レーナの秘密 3
とんでもない家族の一員となってしまったレーナだった
最初に怒鳴ってきたおばさんは、ゾーエ。どうやらこの家の母親らしい。
いつも何かの買い物袋を下げて帰ってくるが、中を見せてくれたことはない。
父親らしいおじさんはポンツィオ。いつも赤ら顔ででかい鼻も真っ赤。常に酒瓶を握りしめている。働かない飲んだくれだとすぐに分かった。ワインがあればすぐに飲んでしまうので、調味料で使用する余裕がない。
姉のアリアンナは18歳。お洒落が大好きで、毎日友人たちと遊んでいる。そろそろ結婚させたいからいい男はいないかと、ゾーエは常に言っている。
10歳の妹ヴィオラはまだ幼いので可愛げがある。一応、レーナのことを姉として慕ってくれる。
隣の息子レーモといつも遊んでいる。
ある時、二人が堂々とキスしていたのでビックリした。この辺りでは普通のことのようで、誰も騒がない。気づくとキスしているのですぐに見慣れた。
そして真ん中の自分だ。名前はレーナ。
どうやら搾取子のようで、15歳なのに学校に通わせてもらっていない。一人だけ家事を押し付けられている。
姉妹に比べて、持っているものも明らかに劣っている。
他の家族は新品を着ているが、レーナはくすんだ色でみすぼらしいボロボロの木綿のブラウス、くるぶしまで隠れるロングスカート、エプロン、メイド帽子。何人もの体を経てきたであろう年季の入った古着で、擦り切れたりほつれたりしている。
クローゼットを見ればたくさんの服はあるが、レーナが着ることは禁じていて、許されているのは身に着けている一着のみ。いよいよ着られなくなるまで、次の服は与えられない。
このように一人だけ扱いが悪い。
働いているにもかかわらず、毎晩すきっ腹を抱えて天井を眺めているレーナは、「絶対に負けないんだから」と、持ち前の強気を見せた。
前世でも嫌がらせはたくさん受けてきたが、全て料理一本で返り討ちにしてきた。
告白してきた先輩は、そんな自分の頑張りを認めて好きになってくれた。
もう会うことはないかもしれないが、先輩に見られても恥ずかしくない人生を送りたい。
「見てなさいよ。ここでも料理無双で成り上がってやるから」
訳が分からないまま転生したこの異世界で、綾里はレーナとして生きることを決意した。
幸い、料理の記憶は残っている。和洋中華一通りこなせる。
唯一の武器である料理の腕を使って、ここの人たちを見返してやるのだと、真っ暗な天井に向かって誓った。