分じゃなくて、先ほどの花売りの少女が言われていた。

 いかにもやくざ者の男が少女の体を突き飛ばして、色とりどりのコスモスが地面に散らばる。


「キャア!」

(うわー、なんて、分かりやすい嫌がらせ!)


 男の暴挙がエスカレートしていく。


「花なんか、こうしてやる!」


 男が無慈悲に散らばるコスモスを踏み潰していく。踏むたびに匂いと黄色い花粉が舞い散った。茎が折れて花はちぎれ、ぐちゃぐちゃになっていく。可憐な花があっという間に泥(まみ)れの無残な姿となってしまった。

 少女がショックを受けて泣きそうになっている。


「ああ……、せっかく綺麗に咲いたお花たちが……。もう元には戻らないのに!」

「知ったことか!」


 少女は手折れたコスモスを手で拾い上げる。売り物にならないが、捨てておくこともできず集めている。


「二度と勝手に商売するなよ! それから、早くこの町から出て行け! 目障りなんだよ!」


 そこまで言わなくてもいいのにと、レーナは腹立たしくなった。

 男が睨んでいたレーナをギロリと見返す。


「お前は新参者のようだから今回は見逃してやるが、またここで商売していたら今度は許さねえからな!」

「ヒェ!」


 男の剣幕に驚いたペッピーノが、「ワンワンワンワン!」と吠えたてる。


 それが怖かったのか、「二度とするなよ!」と、怒鳴ってはいるが、なぜか遠ざかっていき、どこかに行ってしまった。


「脅しだけでよかった。ペッピーノ、もういいよ。静かに」

「クゥーン……」


 ホッとしてペッピーノの頭を撫でると、座って尻尾を振った。


 レーナは、落ちた花を拾うのを手伝った。


「はい、これ」

「ありがとうございます……」

「災難でしたね」

「いつもの事です……」

「あれがいつもの事?」

「そうです。私が花売りをしていると、すぐにやってきて邪魔するんです」


 何か事情がありそうだ。


「私はレーナと言います」

「私はチャロです」

「さっきの人、何だったんですか?」

「あれは、パッソーニ一家のサビーノです」

「パッソーニ一家って?」

「この温泉街ペイポン一帯を仕切っているマフィアです」

「マフィア⁉ そんなものがいるの?」


「はい。この辺では、ヴェントーネ火山の地熱で温泉がたくさん湧きます。それ目当ての湯治客が多くて、さらに彼ら目当ての商売人が集まり、一大歓楽街となっています。パッソーニ一家は、ここで商売する人々から上納金として売り上げを巻き上げているんです。応じないと先ほどのように邪魔をしてきます」


「私には脅しだけだったわ」

「そのワンちゃんが怖かったんだと思います」

「ペッピーノのこと?」

「そうです」


 お座りしているペッピーノは、自分の名前を呼ばれてフサフサの尻尾を大きく振った。

 その存在で知らぬ間にレーナを守ってくれていた。そのことに改めて感謝する。


「上納金って、いくらぐらい払わなければいけないの?」

「売り上げの半分です」

「そんなに⁉」


 経費だって掛かるのに、暴利だ。


「はい。だからまともに払っていたら、当然苦しくなります」

「それで、そいつらの目を盗んで商売しているってことね」

「そうです。見つかると、先ほどのように商品を台無しにされてしまいます。それだけならまだマシで、どこかに連れていかれて酷い目に遭わされることもあります。見つからないように観光客に声を掛けていたんですが、ばれてしまいました」


 だからコソコソと声を掛けていたのかと納得した。


「レーナは何を売っていたんですか?」

「白トリュフよ」

「白トリュフ?」


 チャロは物珍しそうにトリュフを見た。


「全然、売れなくて。この町では食べられていないのかなあ?」

「私は見たこともないですね。ああ、でも、高級レストランの炎回廊亭さんでは、トリュフを使ったお料理があったはずです。そこのシェフが話しているのを聞いた覚えがあります」

「え、本当⁉」


 有力情報を手に入れた。


「そのお店に行ってみたいので、場所を教えて」

「売りに行くのはいいけれど、パッソーニ一家には気をつけてくださいね。いつかは捕まってしまいますよ」

「ウン。気をつける! いろいろと教えてくれてありがとう!」


 レーナに店の場所を教えると、チャロは帰っていった。


「あー、ビックリしたね、ペッピーノ。ここって、城下町と違って全然平和な街じゃないのね。怖いね」

「ワン!」

「あっちは穏やかだったな」


 城下町は王室のお膝元。治安が特別に保たれていたのだろう。こちらは、観光客だけでなく、商売人や流れ者が行きつく歓楽街。危険な街のようだ。


 それでも手元のトリュフを売らなければお金がない。

 レーナは、チャロの情報を頼りにレストランへ売りに行くことにした。

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