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料理対決 VSオノフリオ 6

 家族より先に会場入りしていたレーナは、割り当てられたブースで待機中だった。

 正面ブースでオノフリオが腕を組んでレーナを睨みつけている。

 ここまで目の仇にするということは、不正をしていたと認めたようなものである。


 司会から、ルール説明を受ける。


「食材は割り当てられたもののみを使うこと。アシスタントは許されていない。自分一人ですべての料理を作ること」


 それぞれの後ろに自分用の食材が置かれている。


「審査員はこちらが選んだ有識者四名と、一名だけ一般代表を入れた。彼らが美味しいと思った方に投じた五票の内、数の多い方が勝ちとなる」

「はい」


 審査員には、彼の一言で店の命運が左右されるという有名グルメ評論家、年間600軒を食べ歩く美食冒険家、世界を公演して回る一流バレエダンサー、上流階級との交流が盛んな人気女優が選ばれている。全員、一流料理に舌が慣れている。

 一般審査員は、先ほど会場内で偶然選ばれた、高級料理に縁のない普通の青年である。


「制限時間は2時間。その間に、前菜3種、スープ、メインディッシュの肉料理、サイドディッシュ、デザートを作ること」

「はい」

「今から30分後にスタートする」

「はい」


 30分でここにある食材を見て、メニューを決めなければいけない。


 レーナは早速見て回った。

 牛肉の塊が薄い布に包まれている。

 他は、羊肉、豚肉、鶏肉、魚、貝、エビ、野菜、レモン、オレンジ、キノコ類。ワインやビールなどの酒類もある。

 大体のメニューを考えて、段取りを計算する。


 パン、パン、パン! と、合図の空砲がさく裂して、赤、青、黄色の煙が大空に広がる。


 司会が元気よく叫んだ。


「お待たせしました! 王室総料理長オノフリオ・トデスキーニと、居酒屋ボニファーチョの店の料理人レーナ・タッソの料理対決を始めます! 審査員の皆様は、出された両者のコース料理を全部食べて、美味しかった方に一票を入れてください。それでは調理開始!」


 レーナは、メイン食材の質を確認しようと、牛肉を包んでいる布を剥がした。


「えー⁉」


 肉の表面を見てショックを受けた。(すじ)だらけで硬くて不味そうだったからだ。

 指で押してみても、カッチカチ。

 慌てて鶏肉を見ると、これも筋ばかりの硬い肉。豚肉も同様。羊肉は臭みのあるマトン。せめて新鮮な子羊(ラム)なら美味しく調理できたのに、それはない。


「これはひどい……」


 王室の承認を得た料理対戦と聞いていたから、最高級の肉が用意されると思い込んでいた。

 揃えられたのは市場でも売れないような廃棄品。

 これではどれだけ味付けが良くても美味しいと感じることは難しい。下手すれば、審査員が吐き出してしまうかもしれない。

 変えて欲しいが、これ以外を使用することは許されていないし時間もない。


「どうしようか……」


 メインディッシュは肉料理と指定されている。やはり牛肉が一番人気だろう。

 品質の悪さを誤魔化すには濃い味付けが必要だが、それで誤魔化しきれるとは思えない。


 困っているレーナの顔を見たオノフリオは、ニヤリと口の端で笑った。


「私の指示通りにやったようだな」


 牛肉も豚肉も最低ランク、鶏肉に至っては、散々卵を産んだ年寄りの雌鶏の肉。硬くて不味くて食べられたもんじゃない。

 通常なら飼料にする肉をスパルタコに用意させて、レーナの食材テーブルに置かせた。

 公平を期すため、使用する食材一式は準備スタッフの検査を受けていたが、オノフリオの差し金で検査後にすり替えられていた。


 当然、自分には王室御料(ごりょう)牧場で飼育された最高品質の肉を用意している。

 メインディッシュに肉料理を指定させたのもオノフリオで、レーナは肉を避けることができない。


「あの硬くて不味い肉では、どれだけ料理の腕が良かろうと私の料理に勝てやしない。この私に恥を掻かせた恨みは一生忘れないからな。ここでお前の料理を完膚なきまでに叩きのめし、人生を終わらせてやる。そう、歴代の王室総料理長たちのようにな」


 オノフリオは、素材を生かした仔牛のステーキで勝負することにした。

はめられたレーナ。起死回生の手立てはあるのか。

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