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料理対決 VSオノフリオ 11

 会場全体が落ち着いた。


「では、勝者レーナには国王陛下より褒賞を与える」


 生バンドが場を盛り上げる。


「表彰、レーナ・タッソ……」


 レーナが代理人によって表彰されようとするその時だった。

 ガシャン! と大きな音を立てて、近くのテーブルがひっくり返った。

 音に驚いて表彰式は中断された。


「何事だ!」


 音の方向に振り向くと、泥酔状態のポンツィオがひっくり返っていた。


「ウィー!」


 飲み過ぎで目は据わり、足元が覚束ない。それでも立ち上がると、司会に絡みだした。


「わしの娘が勝ったんだろ?」

「ウワ! 酒臭い!」

「俺はレーナの父親だ! 賞金を俺のところへ持ってこい!」


 レーナが慌てて止める。


「止めて! 賞金はないの!」

「なにい? 賞金もないのに、こんな茶番をしたのか!」


 ポンツィオは、レーナをおもいっきり殴った。

 バコン!と大きな音がして、誰もが唖然として目を見張る。


「バカ娘が! 本当にお前はグスでノロマで役立たずだ! このゴクツブシ!」


 どの口が言うと、事情を知っているカルロ王子とランベルトが驚き呆れた。


「もう我慢できない!」


 出ていこうとするカルロ王子を、ランベルトが必死に止めた。


「今はお耐えください! 部下を出しますから」


 近くの部下に命じる。


「おい! あの父親をひっ捕らえて騒ぎを止めよ!」

「ハ!」


 ランベルトの部下が出て行って、ポンツィオの体を拘束した。


「この酔っ払いを向こうへ連れていくぞ!」


 警備員やスタッフが総出で、どこかに連れて行ってしまった。


 ゾーエたちは茫然としている。

 レーナは、公衆の面前で醜態をさらしたポンツィオが恥ずかしくて情けなくて、顔を上げられない。

 痛みで頬がヒリヒリする以上に、心の痛みがレーナを襲う。


「ポンツィオ、逮捕されちゃったの?」

「まさか」

「レーナ、早く助けに行きなさいよ」

「なんで私が?」

「あなたのせいでしょう」


(被害者は私なのに……)


 レーナは、いくら頑張っても報われないことに心底ガッカリした。


(やはり、この家族の自分への扱いは変わらないんだ)


 一時でも家族の絆を信じて喜んだ自分がバカだったのだと泣いた。



 ポンツィオは、数時間後には酔いを醒まして帰ってきた。

 こってり怒られたらしく、しばらくの間は落ち込んでいたが、数日で元気を取り戻して前の飲んだくれに戻った。


 レーナは、騒ぎを起こした責任を取って褒賞を辞退した。

 これについては関係者から考え直すよう再三説得されたが、自分の父親がしたことを考えると、国王陛下の前にとても出られないと固辞した。



 オノフリオは、王室料理人を解雇になったと風の便りで聞いた。協力していたスパルタコは、肉屋の許可証をはく奪されたという。

 今となっては、どうでもいい。



 ――この家に自分の居場所はない。

 絶望のレーナは、家出を決意した。



 *


 風が爽やかな日。

 レーナは、ペッピーノのモフモフな体をずっと撫でていた。


「ねえ、ペッピーノ、私とずっと一緒だよね?」

「ワン!」


 ペッピーノは、無邪気な瞳でレーナに吠える。


「よーし、モフモフしちゃうぞ!」


 ――モフモフモフモフ……。


「ワン!」


 レーナがモフモフする。ペッピーノが元気よくはしゃぐ。またモフモフする。もっとはしゃぐ。


「ねえ、ペッピーノ。私、これから家を出るつもりなんだ」

「ワン!」

「今までのように、美味しいご飯を上げられなくなる。それでも我慢してくれる?」

「クゥーン……」


 レーナの寂しい気持ちが伝わったのか、大人しくなった。心配そうにレーナの顔をペロペロと嘗める。


「そうか。私が不安になれば、ペッピーノも不安になるよね。もう哀しい顔はやめにする!」


 レーナが大きな笑顔を作ると、安心したペッピーノは、「ワン!」と元気よく吠える。


「さ、出発よ」


 レーナは立ち上がった。


 書き置きは残していない。どうせ心配しないだろうから。心配どころか、勝手なことをしたと怒るだろう。


 ポニファーチョも同様。あの人もフランカさえいてくれればいいのだ。だから言伝(ことづて)は必要ない。


「行ってきます、……って、言う必要もないか」


 今までレーナの挨拶に返事があったためしがない。


 歩き出すと、「いってらっしゃい、レーナ」と、奥からヴィオラが初めて言ってくれた。


(こんな時に……)


 最後に挨拶にされるとは思っていなかった。しかも、笑顔で手を振ってくれている。

 ヴィオラとも二度と会うことはないだろう。そう考えただけで、うるっとくる。


「どうしたの?」


 何も言わずに涙を飲んだ。


「何でもない。行ってきます」


 外は明るい。

 行先が居酒屋でないことだけは決まっているが、あてはない。


「さ、どこに行こうか。私たちはもう自由だから、どこに行ってもいいのよ」

「ワン!」


 一人と一匹は、日の当たる道を元気よく歩き出した。

第一部、終わりです。

たくさんのブックマークと評価をありがとうございます。まだの方はぽちっとしていただけると嬉しいです。


第二部では、家出したレーナが新天地で活躍します。

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