カルロ王子のお妃選び 9
とんでもないことに気付いてしまったレーナは、カルロに聞いた。
「このアクアパッツァを食べてみましたか?」
「いや」
「そうですか……。ゴミ箱を見せて貰えませんか?」
「何のために?」
「使った材料を知りたいのです。ゴミ箱を見れば一目瞭然ですから」
その会話を聞いていたオノフリオは、内心(マズイ!)と焦った。
オマール海老もアワビもホタテも、殻だけ使って、具には申し訳程度を使い、あとは似て非なる別物を入れてかさを増していた。
ベテラン料理人なら、生ゴミを見ただけですり替えを見抜くだろう。
このままでは、仕入れを誤魔化して差額を着服しているのがばれてしまうとオノフリオは焦った。
「おい、ゴミを川に流せ!」
急いで証拠を隠滅する。
カルロ王子とレーナがやってきた。
「こちらが総料理長のオノフリオだ」
「初めまして」
オノフリオは、レーナだけでなく、カルロ王子にも慇懃無礼に挨拶した。
スタッフの扮装をしているのに、総料理長が頭を下げるカルロ。それを見て疑いを持たないレーナ。
(この娘、目の前にいるのがカルロ王子と気付かないのか? とんだ節穴だ。こんな奴なら、どうせわかりゃしない)
オノフリオは、心の中で舌を出す。
「ゴミ箱を見せて貰えますか?」
「ゴミ箱でしたら、つい先ほどスタッフが運んでしまいました。もうここにはありません」
この場で見けられなければ、いくらでも言い逃れはできる。
「そうでしたか……。お料理に使ったワインは、まだありますよね?」
「ワイン樽ならそこにありますが」
「これを飲ませていただけませんでしょうか?」
「それは料理用なので……」
「構いません」
近くのスタッフがワイン樽のコルク栓を抜き、グラスに注いでレーナに渡した。
レーナは、グラスを太陽光にかざして色味を見た。ワインとは思えない飴色をしている。
「カルロ、これを見て」
「何だい?」
「これは、白というより茶色です」
カルロもグラスを透かして見る。
「本当だ。でも、調味料用なら、こんなものじゃないのかな」
ワインの色が変でも、アクアパッツァならトマトの赤色で誤魔化せるとレーナは考えた。
匂いを嗅ぎ、口に含んで舌の上で転がす。その場でペッと吐き出した。
「これはまがい物です。とてもワインとは言えない代物です」
「まがい物?」
「料理に使えなくはありませんが、もしこれを正規の値段で購入していたら、酒屋に騙されています。いえ、総料理長なら品質が分かるはずです。分かって使っていますよね。まさか、王様や王妃様のお料理にお使いになっていませんよね」
「何と!」
カルロ王子は吃驚した。
「ギギギ……」
オノフリオは、全て言い当てられて歯ぎしりした。
樽は立派だが中身はまがい物であることは、当然知っている。帳簿上では正規のワインを仕入れたことにして、裏で業者からキャッシュバックさせていた。
まさかレーナのような小娘に見抜かれて、問い詰められるとは思いもしなかった。
それ以上に、王子や大勢の部下たちの前で恥をかかされたことがなによりも腹が立つ。
不正があるなら見過ごせないカルロ王子は、オノフリオに詰め寄った。
「総料理長、それは本当か?」
「いえ、何かの間違いです。私は王室に忠誠を誓っております。決してそのようなことはいたしておりません」
「でも……、アクアパッツァには……」
レーナが反論しようとしたところで、「国王王妃両陛下のお出ましです」と園内放送が流れてしまった。
「あ、いっけなーい!」
レーナは、すっかりアリアンナを忘れていた。急いで戻らなければ、また怒られてしまう。
「私、戻りますね。この続きはまた今度」
レーナは走って行ってしまった。
カルロ王子も城に戻らねばならない。
「この件はあとで調査する。いいか、誤魔化そうとするなよ。それと、アクアパッツァは全部捨てるように。ちゃんとしたワインで一から作り直せ」
オノフリオに命じると、急いだ。
オノフリオは、レーナに激しい憎悪を向けた。
(あの小娘が私の立場を脅かすようなら、何らかの手を打たなくては!)
恐ろしい形相で部下たちに八つ当たりのように命じた。
「その樽に残ったワインを全部川に流せ! 蔵から新しいワインを持ってこい! それと食材もだ! アクアパッツァを作り直すんだ!」
スタッフ総出でワイン樽を入れ替えさせて、新しいアクアパッツァを作った。
「あのボンクラ王子に何かできるわけがない。問題はあの小娘。この私に恥を掻かせやがって。このまま済むと思うなよ」
醜い形相でレーナへの仕返しを必死に考えた。




