カルロ王子のお妃選び 5
家に帰ったレーナは、ドレスが乾いた頃だろうと裏庭へ見に行くと、地面に落ちていたので大ショックを受けた。
「どうして⁉ 落ちないようにしっかり止めていたつもりだったのに! 竿ごと落ちているなんて!」
ドレスを拾い上げてチェックすると、泥がたっぷりついていてめまいがした。
「ああ、なんてこと。一緒に店に行ったのだから、ペッピーノの仕業じゃないし。強風でも吹いたのかしら」
アリアンナがやってきて、ドレスの惨状に悲鳴を上げた。
「イヤアアアア! 私のドレスが!」
「アリアンナ……」
「どうしてくれるのよ! この役立たず!」
散々罵ったあげくに泣き出した。
(ああ、いつもこうなる……)
何かを頑張っても、必ずやる気をそがれるような邪魔が入る。それまでの努力が灰燼に帰す。
レーナは、前世から何度もそのような体験をしてきた。
いくら天才料理人ともてはやされても、全然幸せになれない。自分の手で成功をつかみ取ろうとしても寸前で逃げていくのだ。
こうして転生したことも不幸。
自分の人生は、何かに呪われているような気がしてならない。
騒ぎを聞きつけたゾーエとヴィオラがやってきた。
「なんてことだい! レーナ! あんたがしっかりしていないからこうなるんだよ! それとも、アリアンナをやっかんでの嫌がらせかい?」
ゾーエは鬼の形相でレーナを叱った。
自分たちは何もしないで、レーナに責め苦ばかりを与えてくる。
「ウワアアン!」
「おお、よしよし、可愛そうなアリアンナ」
ゾーエは、泣き叫ぶアリアンナを慰めた。
レーナは虚しくなったが、汚名を晴らすためにも嘆いている暇はないと己を奮い立たせる。
「私がやったんじゃありませんが、必ずや汚れを落として、アリアンナを園遊会に参加させてみせます」
ドレスを持ってキッチンに向かった。
かまどで燃え盛る炎に、焦げない距離まで慎重に近づける。
「ドレスを燃やす気かい!」
ゾーエに怒鳴られたが、「大丈夫です」と、無視して続けた。
「泥汚れは乾燥させて払い落とすしかありません。下手にこすると、繊維の奥に入り込んで取れなくなります。そうならないように乾かしているんです」
乾ききったところで、歯ブラシを使って優しく叩いて泥を落としていく。
表面の泥が落ちたら、繊維に入り込んだ泥に布の両側から石鹸を塗りこんでいく。
それをぬるま湯で洗うと、ほとんど染みが見えなくなった。
仕上げに重曹水に浸して全体を洗い直した。
「見てください。綺麗になりました」
アリアンナとゾーエは、汚れが残っていないか意地悪な姑の目つきでチェックした。
昨日に続いて二度洗いとなったドレスは、どこにも染みが無い。
「あら、本当だ。綺麗になっている」
「これなら着ていけるわ」
ゾーエとアリアンナは驚いたが、レーナに謝罪やお礼の言葉を掛けることはなかった。
「レーナって、凄いね!」
ドレスを落とした犯人のヴィオラだけは、尊敬のまなざしでキラキラとレーナを見ていた。




