料理対決 VSオノフリオ 8
「次はスープです。先攻はレーナ」
レーナは、玉ねぎを炒めて甘みを出したあとで濾した、シンプルなオニオンスープを出した。
有識者による審査員たちは、顔に心情を出すことなく静かに飲んでいく。
ただ一人、一般から選ばれた審査員だけは、「これは美味い!」といちいち口に出して食べている。
オノフリオは、魚介類のトマトスープを出した。
いよいよ、メインディッシュの番となった。
コース料理の花形で、この一皿で全てが決まると言っても過言ではない。
(ここまでは余興。このメインディッシュによって、どちらが上かはっきり分かる)
肉質が比べ物にならないのだから、オノフリオにとって楽勝である。
「では、私から」
オノフリオが炭火で焼いた仔牛のステーキを出した。乗せられたバターの塊が、熱さで程よく溶けている。
「これは柔らかい」
「味も最高」
「少し噛んだだけで、口の中で溶けるようだ」
最高ランクの仔牛に、今まで黙っていた審査員たちも思わず感嘆の声を上げた。
溶けだしたバターと肉汁が混ざり合い、旨味を引き立たせている。
脂身の少ないサッパリした仔牛肉には、バターを乗せることで物足りなさを補う効果がある。さらに、脂っこさで満腹中枢を刺激しておけば、レーナの料理を受け付けなくなるとオノフリオは計算した。
全員が何度も頷きながら完食した。その満足した様子を見て、誰よりもオノフリオが喜んだ。
(これだけこってりした肉を食べれば、胃袋は十分満たされる。お腹一杯のところに、レーナの硬い肉など受け付けるはずがない。無理して食べることになるだろう。それで美味いと感じるわけがない。これで勝ったも同然だ)
勝ち誇った顔でレーナを見ると、レーナは余裕しゃくしゃくの顔で自分の番を待っている。
(無理しているな。未熟だから、自分が負け戦に駆り出されていることすら気付かないのだ。何の料理を用意しているかまでは知らないが、牛肉の使用を諦めたところで、豚も羊も鶏も似たようなもの。先ほど食べた仔牛のステーキに勝るものなど出せやしない)
見なくても結果が分かっているオノフリオは、次の皿の準備に取り掛かる。
レーナのメインディッシュが審査員に配られた。
用意した皿は牛肉のワイン煮だった。
「ほお、この短時間で煮込んだのか」
「時間が足りなくて、硬いままなんじゃないか?」
審査員たちは、ナイフとフォークで食べようとしたが、「ナイフはいりません。フォークだけでご賞味ください」とレーナが言った。
「はあ?」
オノフリオは、聞き逃さなかった。
(あの硬い肉にナイフなしでは、とても食べられないぞ)
審査員は年寄りが多い。年寄りは顎の力が弱く、歯も弱い。最高級のステーキだから噛み切れるが、レーナの肉はそうはいかない。
オノフリオは、(試合放棄しているな)と確信した。
ところが、審査員たちは普通に食していく。
「なんて旨味のある牛肉だ」
「肉が柔らかい。これならナイフはいらない。もう、歯もいらないんじゃないか?」
審査員たちが笑みまで浮かべて、思わず漏らした感想に度胆を抜かれる。
(どういうことだ?)
オノフリオが驚いてレーナを見ると、レーナもオノフリオの顔を見ていたので慌てて目を逸らした。
(クソオ、あの小娘……。どんな魔法を使ったというのだ)
狙いが外れて、ますます憎しみが募る。
しかし、まだ負けと決まったわけではない。
(メインディッシュが肉なら、サイドディッシュに魚を使うはず。あの外道をどう調理するか、楽しみだ)
もし高級魚の定番料理だったら、偽物を見抜けなかったと指摘して笑いものにしてやろうと考えていた。




