新天地でモフモフ料理無双 1
家出してヴェントーネ火山の麓にたどり着いたレーナとペッピーノ。
ペッピーノの鼻でトリュフを見つけると、それを使って魚料理を作ったレーナ。
それを見ていた温泉宿タルパの若旦那(?)に声を掛けられて、温泉宿タルパで働くことになる。
ところが、働きだしたその日に女将ビビアナから、温泉街で嫌われているマフィアの宴会料理を任されてしまう。
重責を感じながらも張り切ったレーナだが、これは女将の策略で、ボスを喜ばせる料理を出さなかったことを口実に、上納金代わりとして自分をマフィアに差し出す腹積もりだと知ってしまう。
――ガラガラピシャン!
稲妻が夜空を切り裂き、その一瞬だけあたりが昼のように明るくなる。数秒ごとに起きる落雷が耳をつんざく。
ここ数日間、雷による圧倒的で恐ろしくも美しい空のショーが繰り広げられていた。
あてもなく家を出たレーナは、ヴェントーネ火山の麓の農村にたどり着いていた。
夜露をしのごうと農家の納屋を借りて寝泊まりしていたことで、雷の難を逃れられたことは幸運であった。
朝が明けると、昨夜の激しい雷雨から一転、嘘のような晴天が広がっている。
「ありがとうございました。今日で出発します」
「気をつけてな」
主人に仮宿のお礼を言うと、ペッピーノと共に出発した。
「親切な人で良かったね」
「ワン!」
「でも、お腹空いたなあ……」
「クゥーン…」
ペッピーノの耳も尻尾も垂れる。
「どこかで食べ物を調達しなきゃ……」
食材を探して、近くの森に入ることにした。
椎の木や楢の木の根元、枯れて腐った木の近くを重点的に見ていくと、腐葉土からキノコが頭を出している。
「食べられるかなあ」
毒キノコか食用か、慎重に見極めていく。
「これは、食べられる。これは食べられない」
ここで食べ物を見つけなければ死んでしまいそうなほど、空腹を抱えているから必死だ。
食べられそうなら手で引きはがして籠に入れる。
小さなリンゴがたくさん実っている木を見つけた。
「あ、リンゴ! 姫リンゴっぽい」
小さな林檎の表面は、濃紅に色づいている。
一個だけもいで服でこする。表面がピカピカに磨かれた。
皮付きのまま軽くかじってみる。硬くて酸っぱい。それでも十分に食べられる。
シャクシャクと食べていくと、少しだけ腹が満たされた。
手が届く範囲のリンゴをもぎ取って、籠にたくさん入れた。
「ふうー、これだけあればいいかな」
嬉しい大量でホクホクしていると、ペッピーノが地中から何かを掘り出してガツガツと食べていることに気付いた。
ペッピーノは、自分の食べ物ぐらい自分で探して食べるので、一緒にいても全く手が掛からない。
「土の中の何かを食べている?」
近づいて口元を見ると、土の中から白い塊を鼻先と前足で掘り出しては食べている。
「あらー、それ、何?」
レーナが話しかけても、無視して食べることに夢中だ。
食べ終わると、盛んに土の匂いを嗅ぎ、辺りをつけた場所を前足で掘り始める。
地中からいびつな白い塊がいくつも顔を出した。その途端、独特の匂いが周囲に広がっていく。
馥郁たる上品な香り。
それは、前世で働いていた高級レストランで嗅いでいた匂いと同じだ。
「え? この香りって、もしかして!」
慌てて、ペッピーノが食べている口を押えて中を見た。
白いキノコが入っていた。
「やっぱり! これ、トリュフじゃない! それも白い方!」
高級食材との思わぬ出会いに興奮した。
トリュフは、西洋料理の香り付けに欠かせない高級キノコ。
パスタに良し、卵料理に良し、肉料理に良し、サラダに良し。どんな食材とも相性よく、使い道のバリエーションが無限に広がる。
栽培が難しく、その希少性から台所のダイヤモンドと称されるほどで、高額で取引される。黒よりも、強烈な香りのする白い方が値段は高い。
ペッピーノは、その嗅覚でトリュフを探しては掘り出して食べていた。
「ねえ、ペッピーノ、私も食べたいなあ」
「ワン!」
ペッピーノが食べるのをやめてレーナに譲ってくれた。
「ありがとう」
モフモフの頭を撫でる。
トリュフを嗅ぐと、刺激的な香りが鼻腔をついた。
「ああ、久しぶりに嗅いだわ」
匂いは記憶と結びついている。
パスタの仕上げでトリュフをスライスしたこと。スクランブルエッグの上に刻んだトリュフを散らばせたこと。鴨肉のローストにスライスしたトリュフを挟んだこと。一緒に働いていた片岡翼先輩の姿まで目の前に浮かんできた。
前世の記憶が鮮やかに呼び覚まされたことで、郷愁がレーナを襲い、気が付くと涙が頬を伝っていて、大声を上げて泣き叫びたい気分になった。
「片岡先輩……。今頃どうしているの? 大地震に襲われて天井に押しつぶされたけど、無事だったかなあ」
それだけが心に引っ掛かっている。
しばし、時を忘れた。
「ワン! ワン!」
ペッピーノの吠える声で我に返ると、辺りを見回す。
異世界の森が広がっている。
あの日に帰りたいのに、どうあがいても戻れない。
残酷な現実に直面して、レーナの体は硬直する。
「ワン! ワン!」
ペッピーノが前足をレーナに乗せて吠えた。
「ペッピーノ……」
元気づけてくれるのは、いつもペッピーノだ。
「ありがとう。心配してくれたのね」
「ワン!」
ペッピーノが尻尾を振って、まだまだあると言わんばかりに次々と掘り起こしていった。
「うわ、たくさんある! この辺りって、トリュフの群生地? そう言えば、雷の放電によってトリュフ向きの土地になるため、雷の多い土地では生育がよくなるんだっけ」
いくらでも見つかる。それが面白いのか、ペッピーノはどんどん掘り出していく。
それも、野球ボールぐらいある大物ばかり。
「大豊作ね。でも、こんなにあっても食べきれない。そうだ! これを売って、お金を稼ぐってのはどう?」
レーナは、トリュフを町へ売りに行くことを思いついた。
お金があれば、欲しいものをいろいろと買える。




