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襲われたレーナ 1

 レーナは、カルロが最近店に顔を出してこないことが気がかりだった。

 総料理長の悪事を暴いてしまったことで、とばっちりで首になったんじゃないかと心配していた。


 入ってくる人の顔を確認するが、カルロでなかったらガッカリしてしまう。それはお客様にとても失礼なので、無理して笑顔を作る。


「私、余計な事をしちゃったのかな」


 カルロが来ないと、どれだけ店が盛況しても、レーナの心はどこか寂しい。


 正義を振りかざしたつもりはないが、料理人としてどうしても見過ごせなかった。

 自分が美味しい料理を作るのは、食べた人たちの笑顔のため、幸せのため。

 自分の利益のために、王室の信頼を裏切ったことが許せない。

 だが、それによってカルロに迷惑を掛けるつもりはなかった。


「いじめられていないかなあ」


 レーナは、カルロについて考える時間が増えていた。


「私、最近、変かも」


 いつもカルロのことを気に留めていることに気付いた。そして、その時間はとても幸せを感じる。


「ダメ、ダメ! 仕事中にボーっとしたら事故の元! 集中! 集中!」


 自分の頬を手のひらで軽く叩いてカツを入れる。カルロのことを頭から振り払った。


「レーナ」


 カルロが顔を出した。


「カルロ!」


 たった今、振り払ったばかりなのに、待っていると来ないで、諦めると現れる。

 恋の天使は気まぐれである。


「元気だったかい?」

「私は元気。それよりも、あなたの方が心配」

「私を心配してくれていたんだ。ありがとう」


 カルロがキラキラと爽やかな笑顔をレーナに向ける。


「やだ、何か照れる」


 レーナは軽く体が汗ばんだ。


 たまたま近くで見ていたフランカが、二人の関係にピンときた。


「お二人さん、すっかり、相思相愛じゃない。いつの間にそんな間柄になったのよ」

「やだ! そんなことないから!」

「ハハハ……」


 レーナは必死に否定し、カルロは苦笑した。


「何よ、この爽やかカップルは。なんかムカつく!」


 悔し顔のフランカをボニファーチョがからかった。


「先を越されたなあ」

「は? 全然、悔しくないんだからね! 私にはカルロ王子がいるんだから! あっちは王子様よ!」


 突然自分の名前を叫ばれて、カルロの心臓が緊張した。

 フランカは、目の前にいるのがカルロ王子当人だとは想像もしていない。


「そういえば、カルロはカルロ王子と名前が同じね。カルロには悪いけど、王子とあなたとは比べ物にならないから」


 フランカは、カルロ王子の方が目の前のカルロの数千倍価値あると考えている。


「この国の親たちは、王室にあやかろうと同じ名前を付けたがります。うちもそのパターンですが、私などカルロ王子の足元にも及びません」


 カルロは恭しく謙遜して、さりげなく別人であることを強調した。


「そうよねえ。先日お妃選びに招かれたんだけど、ブルネッラ王女様と同じ名前が35人もいたわよ」


 ブルネッラ王女とは、カルロ王子のすぐ下の妹である。誕生時に名前が発表されるのを待って同じ名前を付けられた女の子たちが、ちょうど対象年齢に成長していた。


「カルロ王子にしてみれば、自分の妹と同じ名前の女性を伴侶にするなんて、やりにくいでしょうね」


 フランカは、ブルネッラ全員が落選しているに違いないと考えていた。

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