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カルロ王子のお妃選び 8

「カルロって、王室の料理スタッフだったんですね? やだわ、私、そんなことも知らずに、居酒屋のおつまみを堂々と出していたなんて」


 小さな居酒屋の厨房と王室料理人。それこそ王室と一般人ぐらい、シェフの世界では評価に差がつく。


「いや、私は料理人じゃないから。レーナの作るアクアパッツァはとても美味しいよ」

「そんな、こちらの料理人の方に怒られちゃいますよ。だって、使われる食材が全然違いますもの」

「高級食材を使えば、そりゃ美味しくなるよ。でも、レーナの料理はどんな食材でも美味しく作るから凄い。それに、あのサルシッチャは君にしか作れない。塩レモンもだ。それはとてもすごいことだ」

「えー、そんなに褒められると恥ずかしいです」


 レーナは本気で照れた。

 カルロと話していると、とても幸せな気持ちになる。


 そんな二人の様子を苦々しく見ている人物がいた。

 ピシッと天を向いたカイゼル髭が威厳的な王室総料理長オノフリオだ。

 総料理長の象徴である、頭三個分の高さはある山高コック帽を被り、真っ白なシェフ服の胸には王から与えられた勲章が輝いている。


 普通のレストランで働いていた彼は野望に満ちた人物で、賄賂を使って王室の厨房に入り込み、前の総料理長や先輩料理人たちを卑劣な手段で追い出し蹴落としてきた。

 消去法でその座に就いたようなものだった。

 そのため、王室料理の味が落ちたと一部では噂になっていた。

 何かすれば報復されそうなので誰も行動せず、嫌気が差して辞めたスタッフも多かった。


 オノフリオは、近くのスタッフに「あの女を知っているか?」と、聞いた。


「町で評判のレーナという料理人です」

「町で評判と言うのは?」

「小さな居酒屋なのに、絶品料理が食べられると大繫盛しているんですよ。それがあの娘が働きだしてからのことで、若い女なのに凄腕料理人だともっぱらの噂です」

「あの小娘が凄腕料理人だと?」


 オノフリオは生意気な娘だとレーナを睨みつけた。


 レーナとカルロは、そんな状態のオノフリオに一切気づかず、二人の世界に浸っている。


「さ、冷めないうちにどうぞ」

「いただきます」


 最初にアクアパッツァのスープを飲んだ。


(あれ? これって……)


 一番強いはずのオマール海老の味が感じられなかったので、もう一度良く味わうが、やはり感じられない。


(変ねえ、オマール海老の味がしない。格別な旨味のある甘い出汁が出るはずなのに)


 不思議に感じて大鍋を見ると、確かにオマール海老の殻が入っている。

 改めて刻まれた具を見てみると、普通のエビやトコブシというアワビに似た食感の貝が入っていることに気付いた。


(この殻は見せかけなんだ!)


 オマール海老の殻で多少の出汁は出るが、身がなければやはり薄まる。


 すぐに飲み込まず、口の中でゆっくり味わってみる。アクアパッツァに使われている白ワインの品質が大幅に劣っていることにも気付いた。


(このスープに使われているワインは、王室で使われるような品質のものじゃないはず。もしかして、粗悪ワインじゃない?)


 かつて、店の仕入れでボニファーチョが酒屋とやりあったことがあった。


 試飲用のワインだけではなく、樽から直接試飲させろと揉めた結果、酒屋に要求を飲ませた。

 それを試飲したボニファーチョがワインの品質にクレームをつけたのだ。


『これはとんでもない粗悪なワインだ』

『そんなことはない』

『いや、これは明らかに味が変だ。それでこの値段? バカにするな!』

『試飲させておいて、それはないだろ』

『うるさい! 騙そうとしたくせに!』


 そのままワインの樽ごと追い返した。


 レーナはボニファーチョに聞いた。


『粗悪なワインが出回っているんですか?』

『最近巷で問題になっている。水にブドウの実の搾りかすと茎を入れて火にかけて、壺で数日間発酵させただけの粗悪なワインが出回っていると。それも、買わせるときにはいいワインを試飲させて騙し、樽の中は別物だという。今のワインもとても飲めた代物じゃなかった。あんなものを客に出せるか!』


 ボニファーチョは、口に残ったワインと共に、「ペッ」と、道端に唾棄した。


 まがい物を売る悪質なワイン業者がいることを、レーナはそこで初めて知った。

 これもそれじゃないかと考えた。

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