襲われたレーナ 5
「きゃああああーーー!」
怯えたレーナが思わず悲鳴を上げる。
「いけない! レーナ!」
ベアズリーと出会ってやってはいけないこと第一位「大声を上げて騒ぐ」をまんましてしまったレーナをセルジョは心配した。
その声でベアズリーがさらに興奮する。
「グアア!」
後ろ足で立ち上がると攻撃態勢を取る。
「ワンワン! ワンワン!」
ペッピーノが必死に威嚇する。
セルジョは、怯えながら木の影でレーナを見守っていた。
(のこのこ出て行ったら、俺までやられてしまう!)
格好よく助けに入りたいが、凶暴なベアズリーが怖くて一歩を踏み出せない。
「グアア!」
「ワワワワワン!」
ペッピーノが自分の命も顧みず果敢に飛びついたが、一撃ではねのけられてしまった。
「ギャイン!」
「ペッピーノ!」
レーナはペッピーノを心配したが、今度はベアズリーが自分に向かってきたので、逃げるしかなかった。
ベアズリーと出会ってやってはいけないこと第二位は「背中を向ける」だ。
「いけない! 背中を向けたら、とびかかられてしまう!」
セルジョはたまらず木の影から飛び出して、レーナとベアズリーの間に入って立ちふさがった。
それは、かつてレーナがペッピーノを助けるために身を挺して庇ったようだ。
「セルジョ!」
「俺に任せろ!」
レーナを安心させようと平気なふりをしたが、内心ではガクガクブルブルしている。
「俺があいつの気を引いている間に、ここから逃げるんだ!」
「そんな! やられてしまうわ!」
「なーに、大丈夫だ。俺はベアズリー相手に相撲の稽古をいつもしていたんだ」
大嘘である。これぐらい言わないと、レーナが逃げないと思ったからだ。
「ヘーイ! こっちだ!」
ベアズリーに向かって大声を出し、大きくに手を動かす。
これでベアズリーの意識をレーナから自分に向けさせる。
「ガオオオ……」
狙い通り、ベアズリーは、四つん這い歩行に戻るとセルジョに向かって突進してきた。
ベアズリーのスピードは、馬ほどではないが、人間よりもはるかに速い。
セルジョは、すかさず近くの大きな木に登った。
「この木なら、さすがにベアズリーも倒せないだろう。ここまでおいで!」
体の大きなベアズリーは、木登りが苦手。山で遭遇したら、背中を向けず、近くの高い場所に登って垂直に逃げるように言われている。
ベアズリーは、セルジョに向けて前足を伸ばしたが、かろうじて届かない。
「レーナ! 今のうちに逃げるんだ!」
「セルジョを見捨てていけない!」
レーナが泣いた。
「俺は大丈夫だから! 逃げろ! その涙は無事に生還したときに取っておいてくれ」
この上なく格好いいセリフを言えたと、セルジョは自分に酔った。
この場所でベアズリーが諦めるまでやり過ごし、戦ってやっつけたと言うつもりだった。
離れた場所で見守るレーナは、セルジョの体がずり落ちていくことに気付いた。
「セルジョ! 体が落ちてきているわ!」
落ちないように必死にしがみつくが、動きがモゾモゾしているのが気になるベアズリーは、前足をしつこく伸ばしてくる。
「あっちへ行けって!」
言葉が通じるわけもなく、ベアズリーはますます興奮した。
果ては、木を倒そうと張り手を繰り出してきた。
「ガオ! ガオ!」
「セルジョ! 頑張って!」
「おう……」
頑張って上るが、すぐにズルズルと落ちてしまう。
腕力にも限界がある。いつまでもしがみついていられない。このままでは、ベアズリーの前足が届いてしまって引きずりおろされるか、自ら落ちるか。
心配したレーナは泣いた。
「ウワアン、セルジョ……」
「クゥーン……」
レーナの泣き声に反応して、ペッピーノが立ち上がった。




