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料理対決 VSオノフリオ 3

「どうやって、こんな味を出すんだい?」

「九種のスパイスとホウレンソウで作っています」


 具の肉は極上の柔らかさ。繊維がホロホロとほどけて口の中で溶けていく。


「中に入っている肉はマトンだな。マトンは硬くて臭くて嫌いだったが、これはとても柔らかい。魔法でも使ったのか? それとも特別な飼育をした肉でも使っているのか?」

「普通に仕入れたマトンです。それをヨーグルトに漬けて柔らかくしました」

「ヨーグルトで柔らかくなるのか」

「乳酸の力で繊維がほぐれるんです。その上、臭みも取れます」

「へえー、創意工夫だな。こんなに珍しくてうまい料理、王室でも食べられるといいのに」


 ランベルトがぎょっとしてカルロ王子を見た。


(王子!)


 目配せと(くち)パクで必死に伝える。

 カルロ王子は己の失態に気付いた。


(しまった! 身元がばれてしまう!)


 レーナを見ると、幸い後ろを向いていて、別のことに気を取られている。


(ホッ、聞かれていなかったようだ)


 良かったと安堵して食べ進めると、「王室のまかないでも食べられるといいですね。レシピを書きましょうか?」と、振り向き様に言われた。耳が後ろについているかのようだ。


「ブホ!」


 カルロ王子が飲み込んだカレーにむせる。


「ゴホゴホ!」

「大丈夫ですか?」


 ランベルトが阿吽の呼吸でナプキンを手渡した。


「ありがとう」


 それで口を拭いてなんとか落ち着く。


 その様子を見ていたレーナは、微笑んだ。


「ウフフ、お二人とも息ピッタリ。本当に仲が良いですね。親友同士で羨ましいです」


 カルロ王子とランベルトは、お互いの顔を見合わせる。


「親友同士か。そんなこと、考えたことがなかった」


 カルロ王子とランベルトの関係は、幼なじみとか親友とかと少し毛色が違う。

 ランベルトは国王の護衛だった騎士の息子。カルロ王子と生まれ年が同じだったために、国王夫妻から頼まれて学友となっていた。

 気が合って友達になったわけではなかった。最初からずっと主従関係である。

『父は国王を命懸けで守っている。お前もそうするんだ』と、父親から自己犠牲を叩きこまれてきた。


 他にもカルロ王子の学友は数名いるが、今でもカルロ王子と一緒にいるのは護衛になったランベルトだけ。みな、途中でそれぞれの道を進んでいった。

 仕えていく中で、ランベルトはカルロ王子と打ち解けあってきたが、やはり主従関係は打ち破れない。


 長い付き合いのランベルトは、最近のカルロ王子の変化について驚きを持って見守っていた。

 昔のカルロ王子は、今のように謙虚で他人を思いやる性格ではなかった。良くも悪くも小さな帝王で、横暴で利己的であった。


 数か月前、突然高熱を出して1か月ほど床に伏せった。病が治ると、脳の損傷でもあったのか人格が変わっていた。それまでは臣下には絶対服従を命じていたのが、こちらの都合を慮り、命令口調ではなく気さくに話しかけてくるようになった。


 身分を隠して城下町に繰り出すようになったのもその頃からだ。

 庶民の生活実態を視察するという大義名分であったが、カルロ王子自身が誰よりも庶民との交流を楽しんでいる。


 高熱が王子を豹変させたのだという者も多いが、悪い方へ転んだわけではないので悪口陰口を言うものはいない。むしろ、今のカルロ王子なら国王になってもらいたいと王室関係者の間では支持者が増えている。


「私たちは昔から一緒だった」

「幼なじみですか。それも憧れます」


 優しいカルロと真面目なランベルト。お互いのピンチの時には黙って手を差し伸べあい、相手に嬉しいことがあれば我が事のように喜び、悲しい時には一緒に悲しむのだろうとレーナは想像した。


「私に幼なじみはもう無理ですが、なんでも分かち合える親友がいたらなあと思います」


 親友も幼なじみも、作ろうと思って作れるものじゃない。


「いら……、キャ!」


 フランカの小さな悲鳴が上がる。入店してきたごつい男が、接客で近づいたフランカの体を押しのけたのだった。


「ここにレーナという料理人はいるか?」


 ずかずかと入ってきた男は、店内に響き渡る野太い大声でレーナを呼んだ。

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