料理対決 VSオノフリオ 1
「何い⁉ 失敗しただと⁉」
王室総料理長オノフリオは、レーナの襲撃失敗を報告してきた肉屋のスパルタコに憤怒の形相を向けた。
「残念ながら、図体ばかりでかくて気弱なベアズリーだったようです」
「せっかく大金を支払ったというのに!」
レーナを襲ったベアズリーの件は、全てオノフリオの陰謀によるものだった。
カルロ王子に不正を問い詰められて窮地に陥ったことで、オノフリオはレーナを激しく恨んでいた。
あの場で機転を利かせて模造ワインと粗悪アクアパッツァを川に流さなければ、帳簿と突き合わせられてばれるところだった。
幸い、国王夫妻はお妃選びでそれどころじゃなかったためにことなきを得たが、スタッフたちの前で恥を掻かせられたのは、消しようのない事実。それに、レーナの料理の評判が王室にまで届いてきている。このままでは王室総料理長の座も危うくなるかもしれない。その前に消し去るつもりで、金のためならなんでもする肉屋のスパルタコに金を払ってレーナ抹殺を依頼したのだった。
スパルタコは、猟師に依頼してベアズリーを生きたまま捕獲させた。そいつにレーナを襲わせれば、事故として葬り去ることができると考えたからだ。
レーナが一人になるのを待ってベアズリーを放った。まっすぐレーナに向かっていったときは大成功を確信したが、その後、セルジョに邪魔をされ、ペッピーノに追われて逃げていくとは思わなかった。
「空腹じゃなかったんだろ。仕向ける前にエサを抜かなかったのか? 空腹のベアズリーなら誰にも止められなかったはずだ」
「それが、どうやら世話を任せた者が直前に肉を与えてしまったようです」
「なぜ、飢餓状態にしなかった?」
「暴れて恐ろしかったからだそうです。このまま檻から出したら、真っ先に自分が食われてしまうと怖くなって少しだけ与えたと」
「まったく! 阿呆ばかりで腹が立つ!」
オノフリオは、頭を掻きむしりながら歩き回った。
「こんなことなら、最初から正々堂々と料理勝負を仕掛ければよかった」
「えー⁉」
「そんなに驚くか?」
「あ、いや、すみません」
正々堂々、などという言葉がオノフリオの口から出たことが意外過ぎて、スパルタコは大きく驚いた。この世で一番あり得ない組み合わせ。
ベアズリー襲撃作戦だって、オノフリオのアイデアだった。
(急にどうした?)
昔から策を弄することに長けていて、数々のライバルを蹴落としてきたことを知っている。
性根は腐っているが、オノフリオの料理の腕前は確か。ついに改心したのかとスパルタコは感心した。
「料理の直接対決で、あの生意気な小娘をコテンパンにやっつけてやるんですね」
「そうだ。そこでだ、特別な肉を用意してもらいたい」
ゴニョゴニョと耳打ちされたスパルタコは、(ああ、やっぱり変わらなかったなあ。どこが正々堂々とだよ。一瞬でも見直した俺がバカだった。感心して損した)と呆れた。
「出来るだけ早く用意しろ」
「分かりました。仕入れ先を当たってみます」
「準備ができたら、果たし状をレーナに渡せ。それも、できるだけギャラリーを集める形で。注目されればされるほど良い。逃げることができなくなる。私の名声も口コミで広がり、相反してレーナの評判は地に落ちる。料理人としてすっかり自信を失って包丁を置くまで、私は決して諦めない」
(その粘着、情熱に転換して料理の上達に使えよ!)
スパルタコの心の声が止まらない。
「では、準備が整い次第、小娘に伝えます」
「うむ。その日が楽しみだ。フハハハハ!」
すでに勝った気になったオノフリオは、自慢のカイゼル髭の先を指でねじり上げて笑った。




