カルロ王子のお妃選び 7
料理ブースから美味しそうな匂いが漂ってくる。
大鍋から白い湯気が上り、食欲に耐え切れなくなった人たちが近寄っていく。立ったまま食べられるように、スープ皿ではなくカップに入れて持たせてくれる。
数名が受け取って食べだした。中はアクアパッツァだ。
「王室の料理人が作るアクアパッツァって、どんな味だろう」
興味をそそられたレーナは、「料理を見てくるからここにいて」と、アリアンナに言うとブースに行ってみた。
大鍋を覗いてみると、オマール海老、アワビ、巨大なホタテの殻が浮いていてビックリした。
「すごーい!」
居酒屋では出せない高級食材に感嘆した。
レーナの口には決して入らないだろうこの食材を、どうしても食べてみたくなった。
「アクアパッツァをください」
白シャツに黒のベストとズボンのスタッフが、大鍋から掬ってスープカップに入れると、仕上げにウニを乗せて完成した。
「ウニも乗っているのね。楽しみだわ! いただきます!」
スープを飲もうとしたところで、アリアンナがやってきて怒鳴った。
「ちょっと! 自分だけズルイ!」
「アリアンナはこれから大事な顔見せじゃない」
「その前に一口飲ませてよ。緊張で喉がカラカラなの」
うるさいので自分のアクアパッツァを渡す。
アリアンナは、ゴクゴクゴクゴク……とスープを一気に飲み干し、ウニもオマール海老もアワビもホタテも全部食べられてしまった。一口どころじゃなかった。
「あー、落ち着いた」
満腹になったアリアンナは、戻っていった。
「えー………………」
食べそこなったのでもう一杯貰おうとしたが、スタッフに横の立て看板を黙って指された。
「一人一品につき一皿」と書かれている。
これは、お替りできないということ。つまり、レーナはアクアパッツァを食べられなくなった。
茫然としていると、横から新しいアクアパッツァを差し出された。
「まだ食べていませんよね。アクアパッツァをどうぞ」
「ありがとうございます。あら?」
給仕してくれたのがカルロだったので驚いた。
「カルロ! ここで働いているんですか?」
「やあ、レーナ。そうなんだよ。人手が必要だというので、今日だけ手伝っているんだ。君はお妃選びに参加かい?」
笑顔のカルロ。
「違うんです。私は付き添いです。姉のアリアンナが参加します」
「そうか……」
肩を落としたカルロ王子の気持ちなど、レーナに分かるはずもない。
カルロ王子は、スタッフに扮してお妃候補たちを観察していた。
周囲のスタッフや関係者はもちろん王子だと知っているが、決して口外してはならないと言われていた。
レーナに新しいアクアパッツァを渡したのはカルロ王子の独断だが、誰も文句を言うものはいない。
「君も参加していいんじゃないか?」
「家族総出で姉を盛り立てないといけませんから」
「家族の絆か。いいね」
そんな綺麗事ではないと、レーナは思う。




