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料理対決 VSオノフリオ 5

「面白いではないか」


 王は、反対するどころか、やらせてみる気満々だ。


「認めるのですか?」

「このところ、平和が続いて退屈しておった。カルロ王子のお妃探しも進展しないし」

「それは……」


 お妃選びにまったく気乗りしないカルロ王子が、どの娘にも首を縦に振らないで視察と言う名の外遊に出かけてしまうため、選考は滞っていた。


「我が総料理長が負けることはないと思うが、万が一破られた時には、その料理人を呼んで同じ料理を作らせてみよう」


 王は、勝者の料理を食べたがっている。


「必ず王室総料理長は負けます」

「なぜそう言い切れる?」

「相手が街で評判の料理人だからです」

「なるほど。カルロ王子は詳しいな。城下町の視察に精を出すだけのことはある。ますます楽しみになった」


 王は、側近に命じた。


「王室が全面協力するように、各所に連絡をしなさい。必ず、この対決を成功させること。褒賞として、勝者には晩餐会の料理を任す栄誉を与えるとする」

「承知いたしました」


 恭しくかしずくと、伝令に走った。


 *


 王の肝いりで、中央広場には料理対決用の特設会場が設けられた。

 華やかに飾り付けられ、空に空砲が鳴り響き、花を配り、風船を配った。まるでお祭りだ。

 一般人も自由に出入りできるため、多くの人々が集まることを予見した大道芸人や屋台までが勝手に集まり、場の盛り上げに一役買っている。

 楽しい会場にして観客をできるだけかき集めることは、オノフリオの指示であった。

 出来る限り大勢の前でレーナに恥を掻かせる。それが狙いだった。


 会場を見て驚きの声を上げたのは、タッソ家一同だった。


「ヒィィィ! ナニコレ、ナニコレ!」


 アリアンナは怖がっている。


「ワー、ピエロさんがいる! 風船欲しい! 赤がいい!」


 ヴィオラは喜んでいる。


「これは、一体全体、何の騒ぎだい? まさか、これが全部レーナの料理を見るためなのかい?」


 ゾーエは現実を認められないでいる。


 タッソ家でも、王室総料理長の果たし状をレーナが受け取ったことは大事件となっており、泣き面でも冷やかしてやろうとそろって来てみれば、どこのサーカス団がやってきたのか、何のお祭りかと見間違えるほどの大イベントとなっていたので、全員が目を丸くして腰を抜かした。


「もしレーナが勝ったら、王室晩餐会の料理を任せられるという、最高の栄誉に預かれるんだって」

「なんだか信じられないねえ……。あの子の料理にそんな価値がないことは、私たちがよく知っているけど。ねえ、ポンツィオ……」


 ゾーエがポンツィオに話しかけようとして、姿が消えていることに気付いた。


「あれ? ポンツィオは?」

「さっきまでそこにいたけど」


 勝手に一人でどこかへ行ってしまった。


 ポンツィオは、自分の立場なら無料で酒が飲めるんじゃないかと、会場内に置かれている酒樽を探しまわっていた。


「お前、そこで何している」


 警備員に見とがめられると、「本日対戦するレーナ・タッソの父である」と、レーナの名を最大限に利用して逃げた。


「あったぞ! ウホホイ!」


 酒樽を見つけて小躍りする。

 しかし、その前では警備員ががっちり守っている。こういう時こそ、レーナの名前を使う。


「オホン! われは本日対戦するレーナ・タッソの父、ポンツィオ・タッソである。一杯振舞ってはくれぬか」

「はあ? これは料理用。飲ませるわけにはいかぬ!」

「そう固いこと言わんと。こんなに使いきれるはずはないし、どうせ余ったら飲むんだろ?」

「こちらは全て王室の貴重なワインとビール。一般に飲ませることはできない」


 いくら断っても、ポンツィオは諦めない。


 飲ませろ、ダメだと揉めていると、勇ましい騎士姿のランベルトがやってきた。


「何の騒ぎだ」

「この人が、今回料理対決するレーナ・タッソの父親だから酒を飲ませろとしつこいんです」

「あなたがレーナ・タッソの父親?」

「ポンツィオ・タッソだ」


 ポンツィオは、「ヘヘン」と、得意げに鼻の下を人差し指でさする。


 ランベルトの中では、居酒屋に娘を売った印象がレーナの父親にはあるので、許すまじ男である。


(ここでも騒ぎを起こして、自分の娘に恥を掻かすつもりか。本当にくだらない男だ。しかし、追い出してカルロ王子が逆恨みされてもいけない。穏便に済ませた方が得策だろう)


 ランベルトは、近くのスタッフを呼んで命じた。


「王子護衛騎士長ランベルト・カルツォラーリの名で、ポンツィオ・タッソに酒の提供を許可する」

「本気ですか?」


 スタッフは驚いている。


「ああ、好きなだけ飲ませてやれ」


 ポンツィオは大喜びだ。


「あんた、話が分かるね。そうだ! レーナとの結婚を許可しよう」

「固く断る!」


 こんな調子じゃ、誰にでも結婚許可を出しそうだとランベルトは呆れる。


 ポンツィオは、早速ビールを大ジョッキで飲みだした。

 あっという間に飲み干し、今度はワインを飲んだ。それもすぐに飲んでしまう。


「凄い蟒蛇(うわばみ)だ。ランベルトさん、全部飲まれてしまいますよ。料理用なのに足りなくなってしまいます。決して食材を切らすなと上から厳しく言われているのに」

「すぐに追加の樽を運ばせろ」

「ハ! ただいま!」


 スタッフは調達に走った。


「うぃー、もっと飲ませろ!」


 ポンツィオはご機嫌で飲んでいる。


「娘の足を引っ張る、とんでもない親父を持っているな」


 レーナに強く同情した。

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