料理対決 VSオノフリオ 2
「ウッ! 何? この匂い……」
出勤してきたフランカは、鼻をつまんで厨房を覗いた。
そこには、大鍋の中のグリーンのシチューをかき混ぜるレーナの姿があった。
「何を煮込んでいるの?」
「ホウレンソウで作ったグリーンカレー」
「ホウレンソウは分かるけど、グリーンカレーって?」
この異世界ヴェントーネ王国にはカレーがなかった。そこでレーナは新しい料理として店で売りだそうと考えた。
「いろんなスパイスを混ぜて作る、とろみのついたアクアパッツァのシチューってところかしら」
「それにしては匂いが……」
フランカは、大きく息ができない。
「ボニファーチョ、何かいってよ。店内にこの匂いが充満しちゃう」
「私も居酒屋向きじゃないと反対したんだが、今日だけ作らせてくれって、強情なんだよ」
「これが評判になれば、お酒を飲めない客も呼び込めるじゃない? 試食してもらって美味しかったら、期間限定でいいのでメニューに入れてください」
「そこまで言うなら、分かったよ」
レーナの動かす手元を見ながら、フランカが呟いた。
「なんでそんなに熱心なの?」
「どういう意味?」
「女の子はそんなに頑張る必要はないでしょ。最終的にはお金持ちに見初められて素敵な奥様になればいいの。そうすれば、自分で炊事をしなくていいし、荒れた手じゃ、男性に引かれてしまうじゃない」
「私は、結婚したいと思っていないから。一生、料理人として生きていくつもり」
「変なの」
レーナは反論しない。
「フランカは結婚が目標?」
「そうよ。女の子なら誰でも同じでしょ。レーナはカルロと結婚したくないの?」
カルロの顔が頭の片隅にちらついたが、振り払う。
「カルロとは関係ないから」
「信じられない! 好きな人からプロポーズされて、断る勇気があるっていうの?」
「……」
レーナは、黙ってカレーをかき混ぜた。
「開店の時間だぞ」
「はーい」
フランカが外に看板を出すと、一番にカルロとランベルトが入ってきた。
「いらっしゃい!」
早速、レーナがグリーンカレーを勧める。
「今日は新作メニューがありますよ」
「新作とは?」
「他では食べられない、ここだけのグリーンカレーです。手作りのソーダブレッドと一緒に食べると、さらに美味しくなります」
できればライスとセットにしたかったが、ヴェントーネではライスの入手は難しい。かといってパスタとは合わない。そこで、自家製ソーダブレッドとセットにした。
「では、それを二人前頼む」
「はい!」
二人は、出されたグリーンカレーを物珍しそうに眺め、香りを嗅いだ。
「凄い色と匂いだな」
「何とも表現しようがないですね。しかも、ツンと目に刺さるようだ。私が先にいただきましょう」
毒味役として食べようとするランベルトより先に、カルロ王子が口に入れた。
「カルロ……」
驚いたが、レーナの料理に毒味は不要との意思表示だと納得した。
心配して見ていると、カルロ王子の動きが止まった。
「う……、なんてことだ……、これは……」
「どうされましたか⁉」
カルロ王子の異変に、ランベルトはガタンと立ち上がった。
とんでもなく不味いのか、それとも毒でも入っていたかと心配する。
「辛くて美味い!」
カルロ王子は感激していた。
「え? 異変が起きたんじゃないんですか?」
「何を言っている。ランベルトも食べてみろ。とても美味しいぞ」
「分かりました。いただきます」
恐々とスプーンで一口運ぶ。途端に、全身が覚醒したかのようなハイな気分になった。
「んん! これは、辛い! 初めて食べる味だ!」
「ああ、辛い。だけど、辛さに深みがあると思わないか?」
「確かに、分かります。辛いけど、うまい。衝撃的で魅惑的な味だ」
「このグリーンカレーとやらにソーダブレッドをつけると、さらに美味い。いくらでも腹に入っていく」
「ンー、独特の風味、辛味、香り……。全てが五感を刺激して、たまらん」
「ピリッとした辛さがクセになりそうだ」
「だけど、不思議なことに、マイルドなんだよな」
二人が額に汗をにじませて絶賛しながら食べる、食べる。
そのスピードと感想のスピードが拮抗する。
「そんなに美味しい?」
ボニファーチョとフランカは、二人の食べっぷりに驚き唖然とした。
「気に入ってもらえてよかった」
レーナは、美味しく食べる二人を見てとても嬉しくなった。




