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お忍び王子 9

 碇模様のバンダナが丁度良い目印になって、見失うことなく数軒先の居酒屋の裏口から入っていくところまで見届けられた。

 ドアの隙間から覗くと、店主らしき人に頭を下げている。


「無理難題を吹っ掛けて店の評判を落とそうとしましたが、失敗しました」


 先ほどのラーメン作りは、ライバル店の嫌がらせとして仕組まれたものだった。

 男は、絶対に作れないものをオーダーして、客に恥をかかせるつもりかと悪口を言うつもりでいた。

 ところが意に反して、とても美味しいラーメンを作って出されてしまった。

 驚いている間に他の客が食べてその美味しさが知られてしまったため、こんな不味いもの食えるかと嘘で貶めることができなくなった上、レーナの機転と腕の確かさが知れ渡って評判が上がってしまった。

 何から何まで裏目に出てしまって、合わせる顔がない。


「次は必ず成功させてみせますから」

「またお前がいけば怪しまれる。ボニファーチョも抜け目のない男だ。こっちの企みに気付かれてしまう」

「そこは上手くやります」

「そこまで言うなら、もう一度頼んだぞ。あの女料理人が来てからと言うものの、うちの売り上げは減少しっぱなしだ。蚤の市でも、あの女の店のせいでうちの売り上げが落ちた。何とか客足を取り戻すんだ」


 店主は、蚤の市から因縁のある、レーナを逆恨みするマルコーニだった。


「あの女を何とかすればいいんですよね」

「そうだ。どんな手を使ってもいい」

「今度こそ成功させます」


 カルロ王子とランベルトは、ライバル店マルコーニの陰謀であることを知ってしまった。


「何て奴らだ。卑怯なことを」

「売り上げが悪いのは、味の問題だとわからないんですかね」


 しかも、レーナの身に危険が及ぶかのような悪い方向へと話が発展している。


 カルロ王子は、レーナの身を案じた。


「このままではレーナが危ない。ランベルト、何かよい方法はないものだろうか」

「カルロ王子、こういっては何ですが、庶民のいざこざに王室が介入するものではありません。ライバルを蹴落とすことなどよくあることです。これは競争原理の一種。彼らには彼らの世界があります」

「料理の味で蹴落とすなら何も文句はない。だが、卑劣な手段を使うとしたら許せない」

「しかし、どちらも王国の民。王室の人間としては、片方に肩入れすることは許されません」

「レーナの身に何かあったら、国の損失ととらえよ」

「そこまで⁉」

「そうだ。彼女はこのヴェントーネ王国の料理を変える貴重な人材。現に、レモンの有効活用を見い出したではないか」


 どれだけレーナの腕に惚れこんでいるのかと驚いた。


「承知しました。私が見守りましょう」


 カルロ王子の意向を汲んで、ランベルトが店に通ってレーナを守ることになった。

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