襲われたレーナ 3
注文をさばく合間に、レーナは気になっていたことをカルロに尋ねた。
「ね、あの不正の件はあれからどうなったの?」
「ああ、あれは、証拠隠滅されてしまって、彼はそのまま働いている。疑わしくても証拠がなければ首にできないんだ」
お妃選びで時間を取られている間に、粗悪なワインも質の悪い具のアクアパッツァも全て捨てられてしまったので、仕入れとの差異を証明することができなくなった。
「じゃあ、あのまま総料理長として勤めているのね」
自分の力不足で、王室メンバーに質の悪い食事を提供させているような気までしてしまう。
「悪いことばかりじゃない。あれから仕入れと帳簿をきちんと突き付けて管理するようになったから、前よりは味がよくなったよ」
濃厚バターソースの多様は変わらないが、それでもまだましな味となった。
「本当? それなら良かった」
レーナはホッとした。
少しでも良い方向に向かってくれたのなら、これ以上何も言うことはない。
「君は真面目だね」
カルロに褒められて、ますます照れた。
「ううん。どんな料理人の端くれだって、ウソなく料理するのは当たり前のこと。私利私欲に走った総料理長には、料理界から引退して欲しいぐらい。でも、私が決めることじゃないものね」
「君は素晴らしいよ」
見つめあう二人。
見ていられなくなったフランカは、割って入った。
「はいはい、いつまでくっちゃべってるのよ。カルロ、注文は?」
「もちろん、レーナのアクアパッツァを頼む。それと、サルシッチャだ」
「はい、ただいま」
レーナは料理に取り掛かった。
「アルコールは?」
「赤ワインを」
「ボニファーチョ! 赤一つ!」
「あいよ! レーナを狙うなら、男としてこれぐらいは飲めるよな」
カウンターの向こうからフルボトルを握りしめた太い腕がニョキっと出てきて、ドン!と、置いた。
レーナと良い仲になっているカルロへの祝いの気持ちだ。
「今夜は一人か? いつものお付きの人は?」
「お付きじゃなくて友人です。ランベルトなら、後から来るはずです」
「どう見ても、主と下僕の関係に見えるがね」
「それは私の不徳の致すところですね」
ランベルトの到着を待ちながら一人でワインを飲んだカルロは、酔い潰れてしまった。
遅くに迎えに来たランベルトは、テーブルで寝ているカルロ王子に驚いた。
「カルロ、酔っぱらっているんですか?」
「ウ……」
カルロは声も出せない。
フランカが寄ってきて、「ワインを一本飲んだら、潰れたわ」と、説明した。
「一本も飲んだんですか⁉」
「あなたの到着が遅いからじゃない」
ランベルトは、フランカの顔を見ているうちにドレス姿を思い出して顔を赤らめた。
「顔が赤いけど、どこかで飲んできたの?」
「いや……」
ますます恥ずかしくなったランベルトは、フランカを正視できなくなった。
遅れてきたのも、カルロ王子の言葉のせいである。あれからフランカを変に意識してしまい、店に来るのに気が重くなったからだ。
カルロ王子は泥酔状態。この場をさっさと退散することにした。
「ああ、カルロ、飲み過ぎです。これじゃ、もう無理ですね。連れて帰ります」
「食べていかないの?」
「それどころじゃない。今夜は遠慮しときます」
カルロ王子を起こす。
「カルロ、帰りますよ」
「あ? ああ……、ランベルトじゃないか……」
寝起きの目をこすっている。
「私の肩に掴まってください」
カルロ王子の肩を支えて外に出ると、レーナが追いかけてきて小さな包みを手渡してきた。
「これ、ソーダブレッドです。お腹が空いたら食べてください」
何も口にしていないランベルトが空腹だろうと、手土産を持たせてくれたのだ。
ランベルトは、細かな心遣いに感謝した。
「ありがとう。頂くよ」
「帰り道、お気を付けて」
「ああ。次回はアクアパッツァを食べさせてもらうから」
「お待ちしています」
ランベルトは、フラフラのカルロ王子と帰っていった。




