お忍び王子 10
カルロ王子も可能な限り店に通ったが、どうしても城を抜け出せない日は、ランベルトが一人で行った。
フランカは、「毎晩よく来てくれるね」と、少しだけ愛想よくなった。
「常連として、認めてくれたってことかな?」
「私を口説こうとしても、それは無理だからね」
からかうように言われた。
「思い違いも甚だしい!」
ランベルトは本気で腹立たしくなる。
「アハハ、ちょっとからかっただけじゃない。クソ真面目ねえ」
「それが客に対する態度か」
「怒りっぽいねえ。そんなに怒るとモテないわよ」
すっかりフランカの手のひらの上で転がされている。ランベルトは、それがまた悔しくて歯ぎしりする。
「あと、もうちょっと遊びを覚えた方がいいかもね。遊びはゆとり。張りつめてばかりじゃ、プツンと切れてしまうよ」
「ククウ……、どこまで愚弄するのか……」
「心配してあげてるんじゃない」
フランカは、ランベルトの額をツンと指先で押した。
営業が終わってペッピーノと一緒に帰っていくレーナを遠くから見守るが、何事も起きずに日々過ぎていく。
「いつまでこんなことをしなければいけないのだろうか……」
終わりが見えない。
店ではフランカにからかわれ、営業が終わるとレーナのうしろをこっそりついていく。
「こんなくだらないことのために、鍛錬して騎士になったんじゃない」
不満を抱えても、クソ真面目な性分のランベルトは手を抜けない。
誰も見ていなくても、毎晩きちんと責務をこなした。
フランカは、ランベルトがすっかり自分目当てに通ってくると信じていたが、ある晩、営業を終えて店を出ると、誰かを待っている姿を目撃してしまった。
「やだ、私のことを待っているじゃない。でも、ここで喜んでこっちから声を掛けたら私の負け。そう簡単に射止めることはできないって、思い知らせてやらなきゃ、女が廃れちゃう」
わざと見られるように通り過ぎてから、物陰に素早く隠れて様子を伺う。
自分の姿を見ているはずなのに、ランベルトは微動だにせず。
「追いかけてこないわねえ」
しばらくするとレーナが店から出てきた。
レーナにも声を掛けないが、今度はしっかり見ている。
続けて観察していると、距離を開けてレーナのうしろについていったので驚愕した。
「なに、アレ! レーナが目当てだったの⁉ なにさ、バカにして!」
誤解したフランカは、プンプンと怒って帰った。
翌晩、ランベルトが店に行くとフランカの態度が冷たい。
もともと相手にしていなかったが、何度かオーダーを無視されたことに耐えかねて、強引に呼び止めた。
「少しは客に対する態度を改めた方がいいんじゃないか? 今のままではホール係失格だ」
「ああ、分かったよ。うるさいねえ。お客様、ご注文はいかがいたしましょうか? これでいいんでしょう」
「もしかして、私に怒っているのか?」
「そうじゃないけどさ、お目当てはレーナでしょう。だからあんたに愛想よくする理由もないってこと」
レーナ目当てで通うのは事実だが、理由はフランカの邪推と全然違う。
「お目当てが誰であろうと、客の相手はホール係の仕事だ。それに邪推するな。私は別にレーナを好きなわけじゃない。料理の腕には惚れこんではいるがな」
「そんな言い訳が通じると思って? 仕事終わりのレーナをつけているくせに」
「知っていたのか!」
「見ちゃったの。コソコソしていないで、堂々と口説けば?」
「ち、違うんだ……。これは――」
「フン! 話しかけないで! 気持ち悪い!」
フランカは、そっぽを向いて行ってしまった。
気持ち悪いと罵られたランベルトは、騎士の誇りとか男の誇りとか、いろんなところが傷ついた。
「好きでやっているんじゃないのに、あらぬ誤解を受けてしまった。かといって、正直に打ち明けることも出来ない……。ああー!」
こうなっては、一時も早く解決するしかない。




