レーナの秘密 2
レーナは料理で異世界を切り拓いていく
(これだけで?)
そこにあったのは基本的な調味料である塩、砂糖、ビネガーがあるが、味に深みを与えるブイヨンだのハーブだのワインだのはない。
「あの、ワインはありませんか?」
「ハ? ワイン⁉ そんな贅沢なもの、うちにはないよ! そこにある食材で作るんだよ。早くしな!」
仕方がないので、あるもので作り始める。
ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、トマト、ニンニク。あとは安い肉と市場では値が付かなそうな雑魚だ。
レーナは、ここでの記憶はなかったが、料理に関しては面白いほど頭の中からメニューと調理法が浮かんでくる。
「あとは、ハーブがあれば……」
窓の外を見るとハーブが自生していた。誰も採らないのか、ワッサワッサとはびこっている。あれらを料理に使う人がいないのだろう。
レーナは外に出て、柔らかそうなはっぱを選んで摘んできた。乾燥させれば長く使える万能調味料となる。
名もなき魚を骨ごとソテーする。焼き目が付いたらみじん切りのニンニクとハーブで風味を付け。軽く塩を振ってお湯を入れる。細かく刻んだトマト、ジャガイモ、ニンジンを入れて煮込んでアクアパッツァが完成した。
「魚、嫌ーい」
下の娘は食べず嫌い。味見もしないで皿を遠のける。
しかし、大人たちが食べると、「美味しい!」と驚嘆した。
「え? 昨日までと全然違うんだけど、どういうこと?」
「この魚も捨ててあったものを拾ってきたのに、こんなに美味いのか」
骨を取るのは面倒だが、それを上回る深い味わい。
皆が旨い旨いと言いながら食べるので、下の娘も慌てて食べた。
「骨に気を付けるのよ。丸のみしないように」
レーナの注意に頷きながら、結局残さず食べた。
全員がお替りを何度もして、鍋はすぐに空となった。
「美味しかった!」
「また作って!」
初めて家族から感謝の笑顔を向けられる。
「あれ? 私のは?」
自分の分を取り分けるのを忘れていたレーナは夕食を食べそこない、空腹を抱えて夜を過ごした。
朝になって、ようやく鏡を見たレーナは唖然とした。金髪碧眼美少女になっていたからだ。
とはいえ、長年こき使われてきたからか、肌艶はよろしくない。
それでも以前の鼻ぺちゃヒラメ顔よりは1000倍まし。少しだけ元気が出た。