料理対決 VSオノフリオ 10
「レーナ」
ワー! と観客の歓声が上がった。
「勝者、レーナ・タッソ!」
「そんな……、そんな……、この私が負けるなんて……、こんなはずでは……」
盤石の態勢で臨んだのに負けたオノフリオは、ガックリと肩を落とす。
「レーナ! やった!」
ゾーエもアリアンナもヴィオラも飛び上がって、喜び、お互いにハグしあった。
家族が喜んでくれたのが、レーナには一番のご褒美だ。
「クソオ!」
オノフリオは、コック帽を下に投げつけた。
自分に投じなかった審査員に食って掛かる。
「この結果はどういうことだ⁉」
「あなたの料理も単体で食べれば美味しいのですが、コースとなるとくどくて……。満腹でももっと食べたいと思えたのが、レーナの料理でした」
オノフリオは、へなへなと腰が砕ける。
「お前たち、裏切ったな!」
「はて? 何のことですかな?」
「私は、自分の味覚を信じて投票しました」
「グググ……」
自分の不正行為を自ら暴くことなどできず、黙って悔しがる。
二人の審査員は、全員がオノフリオに投票したら不自然過ぎて怪しまれると考えて、美味しかったレーナに入れていた。結果、レーナが勝つとまでは予想していなかった。全員買収されていると考えていたからだ。
ところが、一人だけ買収に乗らなかった男がいた。一般審査員だ。
「この人、俺にしょぼい商品券で買収しようとしてきたんだぜ。しかも投票したら渡すというケチ臭さ。投票したところで反故にされてバカを見たくないから、正直に投票したんだ。レーナの料理は全て美味しかったよ」
とんでもない裏事情を大暴露した。
「お前! 適当なことを!」
「俺が審査員に選ばれたら、すぐ遣いをよこしただろ。あの男だ」
青年は、観客に混ざって観戦していたスパルタコを指さした。
「ひぇ……」
突然会場中から注目されて、スパルタコは動揺する。
スタッフから声が飛んだ。
「あれは、オノフリオと取引している肉屋のスパルタコだ!」
王室関係者なら、出入り業者の名前も顔も全て掴んでいる。
「今日の食材もあいつが担当だったな」
「何かやったな」
「こりゃ参った!」
いたたまれなくなったスパルタコは、会場から逃げ出した。
「どうせ他の審査員たちには、俺とは比べ物にならない高額な報酬を渡していたんだろ?」
「うう……」
「そうでなければ、あの料理であんたに投票するなんてありえないからな!」
四人の有識者審査員たちは、目を逸らしたり、閉じたり、汗を掻いたりしている。
司会が審査員たちに問いかける。
「今の話は本当か?」
「……」「……」「……」「……」
四人は、オノフリオの終焉を感じた。このまま失職するだろうと見限り、黙ってうな垂れる。
買収工作が露呈した瞬間だった。
「だ、黙れ! 黙れ!」
「黙るのはあんただ!」
四人と違って何のしがらみもない青年が真っ向から言い返して、二人は言い争いになった。
オノフリオの肩をスタッフが叩く。
「オノフリオさん、あちらで詳しく話をお聞きしましょうか」
「な、何⁉ お、おい! 私は王室総料理長だぞ! 私に触るな! 敬意を示せ!」
オノフリオは暴れた。
「そのお立場が危ういと、気づかれていませんか?」
「ググ……」
別室へ連れて行かれそうになったオノフリオは、最後に頼んだ。
「ちょっと待ってくれ! 一つだけレーナに聞きたい!」
オノフリオは、肉の秘密を確かめずにはいられなかった。
「何でしょう?」
「貴様はあの硬い肉をどうやって柔らかくしたんだ?」
「あら、硬い肉だとよくご存知ですね」
オノフリオは、「しまった!」と、口を塞いだ。
「やっぱり、あなたの策略ですか。外道を置いたのもあなたですね。私が間違って使うと思ったんでしょう。残念でした。外道だって美味しくなるんです」
「う、うるさい!」
「料理人として肉の秘密を知りたいなら、教えて差し上げましょう」
レーナは心が広かった。
「硬い肉は赤ワインに漬けることで、柔らかくなります」
「赤ワインで?」
「そうです。乳酸が肉の繊維を溶かします。店ではヨーグルトを使用しますが、ここになかったので、赤ワインを使いました。赤ワインにも乳酸がたくさん入っているんです」
「安い肉を高い肉に変身させる技があるのか……」
「肉の味は、下ごしらえの有無でいくらでも変わります」
レーナは、ポニファーチョが仕入れた安い肉をいかに美味しくするか、日々、知恵を絞って工夫してきた。
オノフリオは、下ごしらえ不要の高級肉しか使用してこなかった。そのような技を習得する必要がなく、考えたこともなかった。
「今回の料理対決、私があなたの不正を見抜いたことへの報復でしょうけど、負けて残念でしたね。審査員も買収していたようだし、いつもこうやって裏工作でライバルを蹴落としてきたんですか?」
「うるさい! うるさい! 黙れ、小娘!」
「本音が出てますよ。あなたがしてきたこと、全部自分に跳ね返ってきますから」
「やめてくれ!」
「さ、もういいだろう。買収工作に裏工作。他にも聞きたいことがたくさんある。もちろん、審査員の先生たちにもね」
オノフリオは連れていかれた。
真っ青な顔の四人の審査員たちは、誰一人として擁護することなく黙って見送った。
これでオノフリオの全ての不正が暴かれ、今度こそ相応の処分を受けるだろうと、レーナは固く信じた。




