カルロ王子のお妃選び 4
ボニファーチョの店でも、お妃選びの話題で持ち切りとなっていた。
「うちの娘も参加するんだ」
「俺の娘もだ」
「あの、お前にそっくりな団子鼻の娘が?」
「お前の娘だって、お前にそっくりじゃないか。眉毛がつながっているぞ」
今夜もカルロ王子は、ランベルトを伴い、庶民に紛れてレーナの料理を食べに来ていた。
人々の反応を知りたかったこともあり、何食わぬ顔で聞き耳を立てる。
(レーナは参加するのだろうか)
それが一番気になっていた。
ランベルトは、黙ってワインを飲んでいる。
フランカの嬌声が聴こえると、わずかに目が動く。
フランカは、参加前から己の勝利を確信していて、ボニファーチョに堂々と言ってのけた。
「私が選ばれるって決まっている。他の候補者の皆は、ご苦労様ね」
「ほおー、えらい自信の持ちようだな」
「当然でしょ。私はこの町一番の美女よ。負けるわけがない。絶対にこのチャンスをものにしてやるんだから」
「そうだったのか。それは知らなかった」
ボニファーチョは、大げさに驚いてみせた。
「相変わらず鼻持ちならない女ですよね。あの自信がどこからくるのか、教えて欲しいものです」
ランベルトが小さな声で毒づいた。
「はは、まあ、いいではないか。言うのは自由だ」
カルロ王子は、フランカを面白がっている。
フランカの独壇場は続いている。
「私目当ての客が引きも切らないのに、知らなかったの? 私を雇えていることに感謝するのね」
「ああ、そうだな」
「分かったら、給金を上げてよ」
「考えておこう」
ボニファーチョ相手に堂々と言ってのけるその自信。レーナは少しだけ羨ましい。
フランカはレーナに聞いた。
「レーナも参加するの?」
「我が家はアリアンナが出るので、私はお手伝いです」
「ああ、あの、ゴボウのように細くて色黒の」
フランカがアリアンナの見た目を的確に表現したので、レーナは吹き出しそうになった。
「残念ね。アリアンナは選ばれないわ。だって、私の方が美しいもの。胸も大きいし。参加しても恥を掻くだけだから、あなたから辞退を勧めてはどうかしら」
美しさだけを比べるなら、フランカの言う通りかもしれない。
だが、美しさだけでお妃が決まるとはレーナは思えないでいる。
将来はヴェントーネ王国の王妃、さらにお世継ぎを生んで国母になられるお立場。
人柄、気品、教養、語学力なども考慮されて、厳しいふるいに掛けられるはずである。
アリアンナやフランカが、それらについてどれほど優れているのかなどレーナには分からないが、国中から子女が集まるのだから、もっと素晴らしい候補者もいるのではないかと思う。
いずれにしても、自分には縁のない話。
当日は気楽に見学させてもらうつもりだ。
「ところで、カルロ王子って、どんなお顔をされているのかしら?」
「見たことないんですか?」
「ないわよ。なぜか、姿を見せないの。とてもイケメンだともっぱらの噂だから、悪い虫がつかないように隠しているのかもね」
「へえー、イケメン王子ですか」
「噂通りのイケメンだったら、恋人もいるのかしら。首尾よく結婚できたとしても、愛人をたくさん作ってしまうのかしら」
もう自分が選ばれたかのように、フランカは悲劇のヒロインぶっている。
「浮気者なら辞めたらどうですか?」
「なんでよ! いくら浮気しようが、お妃様になれれば全部どうでもよいわ!」
フランカは、愛より王室入りが重要なようだ。
「私は、嫌ですね」
「なによ。いい子ぶって」
「そういうんじゃないです。私は素敵な夫婦になりたいだけです。相手は王子様だとか庶民だとか身分は関係ありません。その人柄が愛せる人と一緒になりたい」
「お城に住みたいと思わないの?」
「肩寄せ合って暮らせれば充分なので、場所は関係ないです」
フランカは、自分が俗物だと言われたようで腹が立った。
「なにさ、気取っちゃって! 好感度、出しすぎでしょう!」
「好感度なんて、考えたことないです」
「はいはい、レーナ様は高貴な方ですね。こんな店で働いては不本意でしょうね」
王室入りより愛が大事などとほざくレーナに嫌味で返すが、それも届かない。
「こんな店?」
フランカの毒舌は今に始まったことではないが、ボニファーチョもこれにはさすがに呆れて苦笑いした。
一部始終を聞いていたカルロ王子は、レーナの結婚観が自分と似ていると感じた。
それに、何を言われても自分の信じた道を真っ直ぐに歩くレーナ。それがとてもよい。
(当日参加してくれたら、選ぶのに。何かの手違いで参加にならないものだろうか)と、軽くため息を吐いた。




